悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん

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第5話「芽生えた想いと、消えない戸惑い」

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 翌朝、俺が目を覚ました時、隣にはまだカイがいた。
 彼は穏やかな寝顔で、すうすうと規則正しい寝息を立てている。
 その無防備な姿は、騎士団長としての威厳に満ちた普段の彼とはまるで別人だった。

 昨夜の出来事が夢ではなかったことを証明するように、俺の体は気だるい倦怠感と、あちこちに残る熱っぽい痛みを訴えていた。
 そして何より、カイによって首筋につけられた噛み跡。
 これは「番」の証。
 αがΩに対して行う、絶対的な所有の印だ。

(これから、どうなるんだろう……)

 俺はカイを起こさないように、そっとベッドを抜け出した。
 床に散らばった服を拾い集め、急いで身につける。
 昨夜、あれほど求め合った相手だというのに、今はまともに彼の顔を見ることができない。

 罪悪感、恐怖、そして、ほんの少しの甘い余韻。
 様々な感情がごちゃ混ぜになって、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
 ヒートの勢いだったとはいえ、俺はαと体を重ねてしまった。
 しかも、相手はあのカイ・ヴァレンシュタインだ。

 彼が俺を「運命の番」だと言ったこと、そして俺自身も、彼の首筋に噛み跡をつけてしまったこと。
 オメガバースの世界において、それがどれほど重い意味を持つのか、俺は知っている。

 俺は、彼の番になってしまったのだろうか。

 部屋を抜け出そうとした、その時だった。

「……どこへ行くんだ、リヒト」

 背後から、低い声がかかった。
 振り返ると、いつの間にか目を覚ましていたカイが、ベッドの上で上半身を起こしていた。
 その蒼い瞳が、まっすぐに俺を射抜いている。

「あ……えっと、仕事が……」

「休め。お前の体は、まだ本調子ではないはずだ」

 カイはそう言うと、ベッドから降りて、ゆっくりと俺の方へ歩いてきた。
 昨夜とは違う、いつもの制服姿だ。
 しかし、その雰囲気は以前とは明らかに違っていた。
 彼の全身から、俺に対する独占欲とでも言うべきオーラが滲み出ている。

「昨日のことは……その、ヒートのせいであって……」

 俺は何とか言い訳をしようとするが、言葉がうまく続かない。
 カイは俺の目の前で足を止めると、そっと俺の頬に手を添えた。

「俺にとっては、ヒートのせいだけじゃない。俺は、ずっとお前を探していた。やっと見つけた、俺の番だ」

 その真剣な眼差しに、俺は言葉を失う。
 彼は本気で、俺のことを運命の番だと信じている。

「これから、お前は俺のものだ。誰にも渡さない」

 まるで決定事項のように告げられ、俺は混乱した。
 確かに昨夜の彼は抗いがたいほど魅力的だった。
 彼の腕の中は心地よく、満たされる喜びに震えたのも事実だ。
 でも、だからといって、はいそうですかと受け入れられるほど、俺の心は単純ではなかった。

 俺は悪役令息で、彼は物語のヒーローだ。
 そもそも、住む世界が違う。
 それに、俺は男だ。
 彼に番として愛される資格なんて、あるはずがない。

「……すみません、少し、考えさせてください」

 俺はそう言うのが精一杯だった。
 カイの手を振り払い、今度こそ部屋を飛び出した。
 後ろでカイが何かを言っていたが、もう耳には入らなかった。

 その日から、カイの猛烈なアプローチ、いや、溺愛が始まった。

 騎士団の食堂に行けば、必ず俺の隣の席に座り、俺が作った料理だけを食べる。
 訓練の合間には、わざわざ厨房までやってきて、「リヒト、喉が渇いた」と言って俺に水を持ってこさせる。
 夜になれば、俺の部屋の前に現れて、「一緒に星を見ないか」と誘ってくる。

 その行動は、冷静沈着で知られる騎士団長のイメージとはかけ離れており、騎士団の誰もが驚き、そして面白がって遠巻きに俺たちを眺めていた。
 おかげで、俺は城中で噂の的だ。
「騎士団長閣下のお気に入り」とささやかれ、以前よりも丁重に扱われるようになったのは皮肉なことだった。

 俺はカイのアプローチを何とかかわし続けていたが、彼の不器用な優しさに触れるたびに、心が揺れ動くのを感じていた。

 ある日、俺が厨房で指を切ってしまうと、どこからともなく現れたカイが、有無を言わさず俺の指を口に含んで血を止めてくれた。
 彼の蒼い瞳が、心配そうに揺れていたのを、俺は見逃さなかった。

 またある日には、故郷の家族から手紙が届いた。
 そこには、カイがアシュフィールド家に多額の援助金を送ってくれ、領地の復興に力を貸してくれていると書かれていた。
 俺の家族は、手紙の中で何度もカイを褒め称え、俺に「騎士団長閣下を大事にするように」と書き連ねてあった。

 彼の行動は、すべて俺のためだった。
 俺を喜ばせたい、俺の役に立ちたい。
 その一心からだということが、痛いほど伝わってくる。

 俺はカイから逃げ続けていた。
 それは、彼が嫌いだからじゃない。
 むしろ逆だ。
 彼のことを少しずつ意識している自分に気づいていたから。
 彼のそばにいると、心が温かくなる。
 彼に優しくされると、胸の奥がきゅんと締め付けられる。

 これは、恋なのだろうか。

 もしそうだとしたら、俺は、この気持ちを認めてもいいのだろうか。
 悪役令息である俺が、物語のヒーローを好きになってもいいのだろうか。

 答えの出ないまま、俺はカイとの奇妙な関係を続けていた。
 そんな俺たちの前に、新たな波乱を巻き起こす人物が現れることを、まだ俺は知らなかった。
 その人物が、俺の運命だけでなく、この国の未来さえも揺るがす存在になるということも。
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