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第5話「雪解けの予感と募る独占欲」
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冬至を過ぎても、王都の寒さは一向に和らぐ気配を見せなかった。しかし、ヴィオの屋敷の中庭には、わずかながら変化の兆しが表れていた。ルカが暇を見つけては手入れをしていた小さな温室の跡地に、寒さに強い冬咲きの花がいくつも蕾をつけていたのだ。
その日の午後、非番だったヴィオは、珍しくルカと一緒に中庭に出ていた。分厚い外套を羽織り、不機嫌そうに眉を寄せているヴィオの隣で、ルカは薄着のまま嬉しそうに花の蕾をのぞき込んでいる。
「見てください、ヴィオさん。もう少しで咲きそうですよ。白い花びらが少しだけ見えてます」
「くだらん。そんな雑草が咲いたところで、この寒さがどうにかなるわけでもないだろう。さっさと中に入るぞ。お前の熱が外気に奪われる」
ヴィオは吐き捨てるように言いながら、ルカの腕を強引に引いた。その手の力は強く、ルカの体温を自分だけのものにしておきたいという、隠しきれない独占欲が滲み出ていた。
「もう、ヴィオさんはせっかちですね。でも、お花が咲いたら、少しは屋敷の中も明るくなると思うんです」
ルカは引かれるままに歩きながら、ヴィオの背中を見つめた。最近のヴィオは、ルカが他の使用人と話しているだけでも不機嫌になることが増えていた。ルカが庭師に植物の育て方を聞いていると、どこからともなく現れてルカを連れ去ってしまうのだ。
***
屋敷に戻ると、ヴィオは外套を脱ぎ捨てるなり、ルカをリビングの長椅子へと押し倒した。突然の行動にルカが目を白黒させていると、ヴィオはルカの上に覆い被さるようにして、その首筋に顔を埋めた。
「ヴィ、ヴィオさん?」
「黙れ。お前は外の冷たい空気を吸いすぎた。俺のフェロモンで上書きしないと、落ち着かない」
ヴィオの言葉は支離滅裂だったが、その行動は切実だった。ルカの首筋に鼻先をこすりつけ、深く息を吸い込む。ヴィオの氷のようなフェロモンが、ルカの甘い干し草の香りを包み込むように濃密に放たれた。それは、他のアルファを牽制するような、強烈なマーキングの行為に近かった。
『ヴィオさん、最近なんだか……余裕がないみたい』
ルカはヴィオの背中に腕を回し、ゆっくりと撫でた。ヴィオの体は外気に触れていたせいか、いつも以上に冷え切っている。ルカは自分の体温を上げるように意識し、フェロモンを少し強めに放出した。甘く温かい香りがヴィオの冷気を和らげ、彼の強張った筋肉をゆっくりと解きほぐしていく。
「お前は、本当に無防備すぎる。誰にでも愛想を振りまいて、自分の匂いをまき散らすな」
ヴィオの声はくぐもっていたが、そこにははっきりとした苛立ちが混じっていた。
「まき散らしてなんていませんよ。それに、僕の匂いはヴィオさんだけのものですから」
ルカは無意識のうちに、ヴィオが一番欲しがっている言葉を口にしていた。その言葉を聞いた瞬間、ヴィオの体がびくりと震え、顔を上げてルカを見つめた。金の瞳には、驚きと、そして隠しきれない深い執着の光が揺らめいている。
「……その言葉、二度と撤回するなよ。お前は俺の抱き枕だ。俺以外の奴にその熱を与えることは、絶対に許さない」
ヴィオはルカの頬に手を添え、親指でゆっくりとその輪郭をなぞった。氷のように冷たい指先が、ルカの高い体温に触れて微かに熱を帯びていく。ルカはヴィオの真剣な眼差しに吸い込まれるように、小さく頷いた。
「はい。僕はどこにも行きませんよ」
その約束が、ヴィオの心の中にある深い孤独の淵を、少しずつ埋めていくのを感じた。二人の関係は、もはや単なる雇用主と被雇用者などではない。互いの存在が不可欠な、魂の根底から結びつき合う共依存の沼へと、深く沈み込み始めていた。
その日の午後、非番だったヴィオは、珍しくルカと一緒に中庭に出ていた。分厚い外套を羽織り、不機嫌そうに眉を寄せているヴィオの隣で、ルカは薄着のまま嬉しそうに花の蕾をのぞき込んでいる。
「見てください、ヴィオさん。もう少しで咲きそうですよ。白い花びらが少しだけ見えてます」
「くだらん。そんな雑草が咲いたところで、この寒さがどうにかなるわけでもないだろう。さっさと中に入るぞ。お前の熱が外気に奪われる」
ヴィオは吐き捨てるように言いながら、ルカの腕を強引に引いた。その手の力は強く、ルカの体温を自分だけのものにしておきたいという、隠しきれない独占欲が滲み出ていた。
「もう、ヴィオさんはせっかちですね。でも、お花が咲いたら、少しは屋敷の中も明るくなると思うんです」
ルカは引かれるままに歩きながら、ヴィオの背中を見つめた。最近のヴィオは、ルカが他の使用人と話しているだけでも不機嫌になることが増えていた。ルカが庭師に植物の育て方を聞いていると、どこからともなく現れてルカを連れ去ってしまうのだ。
***
屋敷に戻ると、ヴィオは外套を脱ぎ捨てるなり、ルカをリビングの長椅子へと押し倒した。突然の行動にルカが目を白黒させていると、ヴィオはルカの上に覆い被さるようにして、その首筋に顔を埋めた。
「ヴィ、ヴィオさん?」
「黙れ。お前は外の冷たい空気を吸いすぎた。俺のフェロモンで上書きしないと、落ち着かない」
ヴィオの言葉は支離滅裂だったが、その行動は切実だった。ルカの首筋に鼻先をこすりつけ、深く息を吸い込む。ヴィオの氷のようなフェロモンが、ルカの甘い干し草の香りを包み込むように濃密に放たれた。それは、他のアルファを牽制するような、強烈なマーキングの行為に近かった。
『ヴィオさん、最近なんだか……余裕がないみたい』
ルカはヴィオの背中に腕を回し、ゆっくりと撫でた。ヴィオの体は外気に触れていたせいか、いつも以上に冷え切っている。ルカは自分の体温を上げるように意識し、フェロモンを少し強めに放出した。甘く温かい香りがヴィオの冷気を和らげ、彼の強張った筋肉をゆっくりと解きほぐしていく。
「お前は、本当に無防備すぎる。誰にでも愛想を振りまいて、自分の匂いをまき散らすな」
ヴィオの声はくぐもっていたが、そこにははっきりとした苛立ちが混じっていた。
「まき散らしてなんていませんよ。それに、僕の匂いはヴィオさんだけのものですから」
ルカは無意識のうちに、ヴィオが一番欲しがっている言葉を口にしていた。その言葉を聞いた瞬間、ヴィオの体がびくりと震え、顔を上げてルカを見つめた。金の瞳には、驚きと、そして隠しきれない深い執着の光が揺らめいている。
「……その言葉、二度と撤回するなよ。お前は俺の抱き枕だ。俺以外の奴にその熱を与えることは、絶対に許さない」
ヴィオはルカの頬に手を添え、親指でゆっくりとその輪郭をなぞった。氷のように冷たい指先が、ルカの高い体温に触れて微かに熱を帯びていく。ルカはヴィオの真剣な眼差しに吸い込まれるように、小さく頷いた。
「はい。僕はどこにも行きませんよ」
その約束が、ヴィオの心の中にある深い孤独の淵を、少しずつ埋めていくのを感じた。二人の関係は、もはや単なる雇用主と被雇用者などではない。互いの存在が不可欠な、魂の根底から結びつき合う共依存の沼へと、深く沈み込み始めていた。
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