Sランクパーティを「役立たず」と追放された結界師の俺、魔物の森に理想のマイホームを建てていたら、最強の傭兵に懐かれてしまいました

水凪しおん

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第六話「凋落の勇者たち」

 その頃、ノアを追放したSランクパーティ『紅蓮の剣』は、深刻な危機に陥っていた。
 彼らはノアを追い出した直後こそ、足手まといがいなくなったと意気揚々としていた。これで、自分たちの攻撃力を存分に発揮できる。より高ランクのダンジョンも、迅速に攻略できるはずだ、と。

 しかし、現実は彼らが思い描いていたものとは、全く違っていた。

「ぐあっ! 後衛に回り込まれた!」
「回復を! 早く回復をしろ!」
「くそっ、敵の数が多すぎる! 一旦退却だ!」

 これまで、ノアの結界に守られていた彼らは、本当の意味での「敵の攻撃」というものを、理解していなかったのだ。ノアが張る結界は、完璧だった。あらゆる角度からの物理攻撃、魔法攻撃、状態異常を引き起こす瘴気まで、その全てを寸分の狂いもなく防ぎきっていた。その絶対的な安全圏の中から、彼らはただ、目の前の敵に攻撃を叩き込むだけでよかったのだ。

 だが、その完璧な防御壁を失った今、状況は一変した。
 ダンジョンに潜れば、四方八方から魔物の奇襲を受ける。リーダーであるアランが前衛で敵を引きつけている間に、後衛の回復役や魔法使いが、死角からの一撃であっさりとやられてしまう。

 回復役を失えば、パーティの生命線は断たれたも同然だ。前衛も、じりじりと削られていく。以前は楽にクリアできたはずのクエストでさえ、満身創痍で、命からがら撤退する有様だった。

 ギルドに戻れば、他の冒険者たちからの視線が痛い。かつてSランクパーティとして羨望の眼差しを一身に受けていた彼らは、今や『落ち目の紅蓮の剣』と陰で笑われる始末だった。

「どうなってんだ! なんで、こんな簡単なクエストで苦戦しなきゃならねぇんだよ!」

 作戦会議と称した酒場での集まりで、斧使いの巨漢、ボルガが悪態をついた。

「お前の索敵が甘いからだ! もっと周囲を警戒しろ!」
 アランが、苛立ちを隠しもせずに怒鳴り返す。

「リーダーこそ、もっと上手く敵を引きつけてくれよ! あんたが敵を逃がすから、こっちに被害が来るんだろうが!」
 魔法使いの女、リリアもヒステリックに叫ぶ。

 仲間たちは、互いのミスを責め、責任をなすりつけ合った。パーティの雰囲気は、もはや最悪としか言いようがなかった。連携は崩壊し、信頼関係は地に落ちていた。

 そんな時、一人のメンバーが、禁句とも言える名前を口にした。

「……ノアがいれば、こんなことには……」

 その言葉に、その場が凍りつく。

「あいつの結界が、どれだけ俺たちを守ってくれていたか、今更わかったのか……! あの結界があったから、俺たちは攻撃だけに集中できてたんだ!」
「……黙れ!」

 アランがテーブルを拳で叩きつけ、声を荒らげた。
「あんな奴がいただけじゃないか! 俺たちの力が落ちたわけじゃない! 少し連携が乱れているだけだ!」

 彼は苛立ちを募らせていた。心の奥底では、ノアの重要性を理解し始めていた。だが、自分たちの攻撃力こそが最強の証だと信じてきた彼の高いプライドが、それを認めることを許さなかった。自分の一存で追放した手前、今更「あいつが必要だった」などと、口が裂けても言えるはずがなかった。

 しかし、日に日に増していくパーティの損害と、地に落ちた名声が、彼らをじわじわと、しかし確実に追い詰めていた。依頼の成功率は激減し、収入も大幅に減った。高価な武具の修理代や、ポーション代ばかりがかさみ、パーティの財政は火の車だった。

 仲間たちの不満は、日に日に大きくなっていく。アランのリーダーシップに疑問を呈する者も現れ始めた。かつては鉄の結束を誇ったはずの『紅蓮の剣』は、内側から静かに崩壊を始めていた。

「こうなったら……ノアを探し出す」

 ある夜、一人になったアランは、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「あいつに頭を下げて、パーティに戻ってきてもらう。そうだ、そうすれば全て元通りになる。俺が、少しだけ情けをかけて、許してやればいいんだ」

 それは、あまりにも独りよがりで、虫の良い考えだった。彼はまだ、自分たちがノアにした仕打ちの重さも、そして、ノアが既に自分たちの手の届かない場所で、新しい幸せを見つけていることなど、知る由もなかったのだ。

 凋落していく元勇者たちの足音が、何も知らないノアとグレイの穏やかな聖域へと、少しずつ、少しずつ近づいていた。

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