16 / 16
エピローグ「変わらないもの、変わっていくもの」
しおりを挟む
それから数年の歳月が流れた。
天耀学舎は、蒼龍と飛燕が中心となって推し進めた改革により、見違えるような変貌を遂げていた。
身分や性別による理不尽な差別は過去のものとなり、実力と志を持つ若者たちが、互いに切磋琢磨する活気あふれる学び舎へと生まれ変わったのだ。
その実績が評価され、蒼龍は若くして帝国の中枢である評議会に名を連ねるまでに出世していた。
しかし、彼がどれだけ多忙になろうとも、絶対に変わらないものが一つだけあった。
***
「飛燕。今日の夕食の献立だが、お前の好きな辛味の効いた肉料理を料理長に用意させた」
帝都の一等地にある、蒼龍の豪奢な私邸。
その広大な中庭で、木刀を振って汗を流していた飛燕の元へ、評議会の重々しい制服をまとった蒼龍が足早に近づいてきた。
彼の背後には、いつものように数人の側近が控えているが、蒼龍の視線は飛燕ただ一人に注がれている。
「会長……いや、蒼龍。仕事中だろ。なんでわざわざ戻ってきてんだよ」
飛燕が木刀を下ろし、呆れたようにため息をつきながら額の汗を手の甲で拭うと、蒼龍は眉根を寄せ、手にした絹のハンカチで飛燕の顔を丁寧に拭き始めた。
「お前の顔が見たくなったからだ。それに、汗をかいたまま放置して風邪でも引いたらどうする」
「だから、俺はそんなヤワじゃねえって何百回言えば……」
「何度言われても、俺がお前を心配する気持ちは変わらない」
相変わらずの過保護っぷりに、飛燕は口を尖らせながらも、拭われるがままに大人しくしている。
側近たちはその光景にすっかり慣れきった様子で、見ざる言わざるを決め込んでいた。
「あのさ、蒼龍」
飛燕は少しだけ真面目な顔つきになり、蒼龍の冷たくも優しい瞳を真っすぐに見つめ返した。
「学園は変わった。帝国も、少しずつだけど変わり始めてる」
「ああ。お前が俺のそばで支えてくれたおかげだ」
「俺は何もしてねえよ。ただ、あんたが間違った方向に進まないように、見張ってただけだ」
飛燕が照れ隠しにそっぽを向くと、蒼龍は愛おしそうに微笑み、飛燕の少しだけ硬くなった右手を両手で包み込んだ。
前世で喧嘩に明け暮れ、今世でも理不尽に立ち向かうために振るってきたこの拳は、今では蒼龍の温もりを知り、誰かを守るための確かな力となっていた。
「これからも、俺を見張っていてくれ。お前がいなければ、俺はすぐに道を誤ってしまうからな」
「……言われなくても、一生ついてってやるよ。覚悟しとけ」
飛燕のぶっきらぼうな、しかし心からの誓いに、蒼龍は満足そうに目を細め、その唇をそっと飛燕の額に落とした。
澄み渡る青空の下、二人の影はこれからも長く、どこまでも寄り添いながら続いていく。
真っ当な生き方を見つけた元不良のオメガと、彼を溺愛してやまない絶対君主の物語は、この先も騒がしく、そして果てしなく甘く紡がれていくのだった。
天耀学舎は、蒼龍と飛燕が中心となって推し進めた改革により、見違えるような変貌を遂げていた。
身分や性別による理不尽な差別は過去のものとなり、実力と志を持つ若者たちが、互いに切磋琢磨する活気あふれる学び舎へと生まれ変わったのだ。
その実績が評価され、蒼龍は若くして帝国の中枢である評議会に名を連ねるまでに出世していた。
しかし、彼がどれだけ多忙になろうとも、絶対に変わらないものが一つだけあった。
***
「飛燕。今日の夕食の献立だが、お前の好きな辛味の効いた肉料理を料理長に用意させた」
帝都の一等地にある、蒼龍の豪奢な私邸。
その広大な中庭で、木刀を振って汗を流していた飛燕の元へ、評議会の重々しい制服をまとった蒼龍が足早に近づいてきた。
彼の背後には、いつものように数人の側近が控えているが、蒼龍の視線は飛燕ただ一人に注がれている。
「会長……いや、蒼龍。仕事中だろ。なんでわざわざ戻ってきてんだよ」
飛燕が木刀を下ろし、呆れたようにため息をつきながら額の汗を手の甲で拭うと、蒼龍は眉根を寄せ、手にした絹のハンカチで飛燕の顔を丁寧に拭き始めた。
「お前の顔が見たくなったからだ。それに、汗をかいたまま放置して風邪でも引いたらどうする」
「だから、俺はそんなヤワじゃねえって何百回言えば……」
「何度言われても、俺がお前を心配する気持ちは変わらない」
相変わらずの過保護っぷりに、飛燕は口を尖らせながらも、拭われるがままに大人しくしている。
側近たちはその光景にすっかり慣れきった様子で、見ざる言わざるを決め込んでいた。
