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第7話「抑えきれない本能」
毒殺未遂事件から一週間。
宮廷内の空気は一変していた。
犯人として捕らえられた給仕係は、とある反宰相派の貴族に雇われていたことが判明し、即座に処刑された。
黒幕である貴族もまた、一族郎党もろとも追放処分となった。
アレクセイの粛清は迅速かつ徹底的で、恐怖政治と囁かれるほどだった。
しかし、その裏で彼がどれほど神経をすり減らしていたかを知る者は少ない。
執務室での僕との時間は、以前よりも長く、濃密なものになっていた。
彼は仕事の手を止めると、決まって僕を呼び寄せ、膝の上に座らせるようになったのだ。
最初は抵抗した。
けれど、彼の顔色が日に日に悪くなり、目の下の隈が深くなっていくのを見ると、無下にはできなかった。
感覚過敏の彼にとって、暗殺の恐怖と、それに対する過剰な警戒心は、凄まじいストレスとなっているはずだ。
だから僕は、彼の抱き枕代わりになることを甘んじて受け入れていた。
その日も、僕はアレクセイの膝の上で、彼の銀髪を梳いていた。
窓の外は激しい雷雨。
雨音が窓ガラスを叩きつける中、部屋の中だけは静寂に包まれていた。
彼の頭が僕の肩に預けられている。
規則正しい寝息。
少しの間だけでも眠れたようだ。
僕はそっと彼の方へ顔を向け、その美しい寝顔を見つめた。
長い睫毛が影を落とし、薄い唇が微かに開いている。
無防備な姿。
誰にも見せない、弱い一面。
それを独占しているという優越感と、彼を守ってあげたいという庇護欲が、僕の胸の中で複雑に絡み合っていた。
ふと、アレクセイが目を開けた。
アイスブルーの瞳が、至近距離で僕を捉える。
まだ眠気が残っているのか、その瞳は潤んでいて、どこか艶めかしい。
「……ルチアーノ」
掠れた声で名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
「はい、ここにいます」
「いい匂いだ……」
彼は夢遊病者のようにつぶやくと、僕の首筋に顔を埋めた。
熱い吐息が肌にかかる。
ゾクリとした戦慄が背筋を走り抜けた。
彼の鼻先が、脈打つ頸動脈の上を辿る。
そこはオメガにとって急所であり、同時に最も敏感な性感帯でもある。
「っ……! あ、アレクセイ様……」
声を抑えようとしたが、吐息が漏れてしまう。
彼の舌が、そっと肌を舐めた。
まるで味見をするかのように。
「甘い……花の蜜のようだ」
彼は恍惚とした表情で、僕の腰を強く抱きしめた。
その力は、明らかに常軌を逸していた。
理性が飛びかけている。
アルファの本能が、オメガの匂いに反応して暴走を始めているのだ。
まずい。
ここで彼を受け入れてしまえば、僕は一生、彼の所有物として生きることになる。
薬師としての誇りも、自由も、すべて失ってしまう。
けれど、身体は正直だった。
彼の熱に触発され、僕の奥底で眠っていた何かが目覚めようとしている。
抑制薬の効果が薄れ始めているのか。
いや、それだけではない。
僕自身が、彼を求めているのだ。
孤独で、傷つきやすい、この最強の男を。
彼の手がシャツの下に入り込み、背中を撫で上げる。
素肌に触れる指の冷たさと、そこから伝わる情熱の熱さ。
相反する感覚に翻弄され、僕は頭が真っ白になった。
「欲しい……お前が」
アレクセイがうめくように言った。
その言葉は、僕の理性の最後の一線を断ち切るのに十分だった。
僕は震える手で、彼の背中に腕を回した。
雷鳴が轟く中、僕たちは互いを貪るように口づけを交わした。
それは契約でも取引でもなく、ただ惹かれ合う二つの魂が衝突した瞬間だった。
宮廷内の空気は一変していた。
犯人として捕らえられた給仕係は、とある反宰相派の貴族に雇われていたことが判明し、即座に処刑された。
黒幕である貴族もまた、一族郎党もろとも追放処分となった。
アレクセイの粛清は迅速かつ徹底的で、恐怖政治と囁かれるほどだった。
しかし、その裏で彼がどれほど神経をすり減らしていたかを知る者は少ない。
執務室での僕との時間は、以前よりも長く、濃密なものになっていた。
彼は仕事の手を止めると、決まって僕を呼び寄せ、膝の上に座らせるようになったのだ。
最初は抵抗した。
けれど、彼の顔色が日に日に悪くなり、目の下の隈が深くなっていくのを見ると、無下にはできなかった。
感覚過敏の彼にとって、暗殺の恐怖と、それに対する過剰な警戒心は、凄まじいストレスとなっているはずだ。
だから僕は、彼の抱き枕代わりになることを甘んじて受け入れていた。
その日も、僕はアレクセイの膝の上で、彼の銀髪を梳いていた。
窓の外は激しい雷雨。
雨音が窓ガラスを叩きつける中、部屋の中だけは静寂に包まれていた。
彼の頭が僕の肩に預けられている。
規則正しい寝息。
少しの間だけでも眠れたようだ。
僕はそっと彼の方へ顔を向け、その美しい寝顔を見つめた。
長い睫毛が影を落とし、薄い唇が微かに開いている。
無防備な姿。
誰にも見せない、弱い一面。
それを独占しているという優越感と、彼を守ってあげたいという庇護欲が、僕の胸の中で複雑に絡み合っていた。
ふと、アレクセイが目を開けた。
アイスブルーの瞳が、至近距離で僕を捉える。
まだ眠気が残っているのか、その瞳は潤んでいて、どこか艶めかしい。
「……ルチアーノ」
掠れた声で名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
「はい、ここにいます」
「いい匂いだ……」
彼は夢遊病者のようにつぶやくと、僕の首筋に顔を埋めた。
熱い吐息が肌にかかる。
ゾクリとした戦慄が背筋を走り抜けた。
彼の鼻先が、脈打つ頸動脈の上を辿る。
そこはオメガにとって急所であり、同時に最も敏感な性感帯でもある。
「っ……! あ、アレクセイ様……」
声を抑えようとしたが、吐息が漏れてしまう。
彼の舌が、そっと肌を舐めた。
まるで味見をするかのように。
「甘い……花の蜜のようだ」
彼は恍惚とした表情で、僕の腰を強く抱きしめた。
その力は、明らかに常軌を逸していた。
理性が飛びかけている。
アルファの本能が、オメガの匂いに反応して暴走を始めているのだ。
まずい。
ここで彼を受け入れてしまえば、僕は一生、彼の所有物として生きることになる。
薬師としての誇りも、自由も、すべて失ってしまう。
けれど、身体は正直だった。
彼の熱に触発され、僕の奥底で眠っていた何かが目覚めようとしている。
抑制薬の効果が薄れ始めているのか。
いや、それだけではない。
僕自身が、彼を求めているのだ。
孤独で、傷つきやすい、この最強の男を。
彼の手がシャツの下に入り込み、背中を撫で上げる。
素肌に触れる指の冷たさと、そこから伝わる情熱の熱さ。
相反する感覚に翻弄され、僕は頭が真っ白になった。
「欲しい……お前が」
アレクセイがうめくように言った。
その言葉は、僕の理性の最後の一線を断ち切るのに十分だった。
僕は震える手で、彼の背中に腕を回した。
雷鳴が轟く中、僕たちは互いを貪るように口づけを交わした。
それは契約でも取引でもなく、ただ惹かれ合う二つの魂が衝突した瞬間だった。
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