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第7話「魔物からの贈り物」
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発情期の嵐が過ぎ去り、私は猛烈な恥ずかしさと共に目を覚ました。
記憶はある。
勝手に魔王様のベッドに侵入し、あろうことか魔王様を抱き枕にして一晩過ごした記憶が、鮮明に残っている。
「うあぁぁぁ……!」
頭を抱えて転げ回りたい気分だ。
しかし、隣を見ると、そこにはまだ眠っているザルドリスの姿があった。
彼は壁に背を預けたまま、座って寝ていた。
私のために、一晩中起きていてくれたのだろうか。
彼の目の下の隈が、以前より濃くなっている気がする。
申し訳なさと、愛おしさが込み上げてくる。
私はそっとベッドを降り、彼に毛布を掛けようとした。
その時、サイドテーブルの上に置いてある「箱」に気がついた。
見たこともない美しい木箱だ。
蓋が開いている。
中には、白く輝く糸の束と、虹色に光る布が入っていた。
「これは……」
触れてみる。
信じられないほど滑らかで、それでいて強靭な手触り。
「幻の『天蚕(テンサン)』の糸……?」
伝説級の素材だ。人間界では国宝レベルの代物が、無造作に置かれている。
「……起きたか」
低い声がして、振り返るとザルドリスが目を開けていた。
「あ、おはようございます! あの、昨夜は本当にすみません! その、勝手に……」
私が謝り倒すと、彼は手でそれを制した。
「良い。……体調は」
「は、はい。おかげさまで、落ち着きました」
「そうか」
彼は短く答え、視線を木箱に向けた。
「それは、貴様への……見舞いだ」
「え?」
「私の配下が、東の果てで見つけてきた。貴様なら、何か作れるだろうと思ってな」
プレゼント。
魔王様が、私のために素材を集めてくれた?
ただの生贄だった私に?
胸がいっぱいになった。
「……ありがとうございます。すごく、嬉しいです」
涙が出そうになるのをこらえて、私は笑顔を作った。
「最高の服を作りますね! 魔王様の!」
「……私の?」
「はい! この布なら、魔王様の瞳の色にぴったりです。それに、この糸で刺繍をすれば、防御力も上がりますし……」
私が早口でまくし立てると、ザルドリスはフッと小さく笑った。
その笑顔は、初めて見るほど優しく、心からのものに見えた。
「……楽しみにしている」
その言葉だけで、私は何でもできる気がした。
しかし、私たちのこの穏やかな時間は、長くは続かなかった。
城の外から、不穏な空気が忍び寄っていたのだ。
人間界からの「勇者」の来訪。
そして、魔界内部での反乱分子の動き。
私が築き上げたこの温かい「巣」を脅かす影が、すぐそこまで迫っていた。
私はまだ、それを知らなかった。
記憶はある。
勝手に魔王様のベッドに侵入し、あろうことか魔王様を抱き枕にして一晩過ごした記憶が、鮮明に残っている。
「うあぁぁぁ……!」
頭を抱えて転げ回りたい気分だ。
しかし、隣を見ると、そこにはまだ眠っているザルドリスの姿があった。
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私のために、一晩中起きていてくれたのだろうか。
彼の目の下の隈が、以前より濃くなっている気がする。
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私はそっとベッドを降り、彼に毛布を掛けようとした。
その時、サイドテーブルの上に置いてある「箱」に気がついた。
見たこともない美しい木箱だ。
蓋が開いている。
中には、白く輝く糸の束と、虹色に光る布が入っていた。
「これは……」
触れてみる。
信じられないほど滑らかで、それでいて強靭な手触り。
「幻の『天蚕(テンサン)』の糸……?」
伝説級の素材だ。人間界では国宝レベルの代物が、無造作に置かれている。
「……起きたか」
低い声がして、振り返るとザルドリスが目を開けていた。
「あ、おはようございます! あの、昨夜は本当にすみません! その、勝手に……」
私が謝り倒すと、彼は手でそれを制した。
「良い。……体調は」
「は、はい。おかげさまで、落ち着きました」
「そうか」
彼は短く答え、視線を木箱に向けた。
「それは、貴様への……見舞いだ」
「え?」
「私の配下が、東の果てで見つけてきた。貴様なら、何か作れるだろうと思ってな」
プレゼント。
魔王様が、私のために素材を集めてくれた?
ただの生贄だった私に?
胸がいっぱいになった。
「……ありがとうございます。すごく、嬉しいです」
涙が出そうになるのをこらえて、私は笑顔を作った。
「最高の服を作りますね! 魔王様の!」
「……私の?」
「はい! この布なら、魔王様の瞳の色にぴったりです。それに、この糸で刺繍をすれば、防御力も上がりますし……」
私が早口でまくし立てると、ザルドリスはフッと小さく笑った。
その笑顔は、初めて見るほど優しく、心からのものに見えた。
「……楽しみにしている」
その言葉だけで、私は何でもできる気がした。
しかし、私たちのこの穏やかな時間は、長くは続かなかった。
城の外から、不穏な空気が忍び寄っていたのだ。
人間界からの「勇者」の来訪。
そして、魔界内部での反乱分子の動き。
私が築き上げたこの温かい「巣」を脅かす影が、すぐそこまで迫っていた。
私はまだ、それを知らなかった。
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