「あのさ、蒼龍」
飛燕は少しだけ真面目な顔つきになり、蒼龍の冷たくも優しい瞳を真っすぐに見つめ返した。
「学園は変わった。帝国も、少しずつだけど変わり始めてる」
「ああ。お前が俺のそばで支えてくれたおかげだ」
「俺は何もしてねえよ。ただ、あんたが間違った方向に進まないように、見張ってただけだ」
飛燕が照れ隠しにそっぽを向くと、蒼龍は愛おしそうに微笑み、飛燕の少しだけ硬くなった右手を両手で包み込んだ。
前世で喧嘩に明け暮れ、今世でも理不尽に立ち向かうために振るってきたこの拳は、今では蒼龍の温もりを知り、誰かを守るための確かな力となっていた。
「これからも、俺を見張っていてくれ。お前がいなければ、俺はすぐに道を誤ってしまうからな」
「……言われなくても、一生ついてってやるよ。覚悟しとけ」
飛燕のぶっきらぼうな、しかし心からの誓いに、蒼龍は満足そうに目を細め、その唇をそっと飛燕の額に落とした。
澄み渡る青空の下、二人の影はこれからも長く、どこまでも寄り添いながら続いていく。
真っ当な生き方を見つけた元不良のオメガと、彼を溺愛してやまない絶対君主の物語は、この先も騒がしく、そして果てしなく甘く紡がれていくのだった。
1
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた
雪兎
BL
あらすじ
全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。
相手は学年でも有名な優等生α。
成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに——
めちゃくちゃ塩対応。
挨拶しても「……ああ」。
話しかけても「別に」。
距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。
(俺、そんなに嫌われてる……?)
同室なのに会話は最低限。
むしろ避けられている気さえある。
けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、
その塩対応αだった。
しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。
「……他のαに近づくな」
「お前は俺の……」
そこで言葉を飲み込む彼。
それ以来、少しずつ態度が変わり始める。
距離は相変わらず近くない。
口数も少ない。
だけど――
他のαが近づくと、さりげなく間に入る。
発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。
そして時々、独占欲を隠しきれない視線。
実は彼はずっと前から知っていた。
俺が、
自分の運命の番かもしれないΩだということを。
だからこそ距離を取っていた。
触れたら、もう止まれなくなるから。
だけど同室生活の中で、
少しずつ、確実に距離は変わっていく。
塩対応の裏に隠されていたのは――
重すぎるほどの独占欲だった。
ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる
雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。
ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。
「フェロモンに振り回されるのは非合理的」
そう思っていたのに――。
新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。
人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。
「先輩って、恋したことないでしょ」
「……必要ないからな」
「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」
余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。
からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。
これは、理屈ではどうにもならない
“ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる