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第6話「明かされる秘密」
トーナメントは順調に勝ち進み、ユキとカイはついに準々決勝の舞台へと駒を進めた。彼らの息の合った連携は今や学園中の誰もが認めるところとなっていた。しかし次なる対戦相手は、これまでとは比べ物にならないほど厄介な存在だった。
相手は純血のアルファ至上主義を掲げる過激な思想を持つペア、ゲルハルト兄弟。彼らはオメガがアルファと対等に戦うこと自体を唾棄すべきことだと公言しており、特にユキに対してはあからさまな敵意を向けていた。
試合開始前から闘技場には不穏な空気が漂っていた。
「汚らわしいオメガが、カイ・フォン・エーレンベルクほどのアルファと番うとはな。世も末だ」
兄のゲルハルトが吐き捨てるように言った。
「試合が終わる頃には、お前は自分の無力さを思い知りアルファの足元にひれ伏すことになるだろう」
弟が嘲笑を浮かべてそれに続く。
「くだらない戯言はそれまでだ。実力で語れ」
カイは冷たく言い放った。彼の隣でユキもまた静かな怒りを瞳に宿して相手を睨みつけている。
試合開始の合図と共に、ゲルハルト兄弟は正々堂々とした魔法戦を避け、執拗にユキだけを狙ってきた。二人がかりでユキに集中砲火を浴びせ、カイがユキを庇おうとするとその隙を突いてカイに攻撃を仕掛けるという卑劣な戦法だった。
「ユキ、俺から離れるな!」
カイはユキを背後にかばいながら、迫りくる魔法を次々とかき消していく。しかし相手の攻撃はあまりにも執拗で、次第に防戦一方に追い込まれていった。
「カイ、僕も戦う!」
ユキはカイの背後から反撃の魔法を放とうとする。その一瞬の隙を相手は見逃さなかった。
「――かかったな、オメガ!」
弟のゲルハルトが不気味な笑みを浮かべ、短剣を投げつけた。それは通常の魔法の軌道とは全く異なる、予測不可能な動きでユキに迫る。
「しまっ……!」
カイが気づいてユキを突き飛ばすが、間に合わない。呪いを帯びた黒い刃がユキの肩を深く切り裂いた。
「ぐっ……ぁ……!」
ユキの口から苦痛に満ちた呻きが漏れる。傷口から黒い靄のようなものが立ち上り、みるみるうちに彼の顔から血の気が引いていく。それはただの物理的な傷ではなかった。精神と魔力の根源を直接蝕む悪質な呪いだった。
ユキが糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
その姿を見た瞬間、カイの中で何かがぷつりと切れた。
「…………ユキ……?」
カイの呟きは誰にも聞こえないほど小さかった。次の瞬間、彼の全身からこれまで誰も見たことのないほどの凄まじい魔力が嵐のように吹き荒れた。
「お……前たち……よくも……」
カイの深紅の瞳が血のように赤く染まり、光を失っていく。理性のタガが外れ、彼の内に秘められていた強大すぎる魔力が制御を失って暴走を始めたのだ。
闘技場全体が彼の怒りに呼応するかのように激しく揺れる。空は暗雲に覆われ、魔力の嵐が全てを薙ぎ倒さんと吹き荒れる。
「ひっ……! な、なんだこいつは……!?」
ゲルハルト兄弟はカイの尋常ではない変化に、恐怖で顔を引きつらせた。もはや試合どころではない。自分たちの命が危ない。
「カイ! やめろ! 意識を保て!」
審判や教官たちが制止しようとするが、暴走したカイの魔力の前では誰一人として近づけない。
このままでは闘技場そのものが崩壊してしまう。誰もが絶望しかけた、その時だった。
呪いの苦痛で意識を失いかけていたユキが、朦朧としながらも無意識にカイの方へと手を伸ばした。
「か……い……」
そのか細い声に反応したかのように、カイの動きが一瞬だけ止まる。
するとユキの伸ばした手から、ふわりと温かくそして優しい黄金色の光が放たれた。その光はまるで意思を持っているかのようにゆっくりとカイへと向かって飛んでいく。
荒れ狂う魔力の嵐の中をその小さな光は少しも揺らぐことなく進み、やがてカイの胸にそっと触れた。
瞬間、カイの体から吹き出していた暴力的な魔力が嘘のように静かに収まっていった。嵐は止み空には再び光が戻る。まるで猛り狂う獣が飼い主の手に撫でられ、おとなしくなったかのようだった。
カイの瞳から赤い光が消え、彼は我に返ったように、はっと息を呑んだ。目の前には傷つき倒れているユキの姿。そして自分が何をしたのかを理解し、愕然とする。
試合はカイの暴走によって相手が戦闘不能となったため、結果的にユキたちの勝利となった。しかしその勝利は二人にあまりにも大きな爪痕を残した。
医務室でユキの治療にあたっていた学園長が、付き添っていたカイに静かに告げた。
「ユキ君の傷は私の治癒魔法でなんとか塞いだが、呪いは完全に解けておらん。……あの光は一体?」
カイがユキの放った光のことを話すと、学園長は目を見開き、そして何かを確信したように深くうなずいた。
「そうか……やはり、あの子は……」
学園長は古い書物の一節を語り始めた。それは遥か昔、この国を建国した王家に仕えたという伝説のオメガの一族に関する記述だった。
「その一族はあらゆる魔力を浄化し、荒ぶる魂さえも鎮めるという特別な『浄化の魔法』を使えたという。その力は代々血によって受け継がれる、と……」
カイは息を呑んだ。ユキの魔法はただの治癒魔法ではなかったのだ。それは歴史の闇に消えたはずの伝説の力。
