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第4話「悲しみの呪縛」
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頭痛が少しずつ和らいでいく中、カイルの脳裏には、スキルの情報と共に断片的な映像が浮かび上がっていた。
それは、今よりもずっと昔の光景。
夕焼けに染まる丘の上で、二人の若者が笑い合っている。
一人は、今のレイルよりもずっと穏やかな表情をした黒髪の青年。もう一人は、太陽のような金色の髪を持つ、快活な青年だった。
彼らは親友なのだと、一目でわかった。楽しそうに語り合い、未来を夢見ていた。
しかし、場面は暗転する。
何が原因だったのか、黒髪の青年――若き日のレイルが、制御できないほどの強大な魔力にのみ込まれ、暴走を始めていた。世界を破壊しかねないその力に、誰もが絶望する。
そんな中、ただ一人、金色の髪の英雄――アルトリウスだけが彼の前に立ちはだかった。
『止まれ、レイル! 親友のお前を、俺のこの手で止めさせてくれ……!』
英雄の目からは涙がこぼれていた。彼は剣を構え、呪文を詠唱する。
それは、相手を滅ぼすためのものではない。苦渋の決断だった。愛する友が、これ以上罪を重ねないように。いつか、誰かが彼の心を救い出してくれることを信じて。
自らの命を魔法陣に注ぎ込みながら、英雄は泣いていた。
『すまない……レイル。俺がもっと強ければ……。いつか、お前の孤独を本当に理解してくれる者と出会ってくれ。これは罰じゃない。お前を守るための、俺の……悲しみの呪いだ』
英雄の体が光の粒子となって消えていくと同時に、暴走するレイルの全身に茨の封印が刻み込まれていく。世界は救われた。だが、そこには悲劇しか残らなかった。
***
「……そうか、これが……」
カイルは顔を上げた。
目の前の魔王が苦しむこの呪いは、人々が噂するような邪悪なものではなかった。友が、愛する友を救うために、悲しみの中でかけた、あまりにも切ない封印の魔法だったのだ。
そう理解した瞬間、カイルの胸に熱いものがこみ上げてきた。
この人は、ただ暴走しただけだ。そして、友に封印され、永い、永い時間、たった一人でこの城に囚われ、苦しみ続けてきた。
「ひどい……あんまりだ……」
気づけば、カイルの瞳から涙が零れ落ちていた。それは、英雄の悲しみへの共感か、あるいはレイルの孤独への同情か。
レイルは、カイルの突然の涙に目を見開いていた。
「貴様……なぜ、泣いている……?」
触れた瞬間にカイルが苦しみだしたこと、そして今、涙を流していること。レイルには何が起きているのか理解できなかった。
カイルは濡れた瞳で、まっすぐにレイルを見つめた。
追放され、絶望し、死ぬことだけを考えていた。忌み嫌っていたこのスキルも、心から呪っていた。
だが、今は違う。
この力があるから、自分は彼の苦しみの真実を知ることができた。この力があるから、もしかしたら。
「……あなたを、救いたい」
か細い、しかし確かな意志を込めて、カイルは言った。
恐怖はまだある。けれど、それ以上に、目の前の孤独な魔王をこのままにはしておけないという強い想いが、カイルの心を支配していた。
この出会いは、絶望の終わりじゃない。きっと、何かの始まりなのだと、カイルは強く感じていた。
それは、今よりもずっと昔の光景。
夕焼けに染まる丘の上で、二人の若者が笑い合っている。
一人は、今のレイルよりもずっと穏やかな表情をした黒髪の青年。もう一人は、太陽のような金色の髪を持つ、快活な青年だった。
彼らは親友なのだと、一目でわかった。楽しそうに語り合い、未来を夢見ていた。
しかし、場面は暗転する。
何が原因だったのか、黒髪の青年――若き日のレイルが、制御できないほどの強大な魔力にのみ込まれ、暴走を始めていた。世界を破壊しかねないその力に、誰もが絶望する。
そんな中、ただ一人、金色の髪の英雄――アルトリウスだけが彼の前に立ちはだかった。
『止まれ、レイル! 親友のお前を、俺のこの手で止めさせてくれ……!』
英雄の目からは涙がこぼれていた。彼は剣を構え、呪文を詠唱する。
それは、相手を滅ぼすためのものではない。苦渋の決断だった。愛する友が、これ以上罪を重ねないように。いつか、誰かが彼の心を救い出してくれることを信じて。
自らの命を魔法陣に注ぎ込みながら、英雄は泣いていた。
『すまない……レイル。俺がもっと強ければ……。いつか、お前の孤独を本当に理解してくれる者と出会ってくれ。これは罰じゃない。お前を守るための、俺の……悲しみの呪いだ』
英雄の体が光の粒子となって消えていくと同時に、暴走するレイルの全身に茨の封印が刻み込まれていく。世界は救われた。だが、そこには悲劇しか残らなかった。
***
「……そうか、これが……」
カイルは顔を上げた。
目の前の魔王が苦しむこの呪いは、人々が噂するような邪悪なものではなかった。友が、愛する友を救うために、悲しみの中でかけた、あまりにも切ない封印の魔法だったのだ。
そう理解した瞬間、カイルの胸に熱いものがこみ上げてきた。
この人は、ただ暴走しただけだ。そして、友に封印され、永い、永い時間、たった一人でこの城に囚われ、苦しみ続けてきた。
「ひどい……あんまりだ……」
気づけば、カイルの瞳から涙が零れ落ちていた。それは、英雄の悲しみへの共感か、あるいはレイルの孤独への同情か。
レイルは、カイルの突然の涙に目を見開いていた。
「貴様……なぜ、泣いている……?」
触れた瞬間にカイルが苦しみだしたこと、そして今、涙を流していること。レイルには何が起きているのか理解できなかった。
カイルは濡れた瞳で、まっすぐにレイルを見つめた。
追放され、絶望し、死ぬことだけを考えていた。忌み嫌っていたこのスキルも、心から呪っていた。
だが、今は違う。
この力があるから、自分は彼の苦しみの真実を知ることができた。この力があるから、もしかしたら。
「……あなたを、救いたい」
か細い、しかし確かな意志を込めて、カイルは言った。
恐怖はまだある。けれど、それ以上に、目の前の孤独な魔王をこのままにはしておけないという強い想いが、カイルの心を支配していた。
この出会いは、絶望の終わりじゃない。きっと、何かの始まりなのだと、カイルは強く感じていた。
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