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第24話「王都からの使者」
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僕の発情期は、カイル様がすぐに手配してくれた抑制剤のおかげで、数日で何とか落ち着いた。
あの日の出来事以来、僕たちの間にはどこかぎこちない空気が流れていた。
カイル様は僕の目をあまり見てくれなくなったし、僕も彼の顔を見るとあの時の熱っぽい瞳を思い出して、心臓がうるさくなってしまう。
それでも、彼が僕を避けているわけではないことは分かっていた。
訓練も、図書室で過ごす時間も、以前と同じように続いていたからだ。
ただ、お互いに相手を強く意識してしまっている。その事実が、沈黙の中にさえ甘く痺れるような緊張感を生んでいた。
そんな微妙な日々が続いていたある日。
城に、一本の矢文が届いた。
それは、王都にいるカイル様の密偵からの、緊急の知らせだった。
執務室に呼び出された僕の前で、カイル様はその文に目を通す。
彼の表情が、みるみるうちに険しくなっていく。
「カイル様…?」
僕が不安げに声をかけると、彼は文を強く握りしめ、吐き捨てるように言った。
「…王都の調査団が、こちらへ向かっている」
「調査団…?」
「表向きは、辺境の魔物被害の調査ということになっている。だが、真の目的は、おそらく…」
カイル様はそこで言葉を切り、僕をまっすぐに見つめた。
「お前のことだ、リアム」
「え…」
全身から、血の気が引くのを感じた。
「なぜ…僕の居場所が…」
「まだ確証はないはずだ。だが、王都の惨状から、奴らはお前の『浄化の魔力』の可能性に気づき始めたのだろう。そして追放先であるこの辺境領に、一縷の望みをかけて調査に来る…そういうことだ」
カイル様の説明に、頭が追いつかない。
王都が、そんなことになっているなんて。
そして、アラン殿下たちが僕の力を求めて、ここまで来るというのか。
僕を、出来損ないと蔑み、捨てたくせに。
「ご安心ください、リアム様」
部屋の隅に控えていた副団長が、力強く言った。
「我らが、いかなる者も城へは近づけさせません。リアム様には、指一本触れさせはしません」
騎士たちも、僕の力を知って以来、僕のことを心から敬い、守るべき主君の番として扱ってくれるようになっていた。
その気持ちは、とてもありがたい。
でも、僕のせいでカイル様やこの城の人々を、王家と対立させてしまう。
そのことが、僕には何よりも怖かった。
「僕のせいで…カイル様にご迷惑が…」
「迷惑だと?」
カイル様が、僕の言葉を遮った。
「お前は、まだ分かっていないらしいな」
彼は僕の前に立つと、僕の両肩を掴んだ。
その赤い瞳が、強い光を放って僕を射抜く。
「リアム。俺がお前を守るのは、義務や同情からではない。俺が、そうしたいからだ。お前を、誰にも渡したくないからだ」
「カイル、様…」
「調査団が来ようが、王太子が来ようが、関係ない。俺は俺のやり方で、お前を守る。…分かったな」
有無を言わせぬ、力強い声。
その声に、僕の不安はまたしても掻き消されていく。
この人がいれば、大丈夫。
僕は、彼の瞳を見つめ返し、こくり、と強くうなずいた。
「はい」
僕がそう答えると、カイル様の表情がほんの少しだけ和らいだ。
彼が僕の肩から手を離そうとした、その時。
僕の体は、無意識に動いていた。
僕は、カイル様の胸に、そっと顔をうずめていた。
彼の服を、ぎゅっと掴む。
「ありがとうございます…カイル様」
カイル様の体が、一瞬硬直したのが分かった。
でも、すぐに彼の大きな手が僕の背中に回り、優しく、優しく抱きしめ返してくれた。
彼の胸に抱かれていると、不思議と、もう何も怖くなかった。
たとえ、王都からどんな追手が来ようとも。
この人の腕の中にいる限り、僕は絶対に安全なのだと、心の底から信じることができた。
