9 / 13
第8話「雨の夜の告白」
唇が離れた時、僕たちは二人とも肩で息をしていた。
アレクセイの瞳は熱っぽく潤み、乱れた銀髪が額にかかっている。
いつもの冷徹な宰相の面影はなく、ただ一人の男としての欲望がそこにあった。
僕は自分の唇に指を触れ、呆然としていた。
何をしてしまったんだろう。
後悔と、それ以上の高揚感が胸を満たしていた。
アレクセイは僕の頬を両手で包み込み、額を押し付けた。
「……すまない。制御が……利かなかった」
彼の声は震えていた。
謝罪の言葉。
あの傲慢な宰相が、自分から謝るなんて。
僕は小さく首を横に振った。
「いいえ……私も、拒みませんでしたから」
それは事実だ。
もし本気で嫌なら、突き飛ばすなり、大声を上げるなりできたはずだ。
でも、僕はそうしなかった。
むしろ、彼の熱を求めてしまった。
アレクセイは苦しげに顔を歪めた。
「私は……怖いのだ」
唐突な告白。
僕は息を呑んだ。
「怖い、とは……」
「お前を壊してしまうことが」
彼は僕の手を取り、自分の胸に当てた。
そこにある心臓は、激しく脈打っていた。
「私の力は強すぎる。感情も、欲望も、すべてが過剰だ。もし本能のままにお前を抱けば、お前の身体も心も、粉々にしてしまうかもしれない」
彼は僕の手を強く握りしめた。
「だから、今まで誰にも触れさせなかった。誰も近づけなかった。だが……お前だけは違う」
彼の瞳が、真っ直ぐに僕を見つめる。
「お前のそばにいると、その過剰な力が凪いでいく。嵐が止み、静寂が訪れる。こんな感覚は初めてだ」
運命の番。
そんな言葉が頭をよぎる。
オメガバースの世界において、魂レベルで惹かれ合う唯一無二の存在。
まさか、僕たちが?
身分も、立場も、何もかもが違うのに。
でも、この感覚――互いの欠けた部分を埋め合わせるような安堵感は、それを裏付けているように思えた。
「ルチアーノ」
彼は僕の名前を、まるで祈りの言葉のように呼んだ。
「私にはお前が必要だ。薬としてではなく……私の半身として」
その言葉は、どんな甘い愛の囁きよりも、僕の胸に深く刺さった。
涙が溢れてきた。
ずっと隠してきた。ずっと嘘をついてきた。
自分は誰にも必要とされない、忌み嫌われる存在だと信じてきた。
でも、この人は、そんな僕のすべてを受け入れ、必要としてくれている。
「……アレクセイ様」
僕は涙を拭い、精一杯の笑顔を作った。
「私も……あなたがおそばにいないと、息ができなくなりそうです」
それは、僕なりの愛の告白だった。
アレクセイは目を見開き、そしてゆっくりと、本当に嬉しそうに微笑んだ。
氷の宰相が溶けた瞬間だった。
彼は再び僕を引き寄せ、今度は優しく、慈しむようにキスをした。
外の雨音はいつの間にか遠ざかり、部屋の中には二人だけの温かい時間が流れていた。
しかし、運命はそう簡単に二人を祝福してはくれない。
僕の身体に異変が起きたのは、その直後だった。
急激な熱さが下腹部から込み上げ、視界がぐらりと揺れた。
「っ……!?」
苦悶の声を漏らし、僕は彼の胸に倒れ込んだ。
「ルチアーノ! どうした!」
アレクセイの叫び声が遠く聞こえる。
身体が熱い。
今まで抑え込んでいた発情の波が、一気に押し寄せてきたのだ。
抑制薬が効かない。
彼のフェロモンに晒され続けたことで、薬への耐性ができてしまったのか、あるいは運命の番としての引力が勝ったのか。
強烈な甘い匂いが、僕の身体から溢れ出す。
それは部屋中に充満し、アレクセイの理性を再び揺さぶる。
「これは……ヒートか」
彼がつぶやいた。
その声には、焦りと、隠しきれない情欲が混じっていた。
僕は意識が薄れる中で、彼の手を強く握り返した。
もう、逃げられない。
そして、逃げたくなかった。
僕たちは、この嵐の中で、互いの存在を刻み込むしかないのだと悟った。
アレクセイの瞳は熱っぽく潤み、乱れた銀髪が額にかかっている。
いつもの冷徹な宰相の面影はなく、ただ一人の男としての欲望がそこにあった。
僕は自分の唇に指を触れ、呆然としていた。
何をしてしまったんだろう。
後悔と、それ以上の高揚感が胸を満たしていた。
アレクセイは僕の頬を両手で包み込み、額を押し付けた。
「……すまない。制御が……利かなかった」
彼の声は震えていた。
謝罪の言葉。
あの傲慢な宰相が、自分から謝るなんて。
僕は小さく首を横に振った。
「いいえ……私も、拒みませんでしたから」
それは事実だ。
もし本気で嫌なら、突き飛ばすなり、大声を上げるなりできたはずだ。
でも、僕はそうしなかった。
むしろ、彼の熱を求めてしまった。
アレクセイは苦しげに顔を歪めた。
「私は……怖いのだ」
唐突な告白。
僕は息を呑んだ。
「怖い、とは……」
「お前を壊してしまうことが」
彼は僕の手を取り、自分の胸に当てた。
そこにある心臓は、激しく脈打っていた。
「私の力は強すぎる。感情も、欲望も、すべてが過剰だ。もし本能のままにお前を抱けば、お前の身体も心も、粉々にしてしまうかもしれない」
彼は僕の手を強く握りしめた。
「だから、今まで誰にも触れさせなかった。誰も近づけなかった。だが……お前だけは違う」
彼の瞳が、真っ直ぐに僕を見つめる。
「お前のそばにいると、その過剰な力が凪いでいく。嵐が止み、静寂が訪れる。こんな感覚は初めてだ」
運命の番。
そんな言葉が頭をよぎる。
オメガバースの世界において、魂レベルで惹かれ合う唯一無二の存在。
まさか、僕たちが?