カイは自らの制御できない力の危険性を思い知った。ユキを守るはずの自分が、逆に彼を最大の危険に晒してしまったのだ。その事実に打ちのめされていた。
そしてユキは眠りの中で、自身の血に流れる大きな謎と逃れられない宿命を突きつけられることになった。
相手は純血のアルファ至上主義を掲げる過激な思想を持つペア、ゲルハルト兄弟。彼らはオメガがアルファと対等に戦うこと自体を唾棄すべきことだと公言しており、特にユキに対してはあからさまな敵意を向けていた。
試合開始前から闘技場には不穏な空気が漂っていた。
「汚らわしいオメガが、カイ・フォン・エーレンベルクほどのアルファと番うとはな。世も末だ」
兄のゲルハルトが吐き捨てるように言った。
「試合が終わる頃には、お前は自分の無力さを思い知りアルファの足元にひれ伏すことになるだろう」
弟が嘲笑を浮かべてそれに続く。
「くだらない戯言はそれまでだ。実力で語れ」
カイは冷たく言い放った。彼の隣でユキもまた静かな怒りを瞳に宿して相手を睨みつけている。
試合開始の合図と共に、ゲルハルト兄弟は正々堂々とした魔法戦を避け、執拗にユキだけを狙ってきた。二人がかりでユキに集中砲火を浴びせ、カイがユキを庇おうとするとその隙を突いてカイに攻撃を仕掛けるという卑劣な戦法だった。
「ユキ、俺から離れるな!」
カイはユキを背後にかばいながら、迫りくる魔法を次々とかき消していく。しかし相手の攻撃はあまりにも執拗で、次第に防戦一方に追い込まれていった。
「カイ、僕も戦う!」
ユキはカイの背後から反撃の魔法を放とうとする。その一瞬の隙を相手は見逃さなかった。
「――かかったな、オメガ!」
弟のゲルハルトが不気味な笑みを浮かべ、短剣を投げつけた。それは通常の魔法の軌道とは全く異なる、予測不可能な動きでユキに迫る。
「しまっ……!」
カイが気づいてユキを突き飛ばすが、間に合わない。呪いを帯びた黒い刃がユキの肩を深く切り裂いた。
「ぐっ……ぁ……!」
ユキの口から苦痛に満ちた呻きが漏れる。傷口から黒い靄のようなものが立ち上り、みるみるうちに彼の顔から血の気が引いていく。それはただの物理的な傷ではなかった。精神と魔力の根源を直接蝕む悪質な呪いだった。
ユキが糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
その姿を見た瞬間、カイの中で何かがぷつりと切れた。
「…………ユキ……?」
カイの呟きは誰にも聞こえないほど小さかった。次の瞬間、彼の全身からこれまで誰も見たことのないほどの凄まじい魔力が嵐のように吹き荒れた。
「お……前たち……よくも……」
カイの深紅の瞳が血のように赤く染まり、光を失っていく。理性のタガが外れ、彼の内に秘められていた強大すぎる魔力が制御を失って暴走を始めたのだ。
闘技場全体が彼の怒りに呼応するかのように激しく揺れる。空は暗雲に覆われ、魔力の嵐が全てを薙ぎ倒さんと吹き荒れる。
「ひっ……! な、なんだこいつは……!?」
ゲルハルト兄弟はカイの尋常ではない変化に、恐怖で顔を引きつらせた。もはや試合どころではない。自分たちの命が危ない。
「カイ! やめろ! 意識を保て!」
審判や教官たちが制止しようとするが、暴走したカイの魔力の前では誰一人として近づけない。
このままでは闘技場そのものが崩壊してしまう。誰もが絶望しかけた、その時だった。
呪いの苦痛で意識を失いかけていたユキが、朦朧としながらも無意識にカイの方へと手を伸ばした。
「か……い……」
そのか細い声に反応したかのように、カイの動きが一瞬だけ止まる。
するとユキの伸ばした手から、ふわりと温かくそして優しい黄金色の光が放たれた。その光はまるで意思を持っているかのようにゆっくりとカイへと向かって飛んでいく。
荒れ狂う魔力の嵐の中をその小さな光は少しも揺らぐことなく進み、やがてカイの胸にそっと触れた。
瞬間、カイの体から吹き出していた暴力的な魔力が嘘のように静かに収まっていった。嵐は止み空には再び光が戻る。まるで猛り狂う獣が飼い主の手に撫でられ、おとなしくなったかのようだった。
カイの瞳から赤い光が消え、彼は我に返ったように、はっと息を呑んだ。目の前には傷つき倒れているユキの姿。そして自分が何をしたのかを理解し、愕然とする。
試合はカイの暴走によって相手が戦闘不能となったため、結果的にユキたちの勝利となった。しかしその勝利は二人にあまりにも大きな爪痕を残した。
医務室でユキの治療にあたっていた学園長が、付き添っていたカイに静かに告げた。
「ユキ君の傷は私の治癒魔法でなんとか塞いだが、呪いは完全に解けておらん。……あの光は一体?」
カイがユキの放った光のことを話すと、学園長は目を見開き、そして何かを確信したように深くうなずいた。
「そうか……やはり、あの子は……」
学園長は古い書物の一節を語り始めた。それは遥か昔、この国を建国した王家に仕えたという伝説のオメガの一族に関する記述だった。
「その一族はあらゆる魔力を浄化し、荒ぶる魂さえも鎮めるという特別な『浄化の魔法』を使えたという。その力は代々血によって受け継がれる、と……」
カイは息を呑んだ。ユキの魔法はただの治癒魔法ではなかったのだ。それは歴史の闇に消えたはずの伝説の力。
カイは自らの制御できない力の危険性を思い知った。ユキを守るはずの自分が、逆に彼を最大の危険に晒してしまったのだ。その事実に打ちのめされていた。
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