抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん

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第15話「王の勅命」

 その事件の代償は、あまりにも大きかった。

 翌朝、ジークフリートの屋敷に王宮からの使者が訪れた。

 突きつけられたのは、解任命令と、エリアルの身柄引き渡し要求だった。

「ジークフリート・ハインツ。貴殿は貴族への暴行および、重要人物の私的独占の罪により、騎士団長の任を解く。ただちにエリアル・グリーンを王宮へ引き渡せ」

 冷酷な宣告。

 屋敷の広間で、ジークフリートは無言で勅書を見つめていた。

 エリアルはその隣で、顔面蒼白になっていた。

「私の、せい……」

「違う」

 ジークフリートは勅書を握りつぶした。

「俺が選んだことだ」

「でも、このままでは貴方が……」

「エリアル」

 ジークフリートは膝をつき、エリアルの手を取った。

 その目は、いつか森で出会った時と同じ、澄み切った色をしていた。

「俺はもう、迷わない。地位も名誉も、この剣さえも、貴方を守れないなら何の意味もないガラクタだ」

 彼は立ち上がり、腰の剣を外した。

 ガチャン、と重い音が床に響く。

 それは、彼が騎士としての人生を捨てた音だった。

「使者に伝えろ」

 ジークフリートは扉の向こうにいる兵士たちに向かって告げた。

「俺は渡さない。欲しければ、俺の死体を越えていけ」

 反逆。

 それは国家に対する宣戦布告だった。

「ジークフリート様、いけません! そんなことをすれば、貴方は殺されます!」

 エリアルが彼の腕にしがみつく。

「私が行きます。私が王宮へ行けば、貴方は助かるはず……」

「だめだ!」

 ジークフリートが叫んだ。

「奴らの狙いは、貴方を『聖女』として祀り上げ、その身体から死ぬまでフェロモンを搾り取ることだ。そんな地獄に、行かせられるわけがない」

 彼はエリアルを強く抱きしめた。

「逃げよう。今すぐに」

「……え?」

「準備はしてある。屋敷の隠し通路から地下水道へ抜けられる。そこから森へ戻るんだ」

「でも……」

「俺を信じてくれ。貴方なしの人生など、俺にはもう考えられない」

 その言葉に、エリアルの迷いは消えた。

 もし明日死ぬとしても、この人の腕の中で死にたい。

「はい。どこへでも、連れて行ってください」

 二人は手を取り合った。

 屋敷の外には、すでに王宮騎士団が包囲網を敷いている。かつての部下たちが、今は敵として立ちはだかる。

 最強の騎士と、最愛のオメガ。

 二人の、国を敵に回した最後の逃避行が始まる。

「行くぞ、エリアル。絶対に手を離すな」

「はい、ジークフリート様」

 石の床を蹴る音が、新たな運命の始まりを告げた。

 二人の影が、薄暗い廊下へと消えていく。

 背後で、扉が破られる音が轟いた。

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