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第九話「聖域の盾と竜の剣」
「グルオオオオッ!」
エンシェント・ビーストが、再び咆哮を上げた。それだけで、周囲の空気がビリビリと震え、衝撃波となって俺たちを襲う。だが、その衝撃波は、俺のログハウスを覆う不可視の結界にぶつかり、音もなく霧散した。
魔獣は、それが気に入らなかったらしい。その巨大な腕の一本を、大木を振り回すかのように、結界めがけて叩きつけてきた。
ズウウウウウウンッ!
凄まじい轟音と共に、結界の表面が大きく歪み、激しく揺さぶられる。家の中にあった食器がガタガタと音を立てた。なんというパワーだ。今までの魔物とは、桁が違う。
だが、俺の瞳に迷いはなかった。隣には、グレイがいる。彼が俺を信じてくれている。それだけで、俺は自分の限界を超えられる気がした。
「――聖域よ、我が声に応えよ! 神聖なる守護の力を、今ここに!」
俺は胸の前で両手を組み、意識を集中させる。これまでセーブしていた魔力を、全て解放した。体中の血液が沸騰するような熱さを感じる。俺の魔力に呼応するように、大地に満ちていた膨大な魔力が、ログハウスを中心にして渦を巻き始めた。
【聖域創造(サンクチュアリ)】――真の力、発動!
次の瞬間、ログハウスを中心に、白銀に輝く巨大なドーム状の結界が出現した。それは、ただの防御壁ではなかった。神々しいまでの光を放ち、周囲の邪悪な気配を浄化していく、絶対不可侵の領域。いかなる物理攻撃も、いかなる魔法攻撃も、決して通すことはない、完璧な守りの空間だった。
「すごいな……。これが、お前の本当の力か」
隣で、グレイが感嘆の声を漏らした。
古代魔獣は、出現した白銀のドームに怒り狂い、何度も何度も殴りかかってくる。だが、その攻撃はもはや、結界の表面に小さな波紋を起こすだけで、びくともしなくなっていた。
「グレイ、これで、君の力を抑えるものは何もない」
俺は、息を切らしながらも、彼に微笑みかけた。
「僕の聖域が、君の力の全てを受け止める。だから、何も恐れずに、君の力を解放して」
「……ああ、わかっている」
グレイは、力強く頷いた。
その絶対的な安全が保証された空間の中で、彼は初めて、何の恐れもなく、己の中に眠る竜の力を、その魂の全てを解放する。
「喰らい尽くせ、我が血に眠る黒竜よ!」
彼の体から、先日の比ではない、漆黒のオーラが天を衝くほどに噴き上がる。その両腕は瞬く間に竜の鱗に覆われ、背中からは巨大な黒い翼が生えた。瞳は燃えるような金色に輝き、その姿はもはや人ではなく、人型の竜そのものだった。
しかし、不思議なことに、以前のような暴走の兆候は微塵も感じられなかった。
俺の結界が、彼の魂そのものを優しく包み込み、荒れ狂う竜の力を、正しき方向へと導いていたのだ。彼の力は、もはやただの破壊の力ではない。大切なものを守るための、聖なる力へと昇華されていた。
グレイは、ゆっくりと天に舞い上がる。そして、その手に、漆黒の魔力で形成された巨大な剣を構えた。
「これで、終わりだ」
聖域の盾に守られた、竜の剣。
グレイが振り下ろした渾身の一撃は、天を裂き、地を割り、一条の黒い閃光となって、エンシェント・ビーストを直撃した。
光が、世界を飲み込む。
やがて光が収まった時、そこに立っていた巨大な魔獣の姿は、跡形もなく消え去っていた。まるで、最初から何もなかったかのように。残されたのは、邪気が払われ、清浄な空気に満たされた森と、静かに地上に降り立つグレイの姿だけだった。
俺は、魔力を使い果たして、その場に膝から崩れ落ちた。視界が霞む。
そんな俺の体を、後ろから駆け寄ってきたグレイが、力強く、そして優しく支えてくれた。
「……終わったんだね」
「ああ、終わった。俺たちの勝ちだ、ノア」
彼の腕の中で、俺は意識を手放しながら、確かに感じていた。
もう、俺たちの平和を脅かすものは何もない。俺たちの聖域は、二人で守り抜いたのだ、と。
エンシェント・ビーストが、再び咆哮を上げた。それだけで、周囲の空気がビリビリと震え、衝撃波となって俺たちを襲う。だが、その衝撃波は、俺のログハウスを覆う不可視の結界にぶつかり、音もなく霧散した。
魔獣は、それが気に入らなかったらしい。その巨大な腕の一本を、大木を振り回すかのように、結界めがけて叩きつけてきた。
ズウウウウウウンッ!
