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第7話「初めての買い物と芽生える想い」
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「明日、街へ買い物に行く」
夕食の席でリアムが唐突に言った。
「お前の服や身の回りのものを揃えたい」
「え、でも、昨日いただいた服で十分です。それに俺が街に出たら、目立ってしまうんじゃ……」
カイの懸念はもっともだった。
男性のオメガはただでさえ珍しく、好奇の目に晒されることは間違いない。
しかし、リアムはこともなげに言った。
「俺がそばにいる。誰もお前に手出しなどさせん」
その力強い言葉に、カイは反論できなくなった。
翌日、カイはリアムに連れられて王都の商業地区へとやってきた。
辺境の町とは比べ物にならない活気と喧騒。
行き交う人々の数も建物の大きさも、何もかもがカイを圧倒した。
カイは人混みに気圧されて、無意識にリアムの服の袖を掴んでいた。
リアムはそんなカイの様子に気づくと何も言わずに、その手をそっと握りしめてくれた。
大きな、節くれだった騎士の手。
その温かさにカイの不安が少しだけ和らいだ。
最初に訪れたのは、仕立ての良い服が並ぶ高級な紳士服店だった。
店主はリアムの顔を見るなり、背筋を伸ばして最敬礼をする。
「これはアークライト騎士団長。ようこそお越しくださいました」
「こいつの服を一通り見繕ってくれ。普段着から正装まで、必要なものを全て」
リアムの言葉に、店主はカイの姿を見て一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐににこやかな笑顔を浮かべた。
「かしこまりました。さあ、こちらへどうぞ」
それから、カイにとっては生まれて初めての体験が始まった。
次から次へと様々な生地やデザインの服をあてがわれ、採寸をされる。
「こちらの空色のシャツは、お客様の髪の色によくお似合いですな」
「こちらのズボンは動きやすくて着心地も良いですよ」
店主の巧みな言葉に乗せられ、あっという間にたくさんの服が決まっていく。
カイはされるがままになっていたが、ふと値札に書かれた数字を見て血の気が引いた。
どれもカイが一生かかっても稼げないような金額だ。
「り、リアム様! こんなにたくさん……! お金が……」
慌ててリアムに耳打ちすると、彼は気にするなとばかりにカイの頭を撫でた。
「お前は俺の番だ。これくらい当然だ。みすぼらしい格好をさせるわけにはいかない」
彼の言葉はカイを所有物として見ているわけではない。
大切にしたい、という気持ちが伝わってきて、カイはそれ以上何も言えなくなった。
服の次は靴屋、日用品店と、次々に店を回っていく。
リアムはカイに必要なものを、一切の妥協なく選んでいく。
その姿はまるで初めて手に入れた宝物を、どう飾ろうか楽しんでいるかのようにも見えた。
買い物に付き合わされているというより、彼自身がこの状況を楽しんでいるのがカイにも分かった。
買い物を終え、両手いっぱいの荷物を従者に持たせて二人は少し休憩することにした。
リアムが連れて行ってくれたのは、大通りから少し入ったところにある静かな雰囲気の喫茶店だった。
運ばれてきたのは香り高いお茶と焼き菓子。
カイが焼き菓子を一口食べると、その素朴な甘さに思わず顔がほころんだ。
「美味しいです」
「そうか」
リアムは自分は手をつけず、ただ嬉しそうにカイが食べるのを見ている。
その視線がなんだか気恥ずかしくて、カイは俯きがちになった。
「……あの、リアム様」
「なんだ」
「どうして……俺なんかに、ここまでしてくださるんですか?」
ずっと胸の中にあった疑問。
運命の番だから、というだけでは説明がつかない気がした。
リアムはお茶のカップを静かに置くと、窓の外に視線を向けた。
「……俺には家族がいなかった」
ぽつりと、彼がこぼした。
「平民の生まれで、物心ついた時から一人だった。生きるために剣を握り、がむしゃらに腕を磨いて今の地位を手に入れた。だが振り返っても、そこには誰もいなかった」
彼の横顔が少しだけ寂しそうに見えた。
いつも自信に満ち溢れている彼の、初めて見る表情だった。
「俺の人生は戦いと、血と、無機質な勝利の繰り返しだった。そこに色などなかった」
リアムは視線をカイに戻す。
その青い瞳がまっすぐにカイを捉えた。
「だが、お前と出会って変わった。お前の作る料理は温かくて、優しくて……俺の世界に初めて色を与えてくれた」
「……」
「だから、これは俺のわがままだ。俺がお前を、そばに置いておきたい。お前の作るものを食べて、お前の笑顔を見ていたい。……それだけだ」
不器用な告白だった。
でもその言葉の一つ一つが、カイの心の奥深くまでじんわりと染み込んでいく。
この人も、孤独だったんだ。
俺と同じように、ずっと一人で生きてきたんだ。
そう思うと胸がきゅっと締め付けられるような、愛おしいような不思議な気持ちになった。
顔が熱い。
きっと耳まで赤くなっているに違いない。
リアムのまっすぐな視線から逃れるように、カイは残りの焼き菓子を口に放り込んだ。
甘くて優しい味がした。
屋敷に帰る馬車の中で、二人の間には気まずいような、でも心地よいような沈黙が流れていた。
カイは握りしめられたままのリアムの手を、そっと握り返した。
リアムが驚いたようにカイを見る。
カイは彼の目を見て、はっきりと告げた。
「俺も……あなたのそばに、いたいです」
