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第5話「予期せぬお茶会」
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魔王様の「玉座での充電」事件以来、私とザルドリスの距離は急速に縮まった。
今では、彼が執務をしている最中に、私が同じ部屋で裁縫をしていても何も言われない。
むしろ、「貴様がいないと空気が冷える」などと言って、私の居場所(専用のミニ工房スペース)を執務室の隅に作らされたほどだ。
さて、本日は新たな課題に取り組んでいる。
「食」だ。
魔王城の食事事情は、住環境と同じくらい壊滅的だった。
素材は一級品なのに、調理法が「焼く」か「生」しかない。
味付けも岩塩のみ。
これでは心の栄養が足りない。
私は厨房の使用許可(半ば強引に)を取り付け、大改革に乗り出した。
「リノ様、この『コナー』という粉はどうするのですか?」
厨房担当のオークが、小麦粉の袋を持って尋ねてくる。
「それはパンケーキにするの。卵とミルクを混ぜて……そう、そんな感じで!」
オークは意外と器用で、私の指示通りに生地を混ぜていく。
私はその横で、ベリー系の果実を煮詰めてジャムを作っていた。
甘酸っぱい香りが厨房に充満する。
「いい匂いだ……」
つまみ食いしようとするゴブリンの手を「ペチッ」と叩く。
「まだダメ。魔王様にお出ししてからよ」
そう、今日はおやつの時間を導入するのだ。
過労気味のザルドリスには、糖分と休息が必要だ。
焼き上がったパンケーキを皿に盛り、特製ジャムと、ホイップした生クリーム(のような魔獣の乳)を添える。
飲み物は、リラックス効果のあるハーブティーだ。
準備を整え、ワゴンを押して執務室へ向かう。
「失礼します」
扉を開けると、ザルドリスが書類の山と格闘していた。
眉間のしわが深い。
「……リノか。なんだ、その甘い匂いは」
彼は顔を上げ、鼻をひくつかせた。
「休憩にしましょう、魔王様。特製パンケーキです」
「パン……ケーキ?」
聞き慣れない単語に首を傾げる彼だが、ワゴンを見る目は釘付けだ。
私はソファースペース(もちろん私が改造してフカフカにした)に彼を誘導し、お茶の用意をした。
「どうぞ」
ザルドリスはフォークを手に取り、恐る恐るパンケーキを口に運んだ。
ハムッ。
咀嚼する。
動きが止まる。
「……!」
カッと目が見開かれた。
「……柔らかい。そして、甘い。……なんだこれは、口の中で溶けるぞ」
「気に入っていただけましたか?」
「気に入るも何も……これは危険だ。毒が入っているのではないかと疑うほど美味い」
「失礼な。愛情たっぷりですよ」
軽口を叩けるようになっている自分に驚く。
ザルドリスは勢いよくパンケーキを平らげていく。
その食べっぷりは見ていて気持ちが良い。
「……ふぅ」
完食した彼は、満足げにハーブティーをすすった。
「貴様は、魔法使いなのかもしれん」
「ただの仕立て屋崩れですよ」
「いや、城を変え、私の不眠を治し、食まで変えた。これは立派な魔法だ」
ザルドリスは真剣な眼差しで私を見つめた。
「リノ。貴様が来てから、この城は……明るくなった」
「……そうですか?」
「ああ。以前はただの石の塊だったが、今は……家のような気がする」
家。
その言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
私にとっても、ここはすでに牢獄ではなくなっていた。
人間界にいた頃よりも、ずっと居心地が良い。
必要とされ、認められ、自分の能力を活かせる場所。
「……そう言っていただけて、嬉しいです」
素直に微笑むと、ザルドリスが不意に手を伸ばし、私の頬についたクリームを指で拭った。
「あ」
「……ついていたぞ」
彼はその指を自分の口に含んだ。
心臓が跳ねる。
その仕草はあまりにも自然で、そしてあまりにも色っぽかった。
「甘いな」
彼が言ったのが、クリームのことなのか、それとも別の意味なのか、私には判断がつかなかった。
顔が熱い。
慌ててカップを片付けようとすると、ザルドリスが言った。
「……明日は、何を驚かせてくれる?」
その言葉には、明らかな期待が込められていた。
「……ふふ、お楽しみです」
私は悪戯っぽく笑い返した。
この城での生活が、どんどん楽しくなっていく。
この幸せが、いつまでも続けばいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
今では、彼が執務をしている最中に、私が同じ部屋で裁縫をしていても何も言われない。
むしろ、「貴様がいないと空気が冷える」などと言って、私の居場所(専用のミニ工房スペース)を執務室の隅に作らされたほどだ。
さて、本日は新たな課題に取り組んでいる。
「食」だ。
魔王城の食事事情は、住環境と同じくらい壊滅的だった。
素材は一級品なのに、調理法が「焼く」か「生」しかない。
味付けも岩塩のみ。
これでは心の栄養が足りない。
私は厨房の使用許可(半ば強引に)を取り付け、大改革に乗り出した。
「リノ様、この『コナー』という粉はどうするのですか?」
厨房担当のオークが、小麦粉の袋を持って尋ねてくる。
「それはパンケーキにするの。卵とミルクを混ぜて……そう、そんな感じで!」
オークは意外と器用で、私の指示通りに生地を混ぜていく。
私はその横で、ベリー系の果実を煮詰めてジャムを作っていた。
甘酸っぱい香りが厨房に充満する。
「いい匂いだ……」
つまみ食いしようとするゴブリンの手を「ペチッ」と叩く。
「まだダメ。魔王様にお出ししてからよ」
そう、今日はおやつの時間を導入するのだ。
過労気味のザルドリスには、糖分と休息が必要だ。
焼き上がったパンケーキを皿に盛り、特製ジャムと、ホイップした生クリーム(のような魔獣の乳)を添える。
飲み物は、リラックス効果のあるハーブティーだ。
準備を整え、ワゴンを押して執務室へ向かう。
「失礼します」
扉を開けると、ザルドリスが書類の山と格闘していた。
眉間のしわが深い。
「……リノか。なんだ、その甘い匂いは」
彼は顔を上げ、鼻をひくつかせた。
「休憩にしましょう、魔王様。特製パンケーキです」
「パン……ケーキ?」
聞き慣れない単語に首を傾げる彼だが、ワゴンを見る目は釘付けだ。
私はソファースペース(もちろん私が改造してフカフカにした)に彼を誘導し、お茶の用意をした。
「どうぞ」
ザルドリスはフォークを手に取り、恐る恐るパンケーキを口に運んだ。
ハムッ。
咀嚼する。
動きが止まる。
「……!」
カッと目が見開かれた。
「……柔らかい。そして、甘い。……なんだこれは、口の中で溶けるぞ」
「気に入っていただけましたか?」
「気に入るも何も……これは危険だ。毒が入っているのではないかと疑うほど美味い」
「失礼な。愛情たっぷりですよ」
軽口を叩けるようになっている自分に驚く。
ザルドリスは勢いよくパンケーキを平らげていく。
その食べっぷりは見ていて気持ちが良い。
「……ふぅ」
完食した彼は、満足げにハーブティーをすすった。
「貴様は、魔法使いなのかもしれん」
「ただの仕立て屋崩れですよ」
「いや、城を変え、私の不眠を治し、食まで変えた。これは立派な魔法だ」
ザルドリスは真剣な眼差しで私を見つめた。
「リノ。貴様が来てから、この城は……明るくなった」
「……そうですか?」
「ああ。以前はただの石の塊だったが、今は……家のような気がする」
家。
その言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
私にとっても、ここはすでに牢獄ではなくなっていた。
人間界にいた頃よりも、ずっと居心地が良い。
必要とされ、認められ、自分の能力を活かせる場所。
「……そう言っていただけて、嬉しいです」
素直に微笑むと、ザルドリスが不意に手を伸ばし、私の頬についたクリームを指で拭った。
「あ」
「……ついていたぞ」
彼はその指を自分の口に含んだ。
心臓が跳ねる。
その仕草はあまりにも自然で、そしてあまりにも色っぽかった。
「甘いな」
彼が言ったのが、クリームのことなのか、それとも別の意味なのか、私には判断がつかなかった。
顔が熱い。
慌ててカップを片付けようとすると、ザルドリスが言った。
「……明日は、何を驚かせてくれる?」
その言葉には、明らかな期待が込められていた。
「……ふふ、お楽しみです」
私は悪戯っぽく笑い返した。
この城での生活が、どんどん楽しくなっていく。
この幸せが、いつまでも続けばいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
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