13 / 13
エピローグ「数年後の家族」
それから、数年の月日が流れた。
翠玉村の蓮華堂は、増築を重ねて立派な屋敷になっていた。
庭には色とりどりの薬草が植えられ、風に乗って優しい香りを漂わせている。
「パパ! 見て見て! おっきなカブ!」
元気な声と共に、庭から小さな男の子が駆け込んできた。
泥だらけの手には、自分に顔ほどの大きさがある薬草の根を抱えている。
黒髪に、金色の瞳。龍牙に瓜二つの息子、陽(ヨウ)だ。
「こらこら、陽。廊下を走っちゃダメだって言っただろう」
蓮華が苦笑しながらタオルを持って迎える。
少し大人びた顔つきになったが、その穏やかな雰囲気は変わらない。
ただ一つ変わったのは、左手の薬指に光る指輪と、首筋に残る番(つがい)の証だ。
「だって、お庭の草さんが『抜いてー』って言ったんだもん!」
陽は無邪気に笑った。
この子もまた、蓮華と同じように植物の声を聞く力を持って生まれてきた。しかも、龍牙譲りの体力と魔力も兼ね備えている。将来が楽しみでもあり、末恐ろしくもある。
「でかしたぞ、陽! そいつは上等な『大地の根』だ。今夜のスープに入れよう」
奥から龍牙が現れ、陽を高い高いと持ち上げた。
その顔は、かつての「国境の鬼」とは思えないほどにデレデレだ。彼は完全に親バカになっていた。
「あなた、甘やかさないでください。泥だらけのままだと、お店が汚れちゃいます」
「いいじゃないか。店は繁盛してるし、俺たちが幸せなら文句はないはずだ」
龍牙は豪快に笑い、空いた片腕で蓮華の腰を抱き寄せた。
「……まあ、そうですね」
蓮華もつられて微笑んだ。
店には今日も、遠方から多くの客が訪れている。
見た目は悪いが効果抜群の「泥薬」は、今やこの国のスタンダードになりつつあった。王都の支店も順調で、かつての弟も改心し、一から修行を始めているという手紙が届いたばかりだ。
全てが、丸く収まった。
「愛してるぞ、蓮華。陽」
「僕もだよ、パパ!」
「……はい、僕もです」
家族三人の笑い声が、温かな日差しの中に溶けていく。
かつて捨てられた場所で芽吹いた小さな種は、雨風に耐え、大きな愛を受けて、今、大輪の花を咲かせていた。
その香りは、これからもずっと、この場所を優しく包み込んでいくことだろう。
翠玉村の蓮華堂は、増築を重ねて立派な屋敷になっていた。
庭には色とりどりの薬草が植えられ、風に乗って優しい香りを漂わせている。
「パパ! 見て見て! おっきなカブ!」
元気な声と共に、庭から小さな男の子が駆け込んできた。
泥だらけの手には、自分に顔ほどの大きさがある薬草の根を抱えている。
黒髪に、金色の瞳。龍牙に瓜二つの息子、陽(ヨウ)だ。
「こらこら、陽。廊下を走っちゃダメだって言っただろう」
蓮華が苦笑しながらタオルを持って迎える。
少し大人びた顔つきになったが、その穏やかな雰囲気は変わらない。
ただ一つ変わったのは、左手の薬指に光る指輪と、首筋に残る番(つがい)の証だ。
「だって、お庭の草さんが『抜いてー』って言ったんだもん!」
陽は無邪気に笑った。
この子もまた、蓮華と同じように植物の声を聞く力を持って生まれてきた。しかも、龍牙譲りの体力と魔力も兼ね備えている。将来が楽しみでもあり、末恐ろしくもある。
「でかしたぞ、陽! そいつは上等な『大地の根』だ。今夜のスープに入れよう」
奥から龍牙が現れ、陽を高い高いと持ち上げた。
その顔は、かつての「国境の鬼」とは思えないほどにデレデレだ。彼は完全に親バカになっていた。
「あなた、甘やかさないでください。泥だらけのままだと、お店が汚れちゃいます」
「いいじゃないか。店は繁盛してるし、俺たちが幸せなら文句はないはずだ」
龍牙は豪快に笑い、空いた片腕で蓮華の腰を抱き寄せた。
「……まあ、そうですね」
蓮華もつられて微笑んだ。
店には今日も、遠方から多くの客が訪れている。
見た目は悪いが効果抜群の「泥薬」は、今やこの国のスタンダードになりつつあった。王都の支店も順調で、かつての弟も改心し、一から修行を始めているという手紙が届いたばかりだ。
全てが、丸く収まった。
「愛してるぞ、蓮華。陽」
「僕もだよ、パパ!」
「……はい、僕もです」
家族三人の笑い声が、温かな日差しの中に溶けていく。
かつて捨てられた場所で芽吹いた小さな種は、雨風に耐え、大きな愛を受けて、今、大輪の花を咲かせていた。
その香りは、これからもずっと、この場所を優しく包み込んでいくことだろう。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~
ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」
聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。
妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。
寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。
「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」
最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。
だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった!
ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。
最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。
一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。
今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。
けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。
「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」
無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!
追放された悪役令嬢(実は元・最強暗殺者)ですが、辺境の谷を開拓したら大陸一の楽園になったので、今更戻ってこいと言われてもお断りです
黒崎隼人
ファンタジー
元・凄腕暗殺者の私、悪役令嬢イザベラに転生しました。待つのは断罪からの破滅エンド?……上等じゃない。むしろ面倒な王宮から解放される大チャンス!
婚約破棄の慰謝料に、誰もが見捨てた極寒の辺境『忘れられた谷』をせしめて、いざ悠々自適なスローライフへ!
前世の暗殺スキルと現代知識をフル活用し、不毛の地を理想郷へと大改革。特製ポーションに絶品保存食、魔獣素材の最強武具――気づけば、谷は大陸屈指の豊かさを誇る独立領に大変貌!?
そんな私の元に現れたのは、後悔と執着に濡れた元婚約者の王太子、私を密かに慕っていた騎士団長、そして「君ごとこの領地をいただく」と宣言する冷徹なはずの溺愛皇帝陛下!?
いえ、求めているのは平穏な毎日なので、求婚も国の再建依頼も全部お断りします。これは、面倒事を華麗に排除して、最高の楽園を築き上げる、元・暗殺者な悪役令嬢の物語。静かで徹底的な「ざまぁ」を添えて、お見せしましょう。
追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。
緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。
前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。
これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!
婚約破棄&濡れ衣で追放された聖女ですが、辺境で育成スキルの真価を発揮!無骨で不器用な最強騎士様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「君は偽りの聖女だ」――。
地味な「育成」の力しか持たない伯爵令嬢エルナは、婚約者である王太子にそう断じられ、すべてを奪われた。聖女の地位、婚約者、そして濡れ衣を着せられ追放された先は、魔物が巣食う極寒の辺境の地。
しかし、絶望の淵で彼女は自身の力の本当の価値を知る。凍てついた大地を緑豊かな楽園へと変える「育成」の力。それは、飢えた人々の心と体を癒す、真の聖女の奇跡だった。
これは、役立たずと蔑まれた少女が、無骨で不器用な「氷壁の騎士」ガイオンの揺るぎない愛に支えられ、辺境の地でかけがえのない居場所と幸せを見つける、心温まる逆転スローライフ・ファンタジー。
王都が彼女の真価に気づいた時、もう遅い。最高のざまぁと、とろけるほど甘い溺愛が、ここにある。
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!