その言葉に、氷の騎士の顔がほんの少しだけ優しく綻んだように見えた。
夕食の席でリアムが唐突に言った。
「お前の服や身の回りのものを揃えたい」
「え、でも、昨日いただいた服で十分です。それに俺が街に出たら、目立ってしまうんじゃ……」
カイの懸念はもっともだった。
男性のオメガはただでさえ珍しく、好奇の目に晒されることは間違いない。
しかし、リアムはこともなげに言った。
「俺がそばにいる。誰もお前に手出しなどさせん」
その力強い言葉に、カイは反論できなくなった。
翌日、カイはリアムに連れられて王都の商業地区へとやってきた。
辺境の町とは比べ物にならない活気と喧騒。
行き交う人々の数も建物の大きさも、何もかもがカイを圧倒した。
カイは人混みに気圧されて、無意識にリアムの服の袖を掴んでいた。
リアムはそんなカイの様子に気づくと何も言わずに、その手をそっと握りしめてくれた。
大きな、節くれだった騎士の手。
その温かさにカイの不安が少しだけ和らいだ。
最初に訪れたのは、仕立ての良い服が並ぶ高級な紳士服店だった。
店主はリアムの顔を見るなり、背筋を伸ばして最敬礼をする。
「これはアークライト騎士団長。ようこそお越しくださいました」
「こいつの服を一通り見繕ってくれ。普段着から正装まで、必要なものを全て」
リアムの言葉に、店主はカイの姿を見て一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐににこやかな笑顔を浮かべた。
「かしこまりました。さあ、こちらへどうぞ」
それから、カイにとっては生まれて初めての体験が始まった。
次から次へと様々な生地やデザインの服をあてがわれ、採寸をされる。
「こちらの空色のシャツは、お客様の髪の色によくお似合いですな」
「こちらのズボンは動きやすくて着心地も良いですよ」
店主の巧みな言葉に乗せられ、あっという間にたくさんの服が決まっていく。
カイはされるがままになっていたが、ふと値札に書かれた数字を見て血の気が引いた。
どれもカイが一生かかっても稼げないような金額だ。
「り、リアム様! こんなにたくさん……! お金が……」
慌ててリアムに耳打ちすると、彼は気にするなとばかりにカイの頭を撫でた。
「お前は俺の番だ。これくらい当然だ。みすぼらしい格好をさせるわけにはいかない」
彼の言葉はカイを所有物として見ているわけではない。
大切にしたい、という気持ちが伝わってきて、カイはそれ以上何も言えなくなった。
服の次は靴屋、日用品店と、次々に店を回っていく。
リアムはカイに必要なものを、一切の妥協なく選んでいく。
その姿はまるで初めて手に入れた宝物を、どう飾ろうか楽しんでいるかのようにも見えた。
買い物に付き合わされているというより、彼自身がこの状況を楽しんでいるのがカイにも分かった。
買い物を終え、両手いっぱいの荷物を従者に持たせて二人は少し休憩することにした。
リアムが連れて行ってくれたのは、大通りから少し入ったところにある静かな雰囲気の喫茶店だった。
運ばれてきたのは香り高いお茶と焼き菓子。
カイが焼き菓子を一口食べると、その素朴な甘さに思わず顔がほころんだ。
「美味しいです」
「そうか」
リアムは自分は手をつけず、ただ嬉しそうにカイが食べるのを見ている。
その視線がなんだか気恥ずかしくて、カイは俯きがちになった。
「……あの、リアム様」
「なんだ」
「どうして……俺なんかに、ここまでしてくださるんですか?」
ずっと胸の中にあった疑問。
運命の番だから、というだけでは説明がつかない気がした。
リアムはお茶のカップを静かに置くと、窓の外に視線を向けた。
「……俺には家族がいなかった」
ぽつりと、彼がこぼした。
「平民の生まれで、物心ついた時から一人だった。生きるために剣を握り、がむしゃらに腕を磨いて今の地位を手に入れた。だが振り返っても、そこには誰もいなかった」
彼の横顔が少しだけ寂しそうに見えた。
いつも自信に満ち溢れている彼の、初めて見る表情だった。
「俺の人生は戦いと、血と、無機質な勝利の繰り返しだった。そこに色などなかった」
リアムは視線をカイに戻す。
その青い瞳がまっすぐにカイを捉えた。
「だが、お前と出会って変わった。お前の作る料理は温かくて、優しくて……俺の世界に初めて色を与えてくれた」
「……」
「だから、これは俺のわがままだ。俺がお前を、そばに置いておきたい。お前の作るものを食べて、お前の笑顔を見ていたい。……それだけだ」
不器用な告白だった。
でもその言葉の一つ一つが、カイの心の奥深くまでじんわりと染み込んでいく。
この人も、孤独だったんだ。
俺と同じように、ずっと一人で生きてきたんだ。
そう思うと胸がきゅっと締め付けられるような、愛おしいような不思議な気持ちになった。
顔が熱い。
きっと耳まで赤くなっているに違いない。
リアムのまっすぐな視線から逃れるように、カイは残りの焼き菓子を口に放り込んだ。
甘くて優しい味がした。
屋敷に帰る馬車の中で、二人の間には気まずいような、でも心地よいような沈黙が流れていた。
カイは握りしめられたままのリアムの手を、そっと握り返した。
リアムが驚いたようにカイを見る。
カイは彼の目を見て、はっきりと告げた。
「俺も……あなたのそばに、いたいです」
その言葉に、氷の騎士の顔がほんの少しだけ優しく綻んだように見えた。
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