Sランクパーティを「役立たず」と追放された結界師の俺、魔物の森に理想のマイホームを建てていたら、最強の傭兵に懐かれてしまいました

水凪しおん

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第一話「追放された結界師の、最高の家づくり」

「ノア。お前は今日でクビだ」

 凍てつくような声が、焚き火の揺れるキャンプ地に響き渡った。
 声の主は、俺が所属するSランクパーティ『紅蓮の剣』のリーダー、アラン。その燃えるような赤髪とは裏腹に、俺を見る目は氷のように冷え切っていた。

「……え?」

「聞こえなかったのか? ただ守るだけの結界師は、もう俺たちに必要ない。そう言ったんだ」

 アランの言葉を肯定するように、パーティの仲間たちが侮蔑の視線を向けてくる。つい昨日まで、互いに背中を預け合っていたはずの仲間たちが、だ。

「攻撃こそが最大の防御だ。俺たちのパーティに、お前のような攻撃魔法の一つも使えない、臆病なだけの結界師は足手まといなんだよ」
「でも、僕の結界があったから、みんな無傷でダンジョンを攻略できていたはずじゃ……」
「うるさい! 俺たちの実力があれば、そもそも結界なんぞに頼る必要はなかった! お前がいるせいで、俺たちの戦い方がぬるくなっていたんだ!」

 アランが吐き捨てる。彼の理論では、敵の攻撃を避けるのではなく、やられる前にやるのが一流の戦い方らしい。俺の結界は、その美学に反するというわけだ。そんな無茶な理屈がまかり通るなら、回復術師だっていらないことになるじゃないか。喉まで出かかった反論を、俺はぐっと飲み込んだ。

 もう、何を言っても無駄なのだろう。彼らの心は、とっくに決まってしまっている。仲間だと思っていたのは、どうやら俺だけだったようだ。
 俺は静かに立ち上がると、これまでパーティで共有していた装備やアイテムを、そっと地面に置いた。

「……わかりました。今まで、お世話になりました」

 背を向け、歩き出す。後ろから聞こえてくる嘲笑や、「せいせいするぜ」といった囁き声が、ナイフのように背中に突き刺さる。
 けれど、不思議と涙は出なかった。胸に広がっていたのは、絶望だけではなかったからだ。

 むしろ、心の奥底で、小さな喜びの炎が灯っていくのを感じていた。

(やっと、自由になれる)

 俺には秘密があった。この世界に生を受ける前――つまり前世で、俺は日本の建築デザイナーだったという記憶があるのだ。毎日残業に追われ、クライアントの無理難題に振り回され、自分の本当に作りたいものを創る機会などほとんどなかった。そんな俺が、過労で命を落とし、気づけばこの剣と魔法の世界に転生していた。

 結界師というスキルは、ある意味で建築デザイナーの能力と似ていた。空間を認識し、魔力で設計し、防御壁という名の建築物を構築する。それはそれでやりがいがあったけれど、心のどこかでは、ずっと燻っていたのだ。誰のためでもない、自分だけの理想の空間を、この手で創造したい、と。

「これからは、僕が僕のために、最高の家を建てるんだ」

 闇に包まれた街道を一人歩きながら、俺は誰に聞かせるともなく呟いた。唇の端が、自然とつり上がる。パーティを追放されたというのに、気分はむしろ晴れやかだった。

 目的地は、もう決めている。『嘆きの森』。強力な魔物が跋扈し、一度足を踏み入れたら二度と戻れないと噂される、誰も寄り付かない禁断の場所だ。普通なら自殺行為だろう。けれど、俺にとっては、そこが最高の土地だった。

 危険な場所であればあるほど、人は寄り付かない。誰にも邪魔されず、静かに暮らすにはうってつけだ。そして何より、強力な魔物がいるということは、その土地に満ちる魔力が豊かだということ。俺のスキル【聖域創造(サンクチュアリ)】は、周囲の魔力を利用して結界を構築する。つまり、『嘆きの森』は、俺のスキルを最大限に活かせる、最高のロケーションだった。

 数日間歩き続け、ついに『嘆きの森』の入り口にたどり着いた。不気味な瘴気が立ち込め、木々の間からは魔物の呻き声のようなものが聞こえてくる。だが、俺は臆することなく、一歩、また一歩と森の奥深くへと進んでいった。

【聖域創造】を発動させ、自身の周囲に薄い防御結界を展開する。襲いかかってくる低級の魔物たちは、結界に触れた瞬間に弾き飛ばされていく。これを維持しながら進むのはかなりの魔力を使うが、森に満ちる豊かな魔力がすぐにそれを補充してくれた。やはり、俺の選択は間違っていなかった。

 森を彷徨うこと半日。俺は、まるで物語の世界に迷い込んだかのような、美しい場所を発見した。
 木々の隙間から光が差し込み、キラキラと輝く湖。そのほとりには、なだらかな丘が広がり、色とりどりの野の花が咲き乱れている。ここは森の奥深くで、強力な魔力を持つものしか近づけないためか、手つかずの自然がそのまま残されているようだった。

「ここだ……。ここに、僕の家を建てよう」

 俺は湖畔に立ち、深く息を吸い込んだ。土と緑の匂いが、疲れた体を癒していく。早速、俺はこの場所を確保するために、本格的な結界を展開することにした。

「――僕の聖域に、仇なすものを拒絶する。安らぎの地を、ここに創造せん」

 両手を地面につけ、意識を集中させる。体内の魔力と、大地に満ちる魔力を繋ぎ、練り上げていく。地面から淡い光の粒子が立ち上り、俺がイメージする設計図通りに広がっていった。湖を含んだ広大な敷地が、やがて目に見えない壁で完全に覆われる。これで、物理的な攻撃も、魔物が出す瘴気も、全てシャットアウトできる完璧な安全地帯が完成した。

 結界が完成した途端、これまで聞こえていた魔物の呻吟が嘘のように消え、静寂が訪れる。代わりに聞こえてくるのは、風が木々を揺らす音と、鳥のさえずりだけ。

「はぁ……最高だ」

 俺は丘の上の草むらに大の字に寝転んだ。空は青く、雲は白い。もう、誰かのために無理をする必要はない。誰かに評価されるために、怯える必要もない。ここは、俺だけの聖域なのだから。

 しばらく自然を満喫した後、俺はむくりと起き上がり、懐から一枚の羊皮紙とペンを取り出した。前世の記憶を頼りに、夢にまで見た理想の家の設計図を描き始める。

 大きな窓から湖が見えるリビング。暖炉があって、冬でも暖かい。屋根裏には書斎を作ろう。庭にはハーブ園を作って、お茶やお菓子作りを楽しみたい。ああ、キッチンは使いやすいように、作業台を広く取らないと。

 次から次へとアイデアが浮かんでくる。それは、パーティのためにダンジョンの攻略ルートを考えていた時とは比べ物にならないほど、創造的で、楽しい作業だった。

 孤独で、けれど自由なスローライフ。
 追放された結界師の、本当の人生が、今、この場所から始まろうとしていた。

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