12 / 16
第11話「雪解けの森と、二度目のプロポーズ」
長い冬が終わりを告げ、ノースガルドにも遅い春がやってきた。
雪解け水が小川となって流れ、あちこちで若草が芽吹いている。空気は柔らかく、日差しは心地よい暖かさを運んでくる。
そんな穏やかな午後、私はグリーグ様に誘われて、ピクニックに出かけた。
場所は、以前二人で見つけた、雪見草が群生していた森の奥の広場だ。
バスケットには私が作ったサンドイッチと果物のジュース。
敷物を広げ、二人で並んで座ると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「……平和だな」
グリーグ様が、手足を伸ばして目を細めた。
普段の軍服ではなく、ラフなシャツ姿の彼は、どこか若々しく見える。
「はい。嘘みたいに静かです」
私は彼にサンドイッチを手渡した。
彼はそれを美味しそうに頬張ると、不意に真面目な顔をして私を見た。
「ジュリアン、話がある」
その声のトーンに、私はドキリとした。
いつもの事務的なものでも、日常会話のものでもない。もっと深く、重い響き。
彼は懐から、小さな箱を取り出した。
装飾のない、素朴な木箱だ。彼がスノーバームのために作った箱に似ているが、もっと丁寧に磨き上げられている。
「……これは?」
「開けてみてくれ」
促されて箱を開けると、中には指輪が入っていた。
宝石店で売っているような煌びやかなものではない。銀色の金属を加工し、中心に小さな、しかし深く澄んだ青い石が埋め込まれている。
「これは、この近くの鉱山で採れた『氷晶石』だ。雪のように溶けず、永遠に変わらないと言われている」
彼は照れくさそうに説明した。
「台座の加工は……俺がやった。少し不格好だが」
「グリーグ様が……?」
驚いて指輪を見つめる。
確かに、プロの職人のような繊細さはないかもしれない。でも、一つ一つの曲線に、彼がどれだけ時間をかけ、どれだけ想いを込めて削ったかが伝わってくる。
完璧ではない、けれど世界で一番温かい指輪だ。
グリーグ様は、私の手を取り、その薬指に指輪を通した。
サイズはぴったりだった。
「ジュリアン。俺は不器用で、言葉も足りない。獣人の血を引く、荒くれ者だ」
彼は私の目を見て、一語一語を噛み締めるように言った。
「だが、お前を愛する気持ちだけは、誰にも負けない。お前が笑えば俺も嬉しいし、お前が泣けば胸が張り裂けそうになる。……お前なしの人生なんて、もう考えられないんだ」
彼の黄金色の瞳が、潤んで揺れている。
「俺と、番になってくれないか。正式に、結婚してほしい」
二度目のプロポーズ。
一度目は王命による強制的なものだった。顔も知らない相手への、押し付けられた結婚。
でも今は違う。
私たちが互いに選び、互いに望んだ、心からの誓い。
涙が溢れて止まらなかった。悲しいからではない。あまりにも幸せすぎて、胸がいっぱいになってしまったからだ。
「……はい。喜んで」
私は泣き笑いの顔で頷いた。
「私を、グリーグ様のお嫁さんにしてください。……ううん、私がグリーグ様を幸せにします!」
私の言葉に、彼は目を見開き、それから今まで見たこともないような、満面の笑みを浮かべた。
「ああ。……ありがとう、ジュリアン」
彼は私を引き寄せ、強く、しかし壊れないように優しく抱きしめた。
そして、私たちの唇が重なった。
春の風が、二人を祝福するように吹き抜けていった。
雪解け水が小川となって流れ、あちこちで若草が芽吹いている。空気は柔らかく、日差しは心地よい暖かさを運んでくる。
そんな穏やかな午後、私はグリーグ様に誘われて、ピクニックに出かけた。
場所は、以前二人で見つけた、雪見草が群生していた森の奥の広場だ。
バスケットには私が作ったサンドイッチと果物のジュース。
敷物を広げ、二人で並んで座ると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「……平和だな」
グリーグ様が、手足を伸ばして目を細めた。
普段の軍服ではなく、ラフなシャツ姿の彼は、どこか若々しく見える。
「はい。嘘みたいに静かです」
私は彼にサンドイッチを手渡した。
彼はそれを美味しそうに頬張ると、不意に真面目な顔をして私を見た。
「ジュリアン、話がある」
その声のトーンに、私はドキリとした。
いつもの事務的なものでも、日常会話のものでもない。もっと深く、重い響き。
彼は懐から、小さな箱を取り出した。
装飾のない、素朴な木箱だ。彼がスノーバームのために作った箱に似ているが、もっと丁寧に磨き上げられている。
「……これは?」
「開けてみてくれ」
促されて箱を開けると、中には指輪が入っていた。
宝石店で売っているような煌びやかなものではない。銀色の金属を加工し、中心に小さな、しかし深く澄んだ青い石が埋め込まれている。
「これは、この近くの鉱山で採れた『氷晶石』だ。雪のように溶けず、永遠に変わらないと言われている」
彼は照れくさそうに説明した。
「台座の加工は……俺がやった。少し不格好だが」
「グリーグ様が……?」
驚いて指輪を見つめる。
確かに、プロの職人のような繊細さはないかもしれない。でも、一つ一つの曲線に、彼がどれだけ時間をかけ、どれだけ想いを込めて削ったかが伝わってくる。
完璧ではない、けれど世界で一番温かい指輪だ。
グリーグ様は、私の手を取り、その薬指に指輪を通した。
サイズはぴったりだった。
「ジュリアン。俺は不器用で、言葉も足りない。獣人の血を引く、荒くれ者だ」
彼は私の目を見て、一語一語を噛み締めるように言った。
「だが、お前を愛する気持ちだけは、誰にも負けない。お前が笑えば俺も嬉しいし、お前が泣けば胸が張り裂けそうになる。……お前なしの人生なんて、もう考えられないんだ」
彼の黄金色の瞳が、潤んで揺れている。
「俺と、番になってくれないか。正式に、結婚してほしい」
二度目のプロポーズ。
一度目は王命による強制的なものだった。顔も知らない相手への、押し付けられた結婚。
でも今は違う。
私たちが互いに選び、互いに望んだ、心からの誓い。
涙が溢れて止まらなかった。悲しいからではない。あまりにも幸せすぎて、胸がいっぱいになってしまったからだ。
「……はい。喜んで」