身分も、立場も、何もかもが違うのに。
でも、この感覚――互いの欠けた部分を埋め合わせるような安堵感は、それを裏付けているように思えた。
「ルチアーノ」
彼は僕の名前を、まるで祈りの言葉のように呼んだ。
「私にはお前が必要だ。薬としてではなく……私の半身として」
その言葉は、どんな甘い愛の囁きよりも、僕の胸に深く刺さった。
涙が溢れてきた。
ずっと隠してきた。ずっと嘘をついてきた。
自分は誰にも必要とされない、忌み嫌われる存在だと信じてきた。
でも、この人は、そんな僕のすべてを受け入れ、必要としてくれている。
「……アレクセイ様」
僕は涙を拭い、精一杯の笑顔を作った。
「私も……あなたがおそばにいないと、息ができなくなりそうです」
それは、僕なりの愛の告白だった。
アレクセイは目を見開き、そしてゆっくりと、本当に嬉しそうに微笑んだ。
氷の宰相が溶けた瞬間だった。
彼は再び僕を引き寄せ、今度は優しく、慈しむようにキスをした。
外の雨音はいつの間にか遠ざかり、部屋の中には二人だけの温かい時間が流れていた。
しかし、運命はそう簡単に二人を祝福してはくれない。
僕の身体に異変が起きたのは、その直後だった。
急激な熱さが下腹部から込み上げ、視界がぐらりと揺れた。
「っ……!?」
苦悶の声を漏らし、僕は彼の胸に倒れ込んだ。
「ルチアーノ! どうした!」
アレクセイの叫び声が遠く聞こえる。
身体が熱い。
今まで抑え込んでいた発情の波が、一気に押し寄せてきたのだ。
抑制薬が効かない。
彼のフェロモンに晒され続けたことで、薬への耐性ができてしまったのか、あるいは運命の番としての引力が勝ったのか。
強烈な甘い匂いが、僕の身体から溢れ出す。
それは部屋中に充満し、アレクセイの理性を再び揺さぶる。
「これは……ヒートか」
彼がつぶやいた。
その声には、焦りと、隠しきれない情欲が混じっていた。
僕は意識が薄れる中で、彼の手を強く握り返した。
もう、逃げられない。
そして、逃げたくなかった。
僕たちは、この嵐の中で、互いの存在を刻み込むしかないのだと悟った。
あなたにおすすめの小説
抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる
水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」
人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。
ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。
「俺が、貴方の剣となり盾となる」
国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。
シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。
オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に
水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。
誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。
しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。
学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。
反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。
それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。
「お前は俺の所有物だ」
傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。
強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。
孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。
これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。
捨てられΩの癒やしの薬草、呪いで苦しむ最強騎士団長を救ったら、いつの間にか胃袋も心も掴んで番にされていました
水凪しおん
BL
孤独と絶望を癒やす、運命の愛の物語。
人里離れた森の奥、青年アレンは不思議な「浄化の力」を持ち、薬草を育てながらひっそりと暮らしていた。その力を気味悪がられ、人を避けるように生きてきた彼の前に、ある嵐の夜、血まみれの男が現れる。
男の名はカイゼル。「黒き猛虎」と敵国から恐れられる、無敗の騎士団長。しかし彼は、戦場で受けた呪いにより、αの本能を制御できず、狂おしい発作に身を焼かれていた。
記憶を失ったふりをしてアレンの元に留まるカイゼル。アレンの作る薬草茶が、野菜スープが、そして彼自身の存在が、カイゼルの荒れ狂う魂を鎮めていく唯一の癒やしだと気づいた時、その想いは激しい執着と独占欲へ変わる。
「お前がいなければ、俺は正気を保てない」
やがて明かされる真実、迫りくる呪いの脅威。臆病だった青年は、愛する人を救うため、その身に宿る力のすべてを捧げることを決意する。
呪いが解けた時、二人は真の番となる。孤独だった魂が寄り添い、狂おしいほどの愛を注ぎ合う、ファンタジック・ラブストーリー。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました
水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。
その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。
整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。
オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。
だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。
死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。
それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。
「見つけた。俺の対になる存在を」
正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……?
孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。
星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。