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第9話「ラスボス vs 主人公」
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聖騎士団長セドリックが王都に帰還してからというもの、俺の周囲はにわかに騒がしくなった。
彼は宣言通り俺の行動を逐一監視し始めたのだ。
廊下ですれ違えば鋭い視線を向けてくるし、俺が誰かと話していれば遠くから聞き耳を立てている気配がする。
そしてそのセドリックの行動を、面白くないと感じている男がもう一人いた。
「……また、あの赤毛の犬が嗅ぎ回っているな」
執務室のソファでいつものように本を読んでいたダリウスが、低い声でつぶやいた。
彼の視線は窓の外、中庭で騎士たちの訓練を監督しているセドリックに向けられている。
「犬とは言い方が悪いぞ、ダリウス。彼はこの国の聖騎士団長だ」
「俺にはお前の周りをうろつく、番犬にしか見えん」
その言い草に俺は思わず苦笑する。
ダリウスはセドリックが俺を監視していることに、かなり早い段階で気づいていた。
そしてそれがどうにも気に入らないらしい。
その日の午後、事件は起きた。
俺が執務室で騎士団との連携についてセドリックと協議をしていた時のことだ。
「――つまり国境警備の増強には、これだけの予算と人員が必要になると。そうお考えなのですね、宰相閣下」
「その通りだ。予算案については私が財務卿と話をつけておこう。人員配置は君に任せる」
俺とセドリックが机に広げた地図を挟んで真剣に話していると、なんの前触れもなく執務室の扉が静かに開いた。
入ってきたのはもちろんダリウスだ。
彼はノックもせずに入ってくると真っ直ぐに俺たちの元へ歩み寄り、俺とセドリックの間に、まるで割り込むようにして立った。
「……何の話だ?」
ダリウスの不機嫌そうな声に、セドリックが眉をひそめる。
「ナイトレイヴン公。ここは宰相閣下の執務室だ。今は公務の最中ゆえ、お引き取り願いたい」
「公務? クリストフ、こいつとお前が二人きりで話さねばならんことなど、何もないはずだが」
ダリウスはセドリックを完全に無視して、俺に問いかけてくる。
その赤い瞳には明らかに「なぜこいつと一緒にいるんだ」という非難の色が浮かんでいた。
板挟みとは、まさにこのことだ。
「ダリウス、これは国務だ。騎士団との連携は重要な……」
俺がなだめようとするがダリウスは聞く耳を持たない。
彼は俺の隣にぴたりと立つと、セドリックを威圧するように見下ろした。
「お前のような若造に、クリストフの時間を無駄にさせるわけにはいかんな」
「なっ……! 若造だと!?」
カチンときたのだろう、セドリックも負けじとダリウスを睨み返す。
「貴方こそ公務の邪魔をするのはおやめいただきたい! 宰相閣下が迷惑されている!」
「迷惑? クリストフは迷惑などではない。なあ?」
ダリウスが同意を求めるように俺の顔を覗き込んでくる。
その顔は大型犬が飼い主に甘えているようにも見えて、俺は思わず言葉に詰まってしまった。
俺を巡るラスボスと主人公による、静かで熾烈な牽制。
一方は剥き出しの独占欲と威圧で、もう一方は揺るぎない正義感と敵意で、互いに火花を散らしている。
結局その日の協議は、二人の睨み合いのせいで全く進まなかった。
頭を抱える俺の横で、「クリストフ、こいつを追い出せ」「閣下、この男を下がらせてください」と口々に主張する二人を見て、俺は心の底から深いため息をついた。
俺の破滅回避計画は、どうやら思わぬ恋愛的な三角関係にまで発展してしまいそうだ。
頼むから俺を巻き込まないでくれ。
彼は宣言通り俺の行動を逐一監視し始めたのだ。
廊下ですれ違えば鋭い視線を向けてくるし、俺が誰かと話していれば遠くから聞き耳を立てている気配がする。
そしてそのセドリックの行動を、面白くないと感じている男がもう一人いた。
「……また、あの赤毛の犬が嗅ぎ回っているな」
執務室のソファでいつものように本を読んでいたダリウスが、低い声でつぶやいた。
彼の視線は窓の外、中庭で騎士たちの訓練を監督しているセドリックに向けられている。
「犬とは言い方が悪いぞ、ダリウス。彼はこの国の聖騎士団長だ」
「俺にはお前の周りをうろつく、番犬にしか見えん」
その言い草に俺は思わず苦笑する。
ダリウスはセドリックが俺を監視していることに、かなり早い段階で気づいていた。
そしてそれがどうにも気に入らないらしい。
その日の午後、事件は起きた。
俺が執務室で騎士団との連携についてセドリックと協議をしていた時のことだ。
「――つまり国境警備の増強には、これだけの予算と人員が必要になると。そうお考えなのですね、宰相閣下」
「その通りだ。予算案については私が財務卿と話をつけておこう。人員配置は君に任せる」
俺とセドリックが机に広げた地図を挟んで真剣に話していると、なんの前触れもなく執務室の扉が静かに開いた。
入ってきたのはもちろんダリウスだ。
彼はノックもせずに入ってくると真っ直ぐに俺たちの元へ歩み寄り、俺とセドリックの間に、まるで割り込むようにして立った。
「……何の話だ?」
ダリウスの不機嫌そうな声に、セドリックが眉をひそめる。
「ナイトレイヴン公。ここは宰相閣下の執務室だ。今は公務の最中ゆえ、お引き取り願いたい」
「公務? クリストフ、こいつとお前が二人きりで話さねばならんことなど、何もないはずだが」
ダリウスはセドリックを完全に無視して、俺に問いかけてくる。
その赤い瞳には明らかに「なぜこいつと一緒にいるんだ」という非難の色が浮かんでいた。
板挟みとは、まさにこのことだ。
「ダリウス、これは国務だ。騎士団との連携は重要な……」
俺がなだめようとするがダリウスは聞く耳を持たない。
彼は俺の隣にぴたりと立つと、セドリックを威圧するように見下ろした。
「お前のような若造に、クリストフの時間を無駄にさせるわけにはいかんな」
「なっ……! 若造だと!?」
カチンときたのだろう、セドリックも負けじとダリウスを睨み返す。
「貴方こそ公務の邪魔をするのはおやめいただきたい! 宰相閣下が迷惑されている!」
「迷惑? クリストフは迷惑などではない。なあ?」
ダリウスが同意を求めるように俺の顔を覗き込んでくる。
その顔は大型犬が飼い主に甘えているようにも見えて、俺は思わず言葉に詰まってしまった。
俺を巡るラスボスと主人公による、静かで熾烈な牽制。
一方は剥き出しの独占欲と威圧で、もう一方は揺るぎない正義感と敵意で、互いに火花を散らしている。
結局その日の協議は、二人の睨み合いのせいで全く進まなかった。
頭を抱える俺の横で、「クリストフ、こいつを追い出せ」「閣下、この男を下がらせてください」と口々に主張する二人を見て、俺は心の底から深いため息をついた。
俺の破滅回避計画は、どうやら思わぬ恋愛的な三角関係にまで発展してしまいそうだ。
頼むから俺を巻き込まないでくれ。
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