凄まじい轟音と共に、結界の表面が大きく歪み、激しく揺さぶられる。家の中にあった食器がガタガタと音を立てた。なんというパワーだ。今までの魔物とは、桁が違う。
だが、俺の瞳に迷いはなかった。隣には、グレイがいる。彼が俺を信じてくれている。それだけで、俺は自分の限界を超えられる気がした。
「――聖域よ、我が声に応えよ! 神聖なる守護の力を、今ここに!」
俺は胸の前で両手を組み、意識を集中させる。これまでセーブしていた魔力を、全て解放した。体中の血液が沸騰するような熱さを感じる。俺の魔力に呼応するように、大地に満ちていた膨大な魔力が、ログハウスを中心にして渦を巻き始めた。
【聖域創造(サンクチュアリ)】――真の力、発動!
次の瞬間、ログハウスを中心に、白銀に輝く巨大なドーム状の結界が出現した。それは、ただの防御壁ではなかった。神々しいまでの光を放ち、周囲の邪悪な気配を浄化していく、絶対不可侵の領域。いかなる物理攻撃も、いかなる魔法攻撃も、決して通すことはない、完璧な守りの空間だった。
「すごいな……。これが、お前の本当の力か」
隣で、グレイが感嘆の声を漏らした。
古代魔獣は、出現した白銀のドームに怒り狂い、何度も何度も殴りかかってくる。だが、その攻撃はもはや、結界の表面に小さな波紋を起こすだけで、びくともしなくなっていた。
「グレイ、これで、君の力を抑えるものは何もない」
俺は、息を切らしながらも、彼に微笑みかけた。
「僕の聖域が、君の力の全てを受け止める。だから、何も恐れずに、君の力を解放して」
「……ああ、わかっている」
グレイは、力強く頷いた。
その絶対的な安全が保証された空間の中で、彼は初めて、何の恐れもなく、己の中に眠る竜の力を、その魂の全てを解放する。
「喰らい尽くせ、我が血に眠る黒竜よ!」
彼の体から、先日の比ではない、漆黒のオーラが天を衝くほどに噴き上がる。その両腕は瞬く間に竜の鱗に覆われ、背中からは巨大な黒い翼が生えた。瞳は燃えるような金色に輝き、その姿はもはや人ではなく、人型の竜そのものだった。
しかし、不思議なことに、以前のような暴走の兆候は微塵も感じられなかった。
俺の結界が、彼の魂そのものを優しく包み込み、荒れ狂う竜の力を、正しき方向へと導いていたのだ。彼の力は、もはやただの破壊の力ではない。大切なものを守るための、聖なる力へと昇華されていた。
グレイは、ゆっくりと天に舞い上がる。そして、その手に、漆黒の魔力で形成された巨大な剣を構えた。
「これで、終わりだ」
聖域の盾に守られた、竜の剣。
グレイが振り下ろした渾身の一撃は、天を裂き、地を割り、一条の黒い閃光となって、エンシェント・ビーストを直撃した。
光が、世界を飲み込む。
やがて光が収まった時、そこに立っていた巨大な魔獣の姿は、跡形もなく消え去っていた。まるで、最初から何もなかったかのように。残されたのは、邪気が払われ、清浄な空気に満たされた森と、静かに地上に降り立つグレイの姿だけだった。
俺は、魔力を使い果たして、その場に膝から崩れ落ちた。視界が霞む。
そんな俺の体を、後ろから駆け寄ってきたグレイが、力強く、そして優しく支えてくれた。
「……終わったんだね」
「ああ、終わった。俺たちの勝ちだ、ノア」
彼の腕の中で、俺は意識を手放しながら、確かに感じていた。
もう、俺たちの平和を脅かすものは何もない。俺たちの聖域は、二人で守り抜いたのだ、と。
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