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第十二話「側近たちの戸惑いと変化」
「カイ。今日の午後の謁見だが、全てキャンセルしろ」
「はっ……!? し、しかし殿下、隣国の重要な使者が……」
「エリオットと温室で茶を飲む約束がある。それより重要なことなどない」
執務室での、ゼノンと騎士団長カイのやり取り。
主君である皇太子のあまりの豹変ぶりに、カイは戸惑いを隠せないでいた。
以前のゼノンは、私情を一切挟まず、冷徹なまでに公務をこなす仕事の鬼だった。それが今では、エリオットという一人の少年の存在に、いとも容易くスケジュールを捻じ曲げられてしまう。
最初は、カイもエリオットに対して懐疑的だった。
どこの馬の骨とも知れない、か弱そうなオメガ。主君が運命の番だと言うからには逆らえないが、国を惑わす存在になるのではないかと、警戒していたのだ。
しかし、そんなカイの考えは、エリオットと接するうちに少しずつ変わっていった。
彼は、皇太子の番という立場にあぐらをかくことなく、常に謙虚で、誰に対しても礼儀正しい。
そして何より、ゼノンを心から思いやり、癒やしている。
エリオットが調合したハーブティーを飲む時の、ゼノンの安らかな表情。
エリオットが温室で楽しそうに植物の話をするのを、優しい眼差しで見つめるゼノンの姿。
カイは、主君があんなにも穏やかに笑う顔を、今まで一度も見たことがなかった。
エリオットは、氷の仮面で心を閉ざしていたゼノンを、内側から溶かしていく唯一の存在なのだ。
ある日、カイは中庭で、下働きの子供が転んで怪我をしているところに通りかかった。泣きじゃくる子供にどうしたものかとカイが困っていると、偶然通りかかったエリオットが駆け寄ってきた。
「大丈夫? 痛かったね」
エリオットは優しい声で子供をあやすと、懐から小さな軟膏を取り出し、手際よく傷口に塗ってやった。それは、彼が温室のハーブで作った、鎮痛と殺菌効果のある薬だった。
「ほら、もう痛くないよ」
エリオットに頭を撫でられ、子供はすぐに泣き止んで笑顔になった。
その光景を見て、カイは確信した。
この方は、主君を、そしていずれはこの国を、温かい光で照らしてくれる存在になるだろう、と。
「エリオット様」
カイは、初めて彼に向かって、心からの敬意を込めて頭を下げた。
「何かお困りの際は、いつでもこのカイをお呼びください。我が身に代えても、あなた様をお守りいたします」
その言葉に、エリオットは驚いたように目を丸くしたが、やがてふわりと微笑んだ。
氷の皇太子の絶対的な忠臣が、エリオットを主君の番として、心から認めた瞬間だった。
「はっ……!? し、しかし殿下、隣国の重要な使者が……」
「エリオットと温室で茶を飲む約束がある。それより重要なことなどない」
執務室での、ゼノンと騎士団長カイのやり取り。
主君である皇太子のあまりの豹変ぶりに、カイは戸惑いを隠せないでいた。
以前のゼノンは、私情を一切挟まず、冷徹なまでに公務をこなす仕事の鬼だった。それが今では、エリオットという一人の少年の存在に、いとも容易くスケジュールを捻じ曲げられてしまう。
最初は、カイもエリオットに対して懐疑的だった。
どこの馬の骨とも知れない、か弱そうなオメガ。主君が運命の番だと言うからには逆らえないが、国を惑わす存在になるのではないかと、警戒していたのだ。
しかし、そんなカイの考えは、エリオットと接するうちに少しずつ変わっていった。
彼は、皇太子の番という立場にあぐらをかくことなく、常に謙虚で、誰に対しても礼儀正しい。
そして何より、ゼノンを心から思いやり、癒やしている。
エリオットが調合したハーブティーを飲む時の、ゼノンの安らかな表情。
エリオットが温室で楽しそうに植物の話をするのを、優しい眼差しで見つめるゼノンの姿。
カイは、主君があんなにも穏やかに笑う顔を、今まで一度も見たことがなかった。
エリオットは、氷の仮面で心を閉ざしていたゼノンを、内側から溶かしていく唯一の存在なのだ。
ある日、カイは中庭で、下働きの子供が転んで怪我をしているところに通りかかった。泣きじゃくる子供にどうしたものかとカイが困っていると、偶然通りかかったエリオットが駆け寄ってきた。
「大丈夫? 痛かったね」
エリオットは優しい声で子供をあやすと、懐から小さな軟膏を取り出し、手際よく傷口に塗ってやった。それは、彼が温室のハーブで作った、鎮痛と殺菌効果のある薬だった。
「ほら、もう痛くないよ」
エリオットに頭を撫でられ、子供はすぐに泣き止んで笑顔になった。
その光景を見て、カイは確信した。
この方は、主君を、そしていずれはこの国を、温かい光で照らしてくれる存在になるだろう、と。
「エリオット様」
カイは、初めて彼に向かって、心からの敬意を込めて頭を下げた。
「何かお困りの際は、いつでもこのカイをお呼びください。我が身に代えても、あなた様をお守りいたします」
その言葉に、エリオットは驚いたように目を丸くしたが、やがてふわりと微笑んだ。
氷の皇太子の絶対的な忠臣が、エリオットを主君の番として、心から認めた瞬間だった。
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