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第8話「檻の中の反逆者」
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視界が赤いフィルターをかけたように歪み、耳の奥で心臓の音がうるさいほどに鳴り響いている。
飛燕の意識は、熱に浮かされたように朦朧としていた。
気がついたときには、彼は見知らぬ薄暗い部屋の床に転がされていた。
埃っぽく、カビの臭いがするこの場所は、おそらく学園の敷地外れにある、普段は誰も寄り付かない旧校舎の一室だろう。
手首と足首は太い麻縄で後ろ手にきつく縛り上げられており、身動きが取れない。
「はぁっ……くそっ……」
飛燕は荒い息を吐き出しながら、なんとか上体を起こそうと身をよじった。
しかし、薬のせいで身体の奥から絶え間なく湧き上がる異常な熱が、全身の筋肉から完全に力を奪い去っていた。
肌が粟立ち、指先が微かに震える。
自分が発している、花蜜が腐りかけたような、ひどく甘ったるくて濃密な匂いが鼻をつき、吐き気すら催しそうだった。
「目を覚ましたか、飛燕」
部屋の隅から、靴音を響かせて近づいてくる影があった。
先ほど渡り廊下で飛燕に薬を浴びせた、金髪の男だ。
男の背後には、同じく貴族派閥の生徒たちが数人、薄ら笑いを浮かべて立っている。
「てめえら……こんな真似して、タダで済むと思ってんのか……」
飛燕が掠れた声で睨みつけると、男はしゃがみ込み、飛燕の顎を乱暴に掴んで無理やり上を向かせた。
「タダで済ませるつもりはないさ。君にはここで、我々のために素晴らしい働きをしてもらう」
男の瞳には、ドス黒い欲望と、蒼龍に対する深い憎悪が渦巻いていた。
「蒼龍の弱点は君だ。あの氷の男が、たかがオメガ一人に執着している。それがどれほど滑稽で、我々にとって都合の良いことか」
男の言葉に、飛燕の胃の奥がキリキリと冷たく痛んだ。
自分が蒼龍の弱点として利用されている。
その事実が、薬の熱とは別の意味で、飛燕の心を激しくかき乱した。
「君のこの甘い匂いに誘われて、あの男は必ずここへ来る。そして、発情した君の姿を見て動揺したところを、我々が総がかりで叩き潰す」
「……ふざけんな。会長が、お前らみたいなチンピラなんかに遅れをとるわけねえだろ」
「強がるのも今のうちだ。君の身体は、もう限界に近いんじゃないのか」
男が意地悪く微笑みながら、飛燕の首筋に顔を近づけ、深く息を吸い込んだ。
アルファの不快な匂いが飛燕の嗅覚を激しく刺激し、オメガとしての本能が恐怖と嫌悪感で悲鳴を上げる。
「やめろっ……触るな」
飛燕は縛られた身体を必死によじって抵抗したが、男は容赦なく飛燕の制服の襟元を掴み、乱暴に引き裂いた。
ビリッという嫌な音とともに、白い肌が冷たい空気に晒される。
「蒼龍が来る前に、少し味見をしておくのも悪くない」
男の唇が飛燕の鎖骨に触れようとした、その瞬間だった。
飛燕の脳裏に、前世の記憶が鮮烈にフラッシュバックした。
雨の降る路地裏。多勢に無勢でボコボコにされ、泥水に顔を押し付けられながらも、決して相手に屈しなかったあの日の記憶。
『真っ当に生きろ、飛燕』
祖母の声が、鼓膜を震わせる。
そうだ。自分は、こんな理不尽に負けるために二度目の命をもらったわけじゃない。
真っ当に生きるということは、黙って暴力を受け入れることではない。
大切なものを守るために、理不尽に立ち向かうことだ。
飛燕の黒い瞳の奥に、かつての不良時代に燃やしていた、凶暴で純粋な闘争の炎が再び宿った。
「……舐めんじゃねえぞ、三流が」
地を這うような低い声とともに、飛燕の身体の内側から、信じられないほどの気のエネルギーが爆発的に膨れ上がった。
薬の熱を、気合いという物理的な力で強引にねじ伏せる。
手首と足首を縛っていた太い麻縄が、飛燕の規格外の腕力と膨張した気によって、まるで細い糸のようにあっさりと引きちぎられた。
「なっ……」
男が驚愕に目を見開いた瞬間、自由になった飛燕の右の拳が、下から突き上げるように男の顎を完璧に捉えた。
鈍い音とともに、男の身体が宙を舞い、部屋の壁に激突して崩れ落ちる。
「な、なんだと。あの薬を吸って、なぜ動ける」
残された貴族の生徒たちが、パニックに陥りながら一斉に後ずさった。
飛燕は荒い息を吐き、引き裂かれた制服の襟を片手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
薬の効果は完全に切れていない。身体は鉛のように重く、熱で視界はまだ揺れている。
だが、その瞳に宿る野生の獣のような獰猛な光は、アルファである彼らを本能的な恐怖で震え上がらせるには十分すぎた。
「オメガだからって、お前らみたいな卑怯なやつらに負けるかよ」
