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第7話「二人きりの夜と、芽生える戸惑い」
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ダリウスに腕を引かれるまま、俺は王宮を抜け出し、彼の屋敷まで連れてこられていた。
彼が用意した馬車の中ではお互いに一言も口をきかなかった。
ただ繋がれたままの手が、熱を持っているのを感じていた。
屋敷に着くと俺は初めて彼のプライベートな空間である私室へと招き入れられた。
そこは城の他の部屋とは違い、彼の個人的な趣味が反映された落ち着いた空間だった。
壁一面の本棚にはびっしりと難しそうな専門書が並び、暖炉の火が静かに揺らめいている。
ダリウスは俺を部屋の中央にあるソファに座らせると、自分は暖炉の前に立ち、その赤い瞳でじっと俺を見つめてきた。
「……先ほどはすまなかった」
静寂を破ったのは彼の謝罪の言葉だった。
「お前の立場を考えず、勝手なことを言った」
彼が言っているのは夜会での「番」発言のことだろう。
俺はかぶりを振った。
「いや……助かった。ありがとう」
「だが、お前を面倒な立場に追い込んだことには変わりない」
「それは、まあ、否定はしないが」
俺が苦笑するとダリウスは暖炉の炎に視線を落とし、ぽつりと言った。
「だが、後悔はしていない」
彼の横顔が炎に照らされて美しく揺らめく。
「お前を侮辱する奴らが許せなかった。……それだけだ」
その言葉に俺の胸がぎゅっと締め付けられる。
彼は本気で俺のために怒ってくれたのだ。
彼はゆっくりと俺の方へ向き直ると、俺の隣に腰を下ろした。
すぐそばで感じる彼の体温に、緊張で体が強張る。
「クリストフ」
彼が初めて俺の名前を呼んだ。
その声は驚くほど優しく響いた。
「お前だけだ。俺の世界に、土足で踏み込んできたのは」
彼の赤い瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。
その瞳の中にいるのは悪徳宰相でも、破滅回避の計画を立てる策士でもなく、ただの俺だった。
「最初は腹立たしいだけの男だと思っていた。目的のために俺を利用しようとしている、と」
「……」
「だがお前は違った。お前は俺の力を恐れず、俺の孤独を理解しようとした。そして俺の力を『祝福』だと言ってくれた」
彼の大きな手がそっと俺の頬に触れる。
その手つきはまるで壊れ物を扱うかのように優しかった。
「俺の世界に入ってくることを、許す」
そう言って彼は静かに告げた。
「だからお前も、俺から離れるな」
その言葉は命令のようでもあり、懇願のようにも聞こえた。
計画は順調に進んでいる。
ラスボスの懐柔はほぼ成功したと言っていいだろう。
安堵すべき場面のはずなのに、俺の心臓は警鐘のように激しく鳴り響いていた。
ダリウスの真っ直ぐな瞳に見つめられ、彼の優しさに触れて、俺の心は大きく揺さぶられていた。
これは破滅回避のため。
これは生き残るための演技だ。
そう自分に何度も言い聞かせる。
だが胸のこのざわめきは、一向に収まってはくれなかった。
彼が用意した馬車の中ではお互いに一言も口をきかなかった。
ただ繋がれたままの手が、熱を持っているのを感じていた。
屋敷に着くと俺は初めて彼のプライベートな空間である私室へと招き入れられた。
そこは城の他の部屋とは違い、彼の個人的な趣味が反映された落ち着いた空間だった。
壁一面の本棚にはびっしりと難しそうな専門書が並び、暖炉の火が静かに揺らめいている。
ダリウスは俺を部屋の中央にあるソファに座らせると、自分は暖炉の前に立ち、その赤い瞳でじっと俺を見つめてきた。
「……先ほどはすまなかった」
静寂を破ったのは彼の謝罪の言葉だった。
「お前の立場を考えず、勝手なことを言った」
彼が言っているのは夜会での「番」発言のことだろう。
俺はかぶりを振った。
「いや……助かった。ありがとう」
「だが、お前を面倒な立場に追い込んだことには変わりない」
「それは、まあ、否定はしないが」
俺が苦笑するとダリウスは暖炉の炎に視線を落とし、ぽつりと言った。
「だが、後悔はしていない」
彼の横顔が炎に照らされて美しく揺らめく。
「お前を侮辱する奴らが許せなかった。……それだけだ」
その言葉に俺の胸がぎゅっと締め付けられる。
彼は本気で俺のために怒ってくれたのだ。
彼はゆっくりと俺の方へ向き直ると、俺の隣に腰を下ろした。
すぐそばで感じる彼の体温に、緊張で体が強張る。
「クリストフ」
彼が初めて俺の名前を呼んだ。
その声は驚くほど優しく響いた。
「お前だけだ。俺の世界に、土足で踏み込んできたのは」
彼の赤い瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。
その瞳の中にいるのは悪徳宰相でも、破滅回避の計画を立てる策士でもなく、ただの俺だった。
「最初は腹立たしいだけの男だと思っていた。目的のために俺を利用しようとしている、と」
「……」
「だがお前は違った。お前は俺の力を恐れず、俺の孤独を理解しようとした。そして俺の力を『祝福』だと言ってくれた」
彼の大きな手がそっと俺の頬に触れる。
その手つきはまるで壊れ物を扱うかのように優しかった。
「俺の世界に入ってくることを、許す」
そう言って彼は静かに告げた。
「だからお前も、俺から離れるな」
その言葉は命令のようでもあり、懇願のようにも聞こえた。
計画は順調に進んでいる。
ラスボスの懐柔はほぼ成功したと言っていいだろう。
安堵すべき場面のはずなのに、俺の心臓は警鐘のように激しく鳴り響いていた。
ダリウスの真っ直ぐな瞳に見つめられ、彼の優しさに触れて、俺の心は大きく揺さぶられていた。
これは破滅回避のため。
これは生き残るための演技だ。
そう自分に何度も言い聞かせる。
だが胸のこのざわめきは、一向に収まってはくれなかった。
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