処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん

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第11話「竜の力と、絶対的な信頼」

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「魔竜公ダリウス・ナイトレイヴンによる傷害事件」は、瞬く間に王宮を駆け巡った。
 オズワルド財務卿はこれを好機と見てダリウスの危険性を声高に糾弾し、彼に与する貴族たちも同調した。
 事態はダリウスの爵位剥奪や領地没収を求める声にまで発展していた。
 そしてその矛先は当然、彼を擁護してきた俺にも向けられた。

「宰相クリストフは魔竜公に篭絡されている!」

「そうだ、二人で共謀し、国家転覆を企んでいるに違いない!」

 根も葉もない噂が流れ、俺の立場は日に日に悪化していく。
 そしてついにオズワルドの仕掛けた罠が、最終段階へと移行した。
 俺の宰相執務室に近衛騎士団が踏み込んできた。

「宰相クリストフ・フォン・ヴァルディオス! 貴公に国家反逆罪の容疑がかけられた! 大人しく同行願おう!」

 騎士団長が突きつけてきた令状には、俺がダリウスと共謀して隣国に竜涙石を横流ししていたという、信じがたい罪状が記されていた。
 そしてその証拠として、俺のサインが偽造された密約書まで用意されていた。
 あまりにも見え透いた罠。
 だが今の俺にはそれを覆すだけの力がなかった。
 俺は抵抗することなく投獄された。
 冷たく湿った石造りの牢獄の中で、俺は己の無力さを噛み締めていた。
 ダリウスを信じていた。
 だが彼を信じるあまり、敵の狡猾さを見誤っていた。
 誰もが俺の罪を信じて疑わなかった。
 俺がこれまでに行ってきた政策改革で不利益を被った貴族たちは、鬼の首を取ったように俺を非難した。
 俺を監視していたセドリックでさえ、苦々しい表情で「やはり貴方はそういう人間だったのですか」と吐き捨てた。
 絶望的な状況。
 だが不思議と心は落ち着いていた。
 なぜなら俺には確信があったからだ。
(――あの男だけは、俺を信じている)
 その確信はすぐに現実のものとなった。
 ダリウスが俺が投獄されたと知るや否や、王宮に乗り込んできたのだ。
 彼は尋問室でふんぞり返るオズワルドの前に、音もなく現れた。

「……何の用かな、魔竜公。君も共犯者として捕まりに来たのかね?」

 オズワルドが勝利を確信した笑みで言う。
 だがダリウスは全く動じなかった。

「あいつがそんなことをするはずがない」

 ただ静かに、だが絶対的な確信を込めて、彼はそう断言した。

「戯言を! 証拠は全て挙がっておるわ!」

「証拠だと?」

 ダリウスはふっと鼻で笑った。
 彼の瞳は、常人にはない深い輝きを宿している。かつてクリストフが「祝福」と呼んだ、竜の血筋だけが持つ特別な力――その片鱗が、今まさに発揮されようとしていた。
 そして彼の赤い瞳が妖しい光を放ち始める。
 それは竜の血を引く者にしか使えない、万物を見通すと言われる真実の瞳。

「お前のような矮小な人間の浅知恵など、俺の目には全てお見通しだ」

 ダリウスはオズワルドが隠し持っていた不正の証拠――裏帳簿の隠し場所、密会していた商人との金の流れ、輸送隊襲撃を指示した密書――その全てを、まるで見てきたかのように語り始めた。
 オズワルドの顔からみるみる血の気が引いていく。

「な、なぜそれを……ありえん……!」

「終わりだ、オズワルド」

 ダリウスのその一言で全ては決した。
 彼の情報に基づき近衛騎士団が財務卿の屋敷を捜索した結果、不正の証拠が次々と発見された。
 俺にかけられた容疑は晴れ、逆にオズワルドとその一派が国家反逆罪で投獄されることになった。
 牢から出された俺を待っていたのは、無言で佇むダリウスだった。

「……信じていたよ」

 俺がそう言うと彼は少しだけ驚いたように目を見開き、そしてふいと顔を背けた。
 その耳がわずかに赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。

「当たり前だ」

 ぶっきらぼうなその返事に、俺は思わず笑みがこぼれた。
 この絶対的な信頼が俺の心をどれだけ救ってくれたことか。
 俺たちはこの事件を通して、さらに強く、深く結びついたのだった。
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