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第11話「甘い契約と最強の素材」
復旧作業は急ピッチで進んだ。
魔王様の号令一下、魔界全土から素材が集められた。
深海に住む人魚が織り上げた防水布、火山の竜が脱ぎ捨てた耐火性の皮、妖精の森でしか採れない発光する苔。
それらは全て、私が「欲しい」とリストアップしたものだった。
私は水を得た魚のように動き回った。
新しい工房(以前の倍の広さ)で、ミシン(魔道具で作ってもらった)を踏み、ハサミを振るう。
「リノ、休憩だ」
ザルドリス様が、トレイを持って工房に入ってきた。
あの日以来、彼は過保護なほどに私の体調を気遣うようになった。
トレイには、湯気の立つハーブティーと、果物が載っている。
「ありがとうございます。ちょうど一段落したところです」
私は作業の手を止め、彼の隣に座った。
新しいソファは、以前のものよりさらに進化していた。
座ると体が包み込まれるような形状記憶素材(スライム配合)で、一度座ると二度と立ち上がりたくなくなる「魔性のソファ」だ。
ザルドリス様も、すっかりこのソファの虜になっている。
「……リノ」
お茶を飲みながら、彼が改まった口調で言った。
「はい?」
「城の修復が完了したら……話がある」
「話、ですか?」
「ああ。……重要な話だ」
彼は少し顔を赤らめ、視線を逸らした。
その様子に、私の心臓がトクンと跳ねる。
重要な話。
なんだろう。
期待と不安が入り混じる中、私は「はい、待っています」と答えた。
そして、その日はやってきた。
城のメインホール、そして魔王様の寝室、執務室、全ての改装が完了した日。
城は見違えるようになっていた。
石の冷たさは完全に排除され、どこを歩いても足触りの良いラグが敷かれ、壁には温かみのあるタペストリーが飾られている。
照明も、松明の青白い光から、温色の魔石ランプに変更され、城全体が柔らかい光に包まれていた。
「完成……しました」
私は最後のクッションを玉座に設置し、振り返った。
ザルドリス様が立っていた。
彼は、私が以前プレゼントした「天蚕」のローブを身にまとっていた。
虹色の光沢が、彼の威厳と色気を引き立てている。
「ご苦労だった」
彼はゆっくりと近づいてきた。
「リノ、ついてこい」
連れて行かれたのは、城の一番高い場所にあるテラスだった。
夜空には満天の星が輝き、巨大な月が魔界の大地を照らしている。
風が心地よい。
ザルドリス様は手すりに寄りかかり、私を見た。
「リノ。私は、お前が来るまで、この世界がこんなに美しいとは知らなかった」
「……え?」
「ただ生きるために戦い、ただ支配するために君臨していた。寝ることも、食べることも、ただの義務だった」
彼は私の手を取り、自分の胸に当てた。
ドクン、ドクンと、力強い鼓動が伝わってくる。
「だが、お前が来て、全てが変わった。……お前の作る空間は、私に安らぎを与えてくれた。だが、それ以上に……」
彼は一歩踏み出し、私の顔を覗き込んだ。
「お前自身が、私にとってなくてはならない『安息』になった」
「魔王様……」
「リノ。……私の番(つがい)になってくれ」
直球の言葉だった。
頭が真っ白になる。
番。それは、アルファとオメガにとって、魂を縛る永遠の契約。
「私なんかで、いいんですか? ただのオメガで、捨てられた生贄で……」
「お前がいい。お前じゃなきゃダメだ」
彼は強く言い切った。
「お前が『巣作り』をするように、私もお前という存在を、私の人生の中心に据えたい。……お前を、誰よりも幸せにすると誓う」
涙が溢れた。
今度は、悲しみの涙じゃない。
嬉しくて、幸せで、胸が張り裂けそうな涙だ。
「……はい。はい、喜んで!」
私は彼の首に飛びついた。
ザルドリス様は私を強く抱きしめ返し、そして、私の首筋に熱い口づけを落とした。
「痛いかもしれんが、許せ」
「……いいえ、あなたの印が欲しい」
チクリとした痛みの後、体中に電流が走るような感覚。
そして、圧倒的な多幸感が押し寄せた。
魂が繋がった。
彼の感情が、愛しさが、流れ込んでくる。
「愛している、リノ」
「私も、愛しています。ザルドリス様」
月明かりの下、私たちは初めての、そして永遠の誓いとなる口づけを交わした。
その瞬間、私の「巣作り本能」は完全に満たされた。
場所としての巣だけじゃない。
この人の腕の中こそが、私にとって最高の、終の住処なのだと知ったから。
魔王様の号令一下、魔界全土から素材が集められた。
深海に住む人魚が織り上げた防水布、火山の竜が脱ぎ捨てた耐火性の皮、妖精の森でしか採れない発光する苔。
それらは全て、私が「欲しい」とリストアップしたものだった。
私は水を得た魚のように動き回った。
新しい工房(以前の倍の広さ)で、ミシン(魔道具で作ってもらった)を踏み、ハサミを振るう。
「リノ、休憩だ」
ザルドリス様が、トレイを持って工房に入ってきた。
あの日以来、彼は過保護なほどに私の体調を気遣うようになった。
トレイには、湯気の立つハーブティーと、果物が載っている。
「ありがとうございます。ちょうど一段落したところです」
私は作業の手を止め、彼の隣に座った。
新しいソファは、以前のものよりさらに進化していた。
座ると体が包み込まれるような形状記憶素材(スライム配合)で、一度座ると二度と立ち上がりたくなくなる「魔性のソファ」だ。
ザルドリス様も、すっかりこのソファの虜になっている。
「……リノ」
お茶を飲みながら、彼が改まった口調で言った。
「はい?」
「城の修復が完了したら……話がある」
「話、ですか?」
「ああ。……重要な話だ」
彼は少し顔を赤らめ、視線を逸らした。
その様子に、私の心臓がトクンと跳ねる。
重要な話。
なんだろう。
期待と不安が入り混じる中、私は「はい、待っています」と答えた。
そして、その日はやってきた。
城のメインホール、そして魔王様の寝室、執務室、全ての改装が完了した日。
城は見違えるようになっていた。
石の冷たさは完全に排除され、どこを歩いても足触りの良いラグが敷かれ、壁には温かみのあるタペストリーが飾られている。
照明も、松明の青白い光から、温色の魔石ランプに変更され、城全体が柔らかい光に包まれていた。
「完成……しました」
私は最後のクッションを玉座に設置し、振り返った。
ザルドリス様が立っていた。
彼は、私が以前プレゼントした「天蚕」のローブを身にまとっていた。
虹色の光沢が、彼の威厳と色気を引き立てている。
「ご苦労だった」
彼はゆっくりと近づいてきた。
「リノ、ついてこい」
連れて行かれたのは、城の一番高い場所にあるテラスだった。
夜空には満天の星が輝き、巨大な月が魔界の大地を照らしている。
風が心地よい。
ザルドリス様は手すりに寄りかかり、私を見た。
「リノ。私は、お前が来るまで、この世界がこんなに美しいとは知らなかった」
「……え?」
「ただ生きるために戦い、ただ支配するために君臨していた。寝ることも、食べることも、ただの義務だった」
彼は私の手を取り、自分の胸に当てた。
ドクン、ドクンと、力強い鼓動が伝わってくる。
「だが、お前が来て、全てが変わった。……お前の作る空間は、私に安らぎを与えてくれた。だが、それ以上に……」
彼は一歩踏み出し、私の顔を覗き込んだ。
「お前自身が、私にとってなくてはならない『安息』になった」
「魔王様……」
「リノ。……私の番(つがい)になってくれ」
直球の言葉だった。
頭が真っ白になる。
番。それは、アルファとオメガにとって、魂を縛る永遠の契約。
「私なんかで、いいんですか? ただのオメガで、捨てられた生贄で……」
「お前がいい。お前じゃなきゃダメだ」
彼は強く言い切った。
「お前が『巣作り』をするように、私もお前という存在を、私の人生の中心に据えたい。……お前を、誰よりも幸せにすると誓う」
涙が溢れた。
今度は、悲しみの涙じゃない。
嬉しくて、幸せで、胸が張り裂けそうな涙だ。
「……はい。はい、喜んで!」
私は彼の首に飛びついた。
ザルドリス様は私を強く抱きしめ返し、そして、私の首筋に熱い口づけを落とした。
「痛いかもしれんが、許せ」
「……いいえ、あなたの印が欲しい」
チクリとした痛みの後、体中に電流が走るような感覚。
そして、圧倒的な多幸感が押し寄せた。
魂が繋がった。
彼の感情が、愛しさが、流れ込んでくる。
「愛している、リノ」
「私も、愛しています。ザルドリス様」
月明かりの下、私たちは初めての、そして永遠の誓いとなる口づけを交わした。
その瞬間、私の「巣作り本能」は完全に満たされた。
場所としての巣だけじゃない。
この人の腕の中こそが、私にとって最高の、終の住処なのだと知ったから。
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