追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん

文字の大きさ
5 / 24

第4話「悲しみの呪縛」

しおりを挟む
 頭痛が少しずつ和らいでいく中、カイルの脳裏には、スキルの情報と共に断片的な映像が浮かび上がっていた。

 それは、今よりもずっと昔の光景。

 夕焼けに染まる丘の上で、二人の若者が笑い合っている。

 一人は、今のレイルよりもずっと穏やかな表情をした黒髪の青年。もう一人は、太陽のような金色の髪を持つ、快活な青年だった。

 彼らは親友なのだと、一目でわかった。楽しそうに語り合い、未来を夢見ていた。

 しかし、場面は暗転する。

 何が原因だったのか、黒髪の青年――若き日のレイルが、制御できないほどの強大な魔力にのみ込まれ、暴走を始めていた。世界を破壊しかねないその力に、誰もが絶望する。

 そんな中、ただ一人、金色の髪の英雄――アルトリウスだけが彼の前に立ちはだかった。

『止まれ、レイル! 親友のお前を、俺のこの手で止めさせてくれ……!』

 英雄の目からは涙がこぼれていた。彼は剣を構え、呪文を詠唱する。

 それは、相手を滅ぼすためのものではない。苦渋の決断だった。愛する友が、これ以上罪を重ねないように。いつか、誰かが彼の心を救い出してくれることを信じて。

 自らの命を魔法陣に注ぎ込みながら、英雄は泣いていた。

『すまない……レイル。俺がもっと強ければ……。いつか、お前の孤独を本当に理解してくれる者と出会ってくれ。これは罰じゃない。お前を守るための、俺の……悲しみの呪いだ』

 英雄の体が光の粒子となって消えていくと同時に、暴走するレイルの全身に茨の封印が刻み込まれていく。世界は救われた。だが、そこには悲劇しか残らなかった。

 ***

「……そうか、これが……」

 カイルは顔を上げた。

 目の前の魔王が苦しむこの呪いは、人々が噂するような邪悪なものではなかった。友が、愛する友を救うために、悲しみの中でかけた、あまりにも切ない封印の魔法だったのだ。

 そう理解した瞬間、カイルの胸に熱いものがこみ上げてきた。

 この人は、ただ暴走しただけだ。そして、友に封印され、永い、永い時間、たった一人でこの城に囚われ、苦しみ続けてきた。

「ひどい……あんまりだ……」

 気づけば、カイルの瞳から涙が零れ落ちていた。それは、英雄の悲しみへの共感か、あるいはレイルの孤独への同情か。

 レイルは、カイルの突然の涙に目を見開いていた。

「貴様……なぜ、泣いている……?」

 触れた瞬間にカイルが苦しみだしたこと、そして今、涙を流していること。レイルには何が起きているのか理解できなかった。

 カイルは濡れた瞳で、まっすぐにレイルを見つめた。

 追放され、絶望し、死ぬことだけを考えていた。忌み嫌っていたこのスキルも、心から呪っていた。

 だが、今は違う。

 この力があるから、自分は彼の苦しみの真実を知ることができた。この力があるから、もしかしたら。

「……あなたを、救いたい」

 か細い、しかし確かな意志を込めて、カイルは言った。

 恐怖はまだある。けれど、それ以上に、目の前の孤独な魔王をこのままにはしておけないという強い想いが、カイルの心を支配していた。

 この出会いは、絶望の終わりじゃない。きっと、何かの始まりなのだと、カイルは強く感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

処理中です...