氷鉄の騎士団長に拾われたスラムのオメガは、無自覚な溺愛に溶かされる

水凪しおん

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エピローグ「雨上がりの陽光」

 数ヶ月の時が流れた。

 季節は巡り、木々の緑が濃くなっている。

 グレイヴ公爵家の庭園は、色とりどりの花で満たされていた。かつては手入れもされず殺風景だった庭が、今では近隣の貴族も足を止めるほどの美しさを誇っている。

 それを変えたのは、一人の少年だ。

「ここも、綺麗に咲いたな」

 ノアは花壇の手入れをしながら、満足げにつぶやいた。

 泥とミントで身を隠していた頃の面影はもうない。肌は健康的な白さを取り戻し、ふっくらとした頬はバラ色に染まっている。

 身につけているのは、ヴァレリウスが見立てた仕立ての良い服。

 そして首元には、銀色の鎖がついたペンダントが光っていた。それはヴァレリウスから贈られた、グレイヴ家の紋章が刻まれた守護の証だ。

「ノア」

 背後から呼ばれ、ノアは満面の笑みで振り返った。

「ヴァレリウス様! おかえりなさい!」

 任務から帰還したヴァレリウスが、馬から降りてこちらへ歩いてくる。

 相変わらずの威圧感だが、ノアに向けられる眼差しだけは、蜂蜜のように甘い。

 彼はノアの前に立つと、自然に腰を引き寄せ、額に口づけを落とした。

「いい子にしていたか」

「はい。今日は、図書室で勉強もしましたし、お庭の手入れも」

「そうか。偉いぞ」

 ヴァレリウスはノアの頭を撫でる。その手は大きく、温かい。

 ふと、空を見上げると、通り雨が上がったばかりの空に、大きな虹がかかっていた。

 出会ったあの日も雨だった。

 けれど、あの時の冷たく絶望的な雨とは違う。

 今は、雨上がりの陽光が、二人を祝福するように降り注いでいる。

「……あの日、お前を拾ってよかった」

「拾われたのが、あなたでよかったです」

 ノアはヴァレリウスの胸に顔を埋めた。

 この先、どんな困難があっても、この腕の中なら大丈夫だと信じられる。

 かつて孤独だった「氷鉄の騎士」と、居場所のなかった「オメガの少年」。

 二人の物語は、ここから本当の意味で始まっていくのだ。

 優しい風が、二人の間を吹き抜けていった。

 そこにはもう、隠さなければならない匂いなど、どこにもなかった。

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