12 / 13
番外編「新婚生活と甘い媚薬」
しおりを挟む
翠玉村に戻ってから半年。
村の外れにある蓮華堂は、今日も朝から大忙しだった。
王都での武勇伝は尾ひれをつけて広まり、今や国中から蓮華の薬を求めて客が訪れるようになっていた。店先には行列ができ、村の宿屋も連日満室だ。村全体が活気に満ち溢れている。
「はい、お大事に。次は三日後に来てくださいね」
最後の客を見送り、蓮華はふうと息をついた。
エプロンを外し、凝り固まった肩を回す。
「お疲れさん」
店の奥から、龍牙が現れた。
彼は現在、国境警備の任務を部下に任せ、長期休暇を取って蓮華の手伝いをしている。……というのは建前で、実際は新婚生活を満喫するために居座っているだけだ。
最強の冒険者が薬草を刻んだり、重い荷物を運んだりする姿は、最初は村人たちを驚かせたが、今ではすっかり馴染みの光景になっていた。
「ありがとう、龍牙さん。おかげで助かりました」
「礼には及ばん。……それより、精が出るな。また新しい薬か?」
龍牙が作業台を覗き込む。
そこには、ピンク色の可愛らしい花が乾燥させられていた。
「ええ、『恋心草(こいごころそう)』って言うんです。血行を良くして、肌をツヤツヤにする効果があるんですけど……」
蓮華は困ったように頬をかいた。
「調合を間違えると、ちょっと強い興奮作用が出ちゃうみたいで」
「興奮作用?」
龍牙が眉を上げる。
「はい。体が熱くなって、ドキドキして……いわゆる、惚れ薬みたいな」
その瞬間、龍牙の目の色が変わった。金色の瞳がギラリと光る。
「ほう……それは危険だな。俺が毒味をしてやろうか?」
「えっ!? だ、ダメですよ! 龍牙さんには必要ありません!」
蓮華は慌てて花を隠そうとしたが、龍牙の長い腕に捕まり、そのまま後ろから抱きすくめられた。
耳元で、低い声がささやく。
「必要ない? 俺はいつだって、お前を見ると理性が飛びそうになるんだが」
「り、龍牙さん……お店、まだ閉めてないのに……」
「札は『準備中』に変えてきた。……蓮華、いい匂いだ」
龍牙が首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
彼の熱い吐息と、アルファ特有の支配的なフェロモンに当てられ、蓮華の足がカクンと崩れそうになる。
番(つがい)になってから、互いのフェロモンの影響力は増すばかりだ。特に龍牙は、蓮華に対して過保護で、独占欲が強くなっていた。
「あ、んっ……くすぐったいです……」
「肌艶を良くする薬なんて要らん。お前は今のままで十分綺麗だ」
龍牙の手がエプロンの下へと滑り込む。
粗野な指先が、敏感な脇腹をなぞる。
「龍牙さん……待って……」
「待てない。……お前のフェロモンが、俺を誘ってるのが悪い」
強引に体を反転させられ、カウンターに押し付けられる。
重なる唇。
甘くて、溶けるような口づけ。
薬草の香り漂う店内で、二人の影は深く絡み合った。
結局、その日の「恋心草」の研究は中断され、蓮華は翌朝、腰の痛みと首筋についた赤い痕を隠すのに苦労することになった。
最強のアルファにとって、愛するオメガこそが、どんな秘薬よりも強力な媚薬なのだと、蓮華は身を持って知らされたのだった。
村の外れにある蓮華堂は、今日も朝から大忙しだった。
王都での武勇伝は尾ひれをつけて広まり、今や国中から蓮華の薬を求めて客が訪れるようになっていた。店先には行列ができ、村の宿屋も連日満室だ。村全体が活気に満ち溢れている。
「はい、お大事に。次は三日後に来てくださいね」
最後の客を見送り、蓮華はふうと息をついた。
エプロンを外し、凝り固まった肩を回す。
「お疲れさん」
店の奥から、龍牙が現れた。