飛燕は口の中に溜まった血と唾液を床に吐き捨て、拳を強く握り直した。
ここから先は、正当防衛だ。
祖母への誓いを胸に、飛燕は不利な状況を覆すべく、迫り来る敵に向かって一歩を踏み出した。
飛燕の意識は、熱に浮かされたように朦朧としていた。
気がついたときには、彼は見知らぬ薄暗い部屋の床に転がされていた。
埃っぽく、カビの臭いがするこの場所は、おそらく学園の敷地外れにある、普段は誰も寄り付かない旧校舎の一室だろう。
手首と足首は太い麻縄で後ろ手にきつく縛り上げられており、身動きが取れない。
「はぁっ……くそっ……」
飛燕は荒い息を吐き出しながら、なんとか上体を起こそうと身をよじった。
しかし、薬のせいで身体の奥から絶え間なく湧き上がる異常な熱が、全身の筋肉から完全に力を奪い去っていた。
肌が粟立ち、指先が微かに震える。
自分が発している、花蜜が腐りかけたような、ひどく甘ったるくて濃密な匂いが鼻をつき、吐き気すら催しそうだった。
「目を覚ましたか、飛燕」
部屋の隅から、靴音を響かせて近づいてくる影があった。
先ほど渡り廊下で飛燕に薬を浴びせた、金髪の男だ。
男の背後には、同じく貴族派閥の生徒たちが数人、薄ら笑いを浮かべて立っている。
「てめえら……こんな真似して、タダで済むと思ってんのか……」
飛燕が掠れた声で睨みつけると、男はしゃがみ込み、飛燕の顎を乱暴に掴んで無理やり上を向かせた。
「タダで済ませるつもりはないさ。君にはここで、我々のために素晴らしい働きをしてもらう」
男の瞳には、ドス黒い欲望と、蒼龍に対する深い憎悪が渦巻いていた。
「蒼龍の弱点は君だ。あの氷の男が、たかがオメガ一人に執着している。それがどれほど滑稽で、我々にとって都合の良いことか」
男の言葉に、飛燕の胃の奥がキリキリと冷たく痛んだ。
自分が蒼龍の弱点として利用されている。
その事実が、薬の熱とは別の意味で、飛燕の心を激しくかき乱した。
「君のこの甘い匂いに誘われて、あの男は必ずここへ来る。そして、発情した君の姿を見て動揺したところを、我々が総がかりで叩き潰す」
「……ふざけんな。会長が、お前らみたいなチンピラなんかに遅れをとるわけねえだろ」
「強がるのも今のうちだ。君の身体は、もう限界に近いんじゃないのか」
男が意地悪く微笑みながら、飛燕の首筋に顔を近づけ、深く息を吸い込んだ。
アルファの不快な匂いが飛燕の嗅覚を激しく刺激し、オメガとしての本能が恐怖と嫌悪感で悲鳴を上げる。
「やめろっ……触るな」
飛燕は縛られた身体を必死によじって抵抗したが、男は容赦なく飛燕の制服の襟元を掴み、乱暴に引き裂いた。
ビリッという嫌な音とともに、白い肌が冷たい空気に晒される。
「蒼龍が来る前に、少し味見をしておくのも悪くない」
男の唇が飛燕の鎖骨に触れようとした、その瞬間だった。
飛燕の脳裏に、前世の記憶が鮮烈にフラッシュバックした。
雨の降る路地裏。多勢に無勢でボコボコにされ、泥水に顔を押し付けられながらも、決して相手に屈しなかったあの日の記憶。
『真っ当に生きろ、飛燕』
祖母の声が、鼓膜を震わせる。
そうだ。自分は、こんな理不尽に負けるために二度目の命をもらったわけじゃない。
真っ当に生きるということは、黙って暴力を受け入れることではない。
大切なものを守るために、理不尽に立ち向かうことだ。
飛燕の黒い瞳の奥に、かつての不良時代に燃やしていた、凶暴で純粋な闘争の炎が再び宿った。
「……舐めんじゃねえぞ、三流が」
地を這うような低い声とともに、飛燕の身体の内側から、信じられないほどの気のエネルギーが爆発的に膨れ上がった。
薬の熱を、気合いという物理的な力で強引にねじ伏せる。
手首と足首を縛っていた太い麻縄が、飛燕の規格外の腕力と膨張した気によって、まるで細い糸のようにあっさりと引きちぎられた。
「なっ……」
男が驚愕に目を見開いた瞬間、自由になった飛燕の右の拳が、下から突き上げるように男の顎を完璧に捉えた。
鈍い音とともに、男の身体が宙を舞い、部屋の壁に激突して崩れ落ちる。
「な、なんだと。あの薬を吸って、なぜ動ける」
残された貴族の生徒たちが、パニックに陥りながら一斉に後ずさった。
飛燕は荒い息を吐き、引き裂かれた制服の襟を片手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
薬の効果は完全に切れていない。身体は鉛のように重く、熱で視界はまだ揺れている。
だが、その瞳に宿る野生の獣のような獰猛な光は、アルファである彼らを本能的な恐怖で震え上がらせるには十分すぎた。
「オメガだからって、お前らみたいな卑怯なやつらに負けるかよ」
飛燕は口の中に溜まった血と唾液を床に吐き捨て、拳を強く握り直した。
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