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第8話「王都再訪、腐敗した白龍堂」
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王都彩雲の門をくぐった瞬間、蓮華は思わず鼻と口を手で覆った。
「うっ……これは……」
空気が悪い。
以前住んでいた時も清浄とは言えなかったが、今の王都には、まるで腐った果実のような甘ったるさと、ドブのような異臭が混ざり合った独特の空気が淀んでいた。
通りを行き交う人々の顔色も悪い。
咳き込む者、肌に不自然な赤い発疹がある者。誰もが疲弊し、何かに怯えているような目をしていた。
「ひどい有様だな」
龍牙が馬車の窓から外を睨みつける。
華やかだった大通りは閑散とし、代わりに路地裏には怪しげな薬売りの露店が並んでいた。
「特効薬だよ! これを飲めば一発で治る!」
「白龍堂の直伝だ! 安いよ!」
どこもかしこも、「白龍堂」の名前を出している。それほどまでに、このブランドは王都の人々に浸透し、そして今や呪いのように縛り付けているのだ。
「まずは、敵の城を見ておくか」
龍牙の提案で、二人は馬車を降り、白龍堂の本店へと向かった。
王都の一等地にそびえ立つ、白亜の豪邸のような店舗。
その前には、長蛇の列ができていた。
「並んでください! 順番です!」
「金貨五枚以下の貧乏人は帰れ!」
店の前では、警備員たちが怒号を飛ばし、疲れ果てた庶民を追い払っている。
蓮華はその光景を見て、胸が締め付けられる思いだった。
かつて祖父が店主だった頃は、貧しい人にも薬を分け与えるような慈悲深い店だったはずなのに。
列の先頭では、派手な衣装をまとった青年が、高い台の上から演説をしていた。
異母弟だ。
「さあさあ、これが我が白龍堂が開発した『奇跡の聖水』です! これを飲めば、どんな病もたちどころに消え失せる! ただし、材料が希少なため、お値段は少々張りますがね!」
彼が掲げているのは、ピンク色に輝く液体が入った小瓶だった。
キラキラと光り、甘い香水を振りかけたような湯気が立っている。
しかし、蓮華の目には違って見えた。
『痛い、痛い』
『苦しい、助けて』
瓶の中の液体から、悲鳴のような声が聞こえてくる。
そして視覚的にも、その液体はピンク色ではなく、ドス黒いヘドロの中にトゲのようなものが蠢いているように見えた。
「あれは……薬じゃない。毒だ」
蓮華がつぶやくと、龍牙が眉をひそめた。
「毒だと?」
「はい。見た目を良くするために、幻覚作用のある『夢見草』と、防腐剤代わりの水銀を混ぜています。一時的に痛みは麻痺するけれど、体の中で毒素が蓄積されて……最後には内臓が壊死してしまう」
蓮華は震える声で説明した。
薬師として、許せない冒涜だ。人の命を金儲けの道具としか思っていない。
その時、列の中で騒ぎが起きた。
薬を買ったばかりの老婆が、その場で倒れたのだ。
「お婆ちゃん! しっかりして!」
付き添いの少女が泣き叫ぶ。
老婆は口から泡を吹き、痙攣している。
「おい、どうなってるんだ!」
「薬を飲んだのに倒れたぞ!」
群衆がざわめき始める。
しかし、台の上の異母弟は冷ややかな目でそれを見下ろした。
「ふん、運のない婆さんだ。寿命だったんだろう。店の前で死なれては迷惑だ、早くどかしたまえ」
警備員たちが老婆を引きずろうとする。
その非道な行いに、蓮華の中で何かが切れた。
「やめてください!」
蓮華は人混みをかき分け、老婆の元へと駆け寄った。
フードを脱ぎ捨て、老婆の脈を取る。
「ど、どこぞの誰かは知らんが、営業妨害だぞ!」
異母弟が叫ぶが、蓮華は無視した。
老婆の顔色は土気色。呼吸が止まりかけている。
一刻の猶予もない。
「龍牙さん、水筒を!」
「おう!」
背後から龍牙が水筒を投げる。
蓮華は懐から小袋を取り出し、中に入っていた緑色の粉末を水筒の水に溶かした。
見た目は泥水。だが、強烈な薬草の香りが漂う。
蓮華は老婆の上体を起こし、それを少しずつ飲ませた。
「おいおい、なんだその汚い水は! 婆さんを殺す気か!」
異母弟が嘲笑う。
しかし、数秒後。
老婆の痙攣が止まり、大きく息を吸い込んだ。
「……あ、ああ……」
老婆の顔に赤みが戻る。
群衆が息を呑んだ。
「助かった……のか?」
「あの泥水で?」
蓮華は老婆の背中をさすりながら、台の上の異母弟を睨みつけた。
「これが、あなたがたの売っている薬の正体です。一時的な快楽のために、人の命を削る毒だ」
異母弟は蓮華の顔を見て、目を見開いた。
「お、お前は……白 蓮華!?」
その名前が呼ばれた瞬間、店の中から恰幅の良い男が現れた。
父、白 厳山だ。
「蓮華だと? 追放された無能が、どの面下げて戻ってきた!」
厳山は怒りで顔を真っ赤にし、指を突きつけた。
「衛兵! 衛兵を呼べ! この男は我が店の秘薬を盗み出し、粗悪品を売り歩いている犯罪者だ! 今すぐ捕らえろ!」
厳山の声に応じ、王都の警備兵たちが槍を構えて集まってくる。
しかし、蓮華は一歩も引かなかった。
その隣に、すっと龍牙が並び立つ。
「俺の連れに手を出そうってのか? 命知らずな奴らだ」
龍牙が放つ圧倒的な覇気に、警備兵たちの足が止まる。
腐敗した王都の象徴である白龍堂の前で、真実と嘘の戦いが始まろうとしていた。
「うっ……これは……」
空気が悪い。
以前住んでいた時も清浄とは言えなかったが、今の王都には、まるで腐った果実のような甘ったるさと、ドブのような異臭が混ざり合った独特の空気が淀んでいた。
通りを行き交う人々の顔色も悪い。
咳き込む者、肌に不自然な赤い発疹がある者。誰もが疲弊し、何かに怯えているような目をしていた。
「ひどい有様だな」
龍牙が馬車の窓から外を睨みつける。
華やかだった大通りは閑散とし、代わりに路地裏には怪しげな薬売りの露店が並んでいた。
「特効薬だよ! これを飲めば一発で治る!」
「白龍堂の直伝だ! 安いよ!」
どこもかしこも、「白龍堂」の名前を出している。それほどまでに、このブランドは王都の人々に浸透し、そして今や呪いのように縛り付けているのだ。
「まずは、敵の城を見ておくか」
龍牙の提案で、二人は馬車を降り、白龍堂の本店へと向かった。
王都の一等地にそびえ立つ、白亜の豪邸のような店舗。
その前には、長蛇の列ができていた。
「並んでください! 順番です!」
「金貨五枚以下の貧乏人は帰れ!」
店の前では、警備員たちが怒号を飛ばし、疲れ果てた庶民を追い払っている。
蓮華はその光景を見て、胸が締め付けられる思いだった。
かつて祖父が店主だった頃は、貧しい人にも薬を分け与えるような慈悲深い店だったはずなのに。
列の先頭では、派手な衣装をまとった青年が、高い台の上から演説をしていた。
異母弟だ。
「さあさあ、これが我が白龍堂が開発した『奇跡の聖水』です! これを飲めば、どんな病もたちどころに消え失せる! ただし、材料が希少なため、お値段は少々張りますがね!」
彼が掲げているのは、ピンク色に輝く液体が入った小瓶だった。
キラキラと光り、甘い香水を振りかけたような湯気が立っている。
しかし、蓮華の目には違って見えた。
『痛い、痛い』
『苦しい、助けて』
瓶の中の液体から、悲鳴のような声が聞こえてくる。
そして視覚的にも、その液体はピンク色ではなく、ドス黒いヘドロの中にトゲのようなものが蠢いているように見えた。
「あれは……薬じゃない。毒だ」
蓮華がつぶやくと、龍牙が眉をひそめた。
「毒だと?」
「はい。見た目を良くするために、幻覚作用のある『夢見草』と、防腐剤代わりの水銀を混ぜています。一時的に痛みは麻痺するけれど、体の中で毒素が蓄積されて……最後には内臓が壊死してしまう」
蓮華は震える声で説明した。
薬師として、許せない冒涜だ。人の命を金儲けの道具としか思っていない。
その時、列の中で騒ぎが起きた。
薬を買ったばかりの老婆が、その場で倒れたのだ。
「お婆ちゃん! しっかりして!」
付き添いの少女が泣き叫ぶ。
老婆は口から泡を吹き、痙攣している。
「おい、どうなってるんだ!」
「薬を飲んだのに倒れたぞ!」
群衆がざわめき始める。
しかし、台の上の異母弟は冷ややかな目でそれを見下ろした。
「ふん、運のない婆さんだ。寿命だったんだろう。店の前で死なれては迷惑だ、早くどかしたまえ」
警備員たちが老婆を引きずろうとする。
その非道な行いに、蓮華の中で何かが切れた。
「やめてください!」
蓮華は人混みをかき分け、老婆の元へと駆け寄った。
フードを脱ぎ捨て、老婆の脈を取る。
「ど、どこぞの誰かは知らんが、営業妨害だぞ!」
異母弟が叫ぶが、蓮華は無視した。
老婆の顔色は土気色。呼吸が止まりかけている。
一刻の猶予もない。
「龍牙さん、水筒を!」
「おう!」
背後から龍牙が水筒を投げる。
蓮華は懐から小袋を取り出し、中に入っていた緑色の粉末を水筒の水に溶かした。
見た目は泥水。だが、強烈な薬草の香りが漂う。
蓮華は老婆の上体を起こし、それを少しずつ飲ませた。
「おいおい、なんだその汚い水は! 婆さんを殺す気か!」
異母弟が嘲笑う。
しかし、数秒後。
老婆の痙攣が止まり、大きく息を吸い込んだ。
「……あ、ああ……」
老婆の顔に赤みが戻る。
群衆が息を呑んだ。
「助かった……のか?」
「あの泥水で?」
蓮華は老婆の背中をさすりながら、台の上の異母弟を睨みつけた。
「これが、あなたがたの売っている薬の正体です。一時的な快楽のために、人の命を削る毒だ」
異母弟は蓮華の顔を見て、目を見開いた。
「お、お前は……白 蓮華!?」
その名前が呼ばれた瞬間、店の中から恰幅の良い男が現れた。
父、白 厳山だ。
「蓮華だと? 追放された無能が、どの面下げて戻ってきた!」
厳山は怒りで顔を真っ赤にし、指を突きつけた。
「衛兵! 衛兵を呼べ! この男は我が店の秘薬を盗み出し、粗悪品を売り歩いている犯罪者だ! 今すぐ捕らえろ!」
厳山の声に応じ、王都の警備兵たちが槍を構えて集まってくる。
しかし、蓮華は一歩も引かなかった。
その隣に、すっと龍牙が並び立つ。
「俺の連れに手を出そうってのか? 命知らずな奴らだ」
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