感情を抑制された人工オメガの俺は、子を産む器として冷酷な氷帝に献上されたはずが、なぜか狂おしいほど執着され溺愛されています

水凪しおん

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エピローグ「永遠を紡ぐ光」

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 あれから、五年という歳月が流れた。

 エーデルシュタイン帝国は、リアムの賢明な統治と、エールの慈愛に満ちた人柄によって、かつてないほどの平和と繁栄の時代を迎えていた。

 かつて氷帝と恐れられたリアムは、今では民から「慈帝」と呼ばれ、敬愛を集めている。もちろん、政敵や帝国の平和を乱す者に対しては、今も変わらず冷徹な一面を見せるが、その根底には、常に民と、そして何よりも愛する家族を守るという、強い意志があった。

 離宮の庭は、見違えるように美しくなっていた。

 かつてエールが水をやっていた枯れた花壇には、色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りを漂わせている。

 その庭の中央に置かれたベンチで、リアムとエールは、一人の小さな子どもを見守っていた。

「アレク! あまり遠くへ行ってはだめよ」

 エールの声は、母親のものらしく、優しく、そして少し心配そうな色を帯びていた。

「はーい、父上!」

 元気よく返事をしたのは、二人の間に生まれた皇子、アレクシス。陽光を浴びて輝く金色の髪はリアムから、そして優しげな瑠璃色の瞳はエールから受け継いでいた。

 四歳になったばかりのアレクシスは、庭を駆け回り、蝶々を追いかけている。その元気な姿は、この帝国の明るい未来そのものだった。

 リアムは、そんな息子の姿を、穏やかな目で見つめていた。その横顔には、かつての冷徹な皇帝の面影は微塵もない。ただ、愛する家族を見守る、一人の父親の顔があった。

 彼は、隣に座るエールの肩を、そっと抱き寄せた。

「少し、疲れましたか?」

 エールは、リアムの胸に心地よさそうに寄りかかりながら、こくりとうなずいた。彼のお腹は、再びふっくらと大きくなっている。第二子を身ごもっているのだ。

「あの子は、本当に元気ですね。一日中、走り回っていても、疲れないのかしら」

「お前に似たんだ。いや、俺にか」

 リアムは、楽しそうに笑った。

 二人の間には、言葉にしなくてもお互いの考えていることがわかるような、穏やかで、深い信頼関係が築かれていた。

 エールは、大きくなった自分のお腹を、愛おしそうに撫でた。

「今度の子は、あなたに似た、綺麗な紫紺の瞳だといいですね」

「いや、お前と同じ、瑠璃色の瞳がいい。どちらにしても、きっと可愛いだろうがな」

 リアムは、エールのお腹に手を重ねた。そこから伝わる、小さな命の鼓動。

 五年前、絶望の淵にいた自分が、こんなにも幸せな未来を手にすることができるなんて、エールは夢にも思わなかった。

 全ては、この人の揺るぎない愛があったから。

 エールは、リアムの顔を見上げ、その唇に、感謝と愛情を込めたキスをした。

 リアムもまた、優しくそのキスを受け止める。

 遠くで、アレクシスが蝶々を捕まえたらしく、「つかまえたー!」と、はしゃぐ声が聞こえる。

 それは、どこにでもある、ありふれた家族の幸せな光景だった。

 だが、この二人にとっては、幾多の苦難を乗り越えて、ようやく手に入れた、何物にも代えがたい宝物だった。

 リアムは、エールを抱きしめる腕に、力を込めた。

「エール。愛している」

「はい。俺も、愛しています、リアム」

「永遠に、お前だけを」

「はい、永遠に、あなただけを」

 陽光が、寄り添う二人と、その腕の中に宿る新たな光、そして庭を駆け回る小さな光を、優しく、そしていつまでも照らし続けていた。

 感情を知らなかった人形と、孤独だった皇帝。

 二人が紡ぐ物語は、これからも、永遠に続いていく。

 輝かしい光と共に。
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