嵐は、もうすぐそこまで迫っている。
でも、僕たちは、二人で立ち向かう覚悟を決めていた。
あの日の出来事以来、僕たちの間にはどこかぎこちない空気が流れていた。
カイル様は僕の目をあまり見てくれなくなったし、僕も彼の顔を見るとあの時の熱っぽい瞳を思い出して、心臓がうるさくなってしまう。
それでも、彼が僕を避けているわけではないことは分かっていた。
訓練も、図書室で過ごす時間も、以前と同じように続いていたからだ。
ただ、お互いに相手を強く意識してしまっている。その事実が、沈黙の中にさえ甘く痺れるような緊張感を生んでいた。
そんな微妙な日々が続いていたある日。
城に、一本の矢文が届いた。
それは、王都にいるカイル様の密偵からの、緊急の知らせだった。
執務室に呼び出された僕の前で、カイル様はその文に目を通す。
彼の表情が、みるみるうちに険しくなっていく。
「カイル様…?」
僕が不安げに声をかけると、彼は文を強く握りしめ、吐き捨てるように言った。
「…王都の調査団が、こちらへ向かっている」
「調査団…?」
「表向きは、辺境の魔物被害の調査ということになっている。だが、真の目的は、おそらく…」
カイル様はそこで言葉を切り、僕をまっすぐに見つめた。
「お前のことだ、リアム」
「え…」
全身から、血の気が引くのを感じた。
「なぜ…僕の居場所が…」
「まだ確証はないはずだ。だが、王都の惨状から、奴らはお前の『浄化の魔力』の可能性に気づき始めたのだろう。そして追放先であるこの辺境領に、一縷の望みをかけて調査に来る…そういうことだ」
カイル様の説明に、頭が追いつかない。
王都が、そんなことになっているなんて。
そして、アラン殿下たちが僕の力を求めて、ここまで来るというのか。
僕を、出来損ないと蔑み、捨てたくせに。
「ご安心ください、リアム様」
部屋の隅に控えていた副団長が、力強く言った。
「我らが、いかなる者も城へは近づけさせません。リアム様には、指一本触れさせはしません」
騎士たちも、僕の力を知って以来、僕のことを心から敬い、守るべき主君の番として扱ってくれるようになっていた。
その気持ちは、とてもありがたい。
でも、僕のせいでカイル様やこの城の人々を、王家と対立させてしまう。
そのことが、僕には何よりも怖かった。
「僕のせいで…カイル様にご迷惑が…」
「迷惑だと?」
カイル様が、僕の言葉を遮った。
「お前は、まだ分かっていないらしいな」
彼は僕の前に立つと、僕の両肩を掴んだ。
その赤い瞳が、強い光を放って僕を射抜く。
「リアム。俺がお前を守るのは、義務や同情からではない。俺が、そうしたいからだ。お前を、誰にも渡したくないからだ」
「カイル、様…」
「調査団が来ようが、王太子が来ようが、関係ない。俺は俺のやり方で、お前を守る。…分かったな」
有無を言わせぬ、力強い声。
その声に、僕の不安はまたしても掻き消されていく。
この人がいれば、大丈夫。
僕は、彼の瞳を見つめ返し、こくり、と強くうなずいた。
「はい」
僕がそう答えると、カイル様の表情がほんの少しだけ和らいだ。
彼が僕の肩から手を離そうとした、その時。
僕の体は、無意識に動いていた。
僕は、カイル様の胸に、そっと顔をうずめていた。
彼の服を、ぎゅっと掴む。
「ありがとうございます…カイル様」
カイル様の体が、一瞬硬直したのが分かった。
でも、すぐに彼の大きな手が僕の背中に回り、優しく、優しく抱きしめ返してくれた。
彼の胸に抱かれていると、不思議と、もう何も怖くなかった。
たとえ、王都からどんな追手が来ようとも。
この人の腕の中にいる限り、僕は絶対に安全なのだと、心の底から信じることができた。
嵐は、もうすぐそこまで迫っている。
でも、僕たちは、二人で立ち向かう覚悟を決めていた。
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