私は泣き笑いの顔で頷いた。
「私を、グリーグ様のお嫁さんにしてください。……ううん、私がグリーグ様を幸せにします!」
私の言葉に、彼は目を見開き、それから今まで見たこともないような、満面の笑みを浮かべた。
「ああ。……ありがとう、ジュリアン」
彼は私を引き寄せ、強く、しかし壊れないように優しく抱きしめた。
そして、私たちの唇が重なった。
春の風が、二人を祝福するように吹き抜けていった。
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる
水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」
理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。
凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。
伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。
狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。
「君は、俺の運命の番だ」
これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。
温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。
極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。
そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。
これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。
偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される
水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」
宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。
しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。
処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!?
強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。
秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!
追放された『無能』オメガ、実は最強の薬師でした。~辺境でSSS級冒険者に溺愛され、実家の薬屋をざまぁします~
水凪しおん
BL
「お前のようなフェロモンの薄い無能オメガは、我が家には不要だ!」
実家の名門薬店『白龍堂』を追放された白蓮華(ハク・レンカ)。
しかし彼には、植物の「声」が聞こえるという秘密の能力があった。
傷心のまま辿り着いた辺境の村で、蓮華は小さな薬屋を開業する。
そこで倒れていた瀕死の男を助けたことが、彼の運命を大きく変えることに――。
その男は、国最強と謳われるSSS級冒険者(アルファ)、蒼龍牙(ソウ・リュウガ)だった!
「俺の古傷を治せるのは、お前の薬だけだ」
無自覚な天才薬師(オメガ)×強面スパダリ冒険者(アルファ)。
辺境でのんびり薬屋を営むはずが、いつの間にか国中から注目され、実家を見返す大逆転劇へ発展!?
温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない
水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。
終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。
自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。
半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。
「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」
孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。
湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。
読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。
氷のエリート官僚アルファは、体温高めなカピバラオメガの抱き枕を手放せない〜不器用な溺愛とぽかぽか共依存〜
水凪しおん
BL
王都の隅にある薬草園で働くカピバラ獣人のルカは、のんびり屋で並外れて体温が高いオメガ。
ある寒い冬の日、極度の冷え性で倒れかけていた蛇獣人のアルファ・ヴィオを、その温かさで救ってしまう。
国家の裏側を担う冷酷な特務機関のエリート官僚であるヴィオは、ルカの温もりと甘い干し草のフェロモンに強く惹かれ、彼を「専属の抱き枕」として強引に自分の屋敷へと連れ帰った。
最初はただの暖房器具扱い。
しかし、毎晩同じベッドで抱きしめ合い、ルカの無尽蔵の熱を与えられるうちに、ヴィオの凍てついた心と身体は少しずつ溶かされていく。
毒舌の裏にある不器用な優しさと深い孤独に気づいたルカもまた、ヴィオの存在を手放せなくなっていく。
冷酷なアルファと温厚なオメガ。
氷と陽だまり。
決して交わるはずのなかった二人の体温とフェロモンが完璧に溶け合った時、単なる雇用関係は、魂の根底から惹かれ合う「究極の共依存」へと変わっていく。
これは、凍えるような孤独の中で生きてきたアルファが、無自覚に温かいオメガに出会い、永遠の春を手に入れるまでの極甘で濃密な愛の物語。