彼は現在、国境警備の任務を部下に任せ、長期休暇を取って蓮華の手伝いをしている。……というのは建前で、実際は新婚生活を満喫するために居座っているだけだ。
最強の冒険者が薬草を刻んだり、重い荷物を運んだりする姿は、最初は村人たちを驚かせたが、今ではすっかり馴染みの光景になっていた。
「ありがとう、龍牙さん。おかげで助かりました」
「礼には及ばん。……それより、精が出るな。また新しい薬か?」
龍牙が作業台を覗き込む。
そこには、ピンク色の可愛らしい花が乾燥させられていた。
「ええ、『恋心草(こいごころそう)』って言うんです。血行を良くして、肌をツヤツヤにする効果があるんですけど……」
蓮華は困ったように頬をかいた。
「調合を間違えると、ちょっと強い興奮作用が出ちゃうみたいで」
「興奮作用?」
龍牙が眉を上げる。
「はい。体が熱くなって、ドキドキして……いわゆる、惚れ薬みたいな」
その瞬間、龍牙の目の色が変わった。金色の瞳がギラリと光る。
「ほう……それは危険だな。俺が毒味をしてやろうか?」
「えっ!? だ、ダメですよ! 龍牙さんには必要ありません!」
蓮華は慌てて花を隠そうとしたが、龍牙の長い腕に捕まり、そのまま後ろから抱きすくめられた。
耳元で、低い声がささやく。
「必要ない? 俺はいつだって、お前を見ると理性が飛びそうになるんだが」
「り、龍牙さん……お店、まだ閉めてないのに……」
「札は『準備中』に変えてきた。……蓮華、いい匂いだ」
龍牙が首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
彼の熱い吐息と、アルファ特有の支配的なフェロモンに当てられ、蓮華の足がカクンと崩れそうになる。
番(つがい)になってから、互いのフェロモンの影響力は増すばかりだ。特に龍牙は、蓮華に対して過保護で、独占欲が強くなっていた。
「あ、んっ……くすぐったいです……」
「肌艶を良くする薬なんて要らん。お前は今のままで十分綺麗だ」
龍牙の手がエプロンの下へと滑り込む。
粗野な指先が、敏感な脇腹をなぞる。
「龍牙さん……待って……」
「待てない。……お前のフェロモンが、俺を誘ってるのが悪い」
強引に体を反転させられ、カウンターに押し付けられる。
重なる唇。
甘くて、溶けるような口づけ。
薬草の香り漂う店内で、二人の影は深く絡み合った。
結局、その日の「恋心草」の研究は中断され、蓮華は翌朝、腰の痛みと首筋についた赤い痕を隠すのに苦労することになった。
最強のアルファにとって、愛するオメガこそが、どんな秘薬よりも強力な媚薬なのだと、蓮華は身を持って知らされたのだった。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
エリートαとして追放されましたが、実は抑制剤で隠されたΩでした。辺境で出会った無骨な農夫は訳あり最強αで、私の運命の番らしいです。
水凪しおん
BL
エリートαとして完璧な人生を歩むはずだった公爵令息アレクシス。しかし、身に覚えのない罪で婚約者である王子から婚約破棄と国外追放を宣告される。すべてを奪われ、魔獣が跋扈する辺境の地に捨てられた彼を待っていたのは、絶望と死の淵だった。
雨に打たれ、泥にまみれたプライドも砕け散ったその時、彼を救ったのは一人の無骨な男、カイ。ぶっきらぼうだが温かいスープを差し出す彼との出会いが、アレクシスの運命を根底から覆していく。
畑を耕し、土に触れる日々の中で、アレクシスは自らの体に隠された大きな秘密と、抗いがたい魂の引力に気づき始める。
――これは、偽りのαとして生きてきた青年が、運命の番と出会い、本当の自分を取り戻す物語。追放から始まる、愛と再生の成り上がりファンタジー。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる