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2話:絶望の地での第一歩
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グレイロックでの生活は、想像を絶する過酷さで始まった。夜は獣の遠吠えが聞こえ、昼は乾いた風が砂塵を巻き上げるばかり。与えられたのは、今にも崩れそうな見張り小屋ひとつと、わずかな食料だけだった。
まず俺が取り掛かったのは、この土地の分析だ。前世の知識を総動員し、土を手に取り、匂いを嗅ぎ、感触を確かめる。
「……思った通りだ」
土は痩せこけ、栄養分がほとんど失われている。だが、絶望的なほどではない。粘土質が強いが、有機物を大量に投入してやれば、団粒構造が生まれてふかふかの土に変わるはずだ。時間はかかるだろうが、改良の余地はある。
次なる課題は、生活の基盤を整えること。まずは崩れかけの小屋を修理し、風雨をしのげるようにする。貴族として生まれ、土木作業などしたこともなかったが、やらなければ死ぬのだ。必死に木材を運び、隙間を泥で埋め、なんとか寝床を確保した。
そして、何よりも重要なのが水の確保だ。近くに川はなく、飲み水が尽きれば即座に命に関わる。
「井戸を掘るしかない」
幸い、小屋には錆びついたクワとシャベルが残されていた。場所の選定が重要だ。前世の知識で、わずかな地形の窪みや植생の名残を見つけ、水脈がありそうな場所に目星をつける。
そこからは、ひたすら無心で穴を掘り続ける毎日だった。慣れない肉体労働に、手のひらの皮はすぐに剥け、血が滲む。全身が悲鳴を上げるような筋肉痛に襲われ、何度も心が折れそうになった。それでも、俺は掘り続けた。生きるために。
どれくらいの時間が経っただろうか。クワを振り下ろした先から、じわりと湿った土が顔を出した。
「……っ!」
希望が見えた気がして、さらに夢中で掘り進める。そして、ついに。カツン、と硬い岩盤に当たった感触の直後、隙間からちょろちょろと水が湧き出してきたのだ。
「水だ……! 水が出たぞ!」
歓喜の声を上げ、泥だらけの手でその水をすくう。少し土の匂いがしたが、乾ききった喉に染み渡るその冷たさは、どんな高級な葡萄酒よりも美味しく感じられた。
俺は、地面にへたり込み、しばらく動けなかった。涙が、湧き出した水と混じって地面に落ちていく。
追放された絶望感も、孤独の寂しさも、この瞬間だけはどこかへ消えていた。
自分の力で、生きるための糧を、最初の一滴を手に入れたのだ。
それは、この呪われた地で踏み出した、あまりにも小さく、しかし何よりも確かな第一歩だった。まだ何もない荒野の真ん中で、リアムは生きるための小さな希望を、確かにその手に掴んだのである。
まず俺が取り掛かったのは、この土地の分析だ。前世の知識を総動員し、土を手に取り、匂いを嗅ぎ、感触を確かめる。
「……思った通りだ」
土は痩せこけ、栄養分がほとんど失われている。だが、絶望的なほどではない。粘土質が強いが、有機物を大量に投入してやれば、団粒構造が生まれてふかふかの土に変わるはずだ。時間はかかるだろうが、改良の余地はある。
次なる課題は、生活の基盤を整えること。まずは崩れかけの小屋を修理し、風雨をしのげるようにする。貴族として生まれ、土木作業などしたこともなかったが、やらなければ死ぬのだ。必死に木材を運び、隙間を泥で埋め、なんとか寝床を確保した。
そして、何よりも重要なのが水の確保だ。近くに川はなく、飲み水が尽きれば即座に命に関わる。
「井戸を掘るしかない」
幸い、小屋には錆びついたクワとシャベルが残されていた。場所の選定が重要だ。前世の知識で、わずかな地形の窪みや植생の名残を見つけ、水脈がありそうな場所に目星をつける。
そこからは、ひたすら無心で穴を掘り続ける毎日だった。慣れない肉体労働に、手のひらの皮はすぐに剥け、血が滲む。全身が悲鳴を上げるような筋肉痛に襲われ、何度も心が折れそうになった。それでも、俺は掘り続けた。生きるために。
どれくらいの時間が経っただろうか。クワを振り下ろした先から、じわりと湿った土が顔を出した。
「……っ!」
希望が見えた気がして、さらに夢中で掘り進める。そして、ついに。カツン、と硬い岩盤に当たった感触の直後、隙間からちょろちょろと水が湧き出してきたのだ。
「水だ……! 水が出たぞ!」
歓喜の声を上げ、泥だらけの手でその水をすくう。少し土の匂いがしたが、乾ききった喉に染み渡るその冷たさは、どんな高級な葡萄酒よりも美味しく感じられた。
俺は、地面にへたり込み、しばらく動けなかった。涙が、湧き出した水と混じって地面に落ちていく。
追放された絶望感も、孤独の寂しさも、この瞬間だけはどこかへ消えていた。
自分の力で、生きるための糧を、最初の一滴を手に入れたのだ。
それは、この呪われた地で踏み出した、あまりにも小さく、しかし何よりも確かな第一歩だった。まだ何もない荒野の真ん中で、リアムは生きるための小さな希望を、確かにその手に掴んだのである。
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