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第7話「嵐の前の試作」
玄との会合の後、暁の警戒は強まった。だが、俺の前ではそんな素振りを一切見せず、いつも通り穏やかに接してくれた。俺もまた、来たるべき儀式に向けて、福巻きの試作に全神経を集中させていた。
福巻きに込められる具材は七つ。古来より、七福神になぞらえ、七つの福を呼び込むとされている。最高の食材を前に、俺はどんな組み合わせが最も龍神への祈りを届けられるか、来る日も来る日も考え続けた。
調理場に立つ時間は、俺にとって至福の時だった。
暁が用意してくれた厨房は広くて清潔で、最新の調理器具まで揃っていた。ここでなら、俺の持てる技術の全てを出し切れる。
「今日は、海の幸を中心に試してみよう」
独り言をいいながら、俺は新鮮なエビやアナゴ、そして輝くようなイクラを丁寧に下ごしらえしていく。一つ一つの工程に、心を込めて。
夕方、公務を終えた暁が厨房に顔を出した。これは、最近の日課になっていた。
「伊吹、今日の試作品はできたか」
「はい、暁さん。ちょうど今、巻いたところです」
俺は完成したばかりの福巻きを切り分け、皿に盛り付けて暁に差し出した。彼はそれを一口食べると、ゆっくりと味わうように目を閉じる。この瞬間が、俺は一番緊張する。
「……うまい」
暁の口からその言葉が出ると、俺は心の底からほっとする。
「エビの甘みと、少し炙ったアナゴの香ばしさが見事に合わさっている。シイタケの煮つけもいいアクセントだ。だが……」
暁は少し考えるそぶりを見せ、続けた。
「何かが、少しだけ足りない気がする。味のまとまりはあるが、突き抜けるような感動が、まだ」
真剣な暁の批評に、俺は真摯に耳を傾ける。彼は決して美食家ぶるわけではない。けれど、龍神の血を引く者として、その舌は食べ物に宿る「気」や「魂」のようなものを敏感に感じ取れるらしかった。
「……わかりました。明日は、山の幸も加えて、もっと味に奥行きが出るように工夫してみます」
「ああ、楽しみにしている」
暁はそう言うと、残りの福巻きも美味しそうに平らげてくれた。
二人きりの穏やかな時間。
暁が味見役で、俺が作り手。それは、まるで食事処「木漏れ日」で過ごした日々の続きのようで、俺の心を温かいもので満たした。俺は料理人としての喜びを、日に日に取り戻していった。
そんなある日のことだった。
儀式で使うために、暁が特別に取り寄せてくれた「龍の涙」と呼ばれる最高級の米が、蔵から忽然と姿を消すという事件が起こった。
「そんな……!蔵は厳重に管理されていたはずなのに!」
報告を聞いた俺は、血の気が引くのを感じた。あの米がなければ、最高の福巻きは作れない。
「落ち着け、伊吹」
暁は俺の肩を抱き、なだめるように言った。しかし、その表情は険しい。
「おそらく、何者かが蔵から盗み出したんだろう。すぐに代わりの米は手配させる。だが……」
これは、単なる盗難事件ではない。
儀式を妨害しようとする者による、明らかな妨害工作だ。そして、そんなことを企む人物に、暁は心当たりがあった。
『玄の仕業か……!』
暁の拳が、固く握りしめられる。
嵐が、すぐそこまで近づいてきている。俺たちの穏やかで幸せな日々は、見えざる敵の策略によって、終わりを告げようとしていた。
福巻きに込められる具材は七つ。古来より、七福神になぞらえ、七つの福を呼び込むとされている。最高の食材を前に、俺はどんな組み合わせが最も龍神への祈りを届けられるか、来る日も来る日も考え続けた。
調理場に立つ時間は、俺にとって至福の時だった。
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俺は完成したばかりの福巻きを切り分け、皿に盛り付けて暁に差し出した。彼はそれを一口食べると、ゆっくりと味わうように目を閉じる。この瞬間が、俺は一番緊張する。
「……うまい」
暁の口からその言葉が出ると、俺は心の底からほっとする。
「エビの甘みと、少し炙ったアナゴの香ばしさが見事に合わさっている。シイタケの煮つけもいいアクセントだ。だが……」
暁は少し考えるそぶりを見せ、続けた。
「何かが、少しだけ足りない気がする。味のまとまりはあるが、突き抜けるような感動が、まだ」
真剣な暁の批評に、俺は真摯に耳を傾ける。彼は決して美食家ぶるわけではない。けれど、龍神の血を引く者として、その舌は食べ物に宿る「気」や「魂」のようなものを敏感に感じ取れるらしかった。
「……わかりました。明日は、山の幸も加えて、もっと味に奥行きが出るように工夫してみます」
「ああ、楽しみにしている」
暁はそう言うと、残りの福巻きも美味しそうに平らげてくれた。
二人きりの穏やかな時間。
暁が味見役で、俺が作り手。それは、まるで食事処「木漏れ日」で過ごした日々の続きのようで、俺の心を温かいもので満たした。俺は料理人としての喜びを、日に日に取り戻していった。
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