16 / 16
エピローグ「雪の森、永遠の誓い」
しおりを挟む
あれから、数年の時が流れた。
僕と蓮さんは、人里離れた森の中に立つ、静かな別荘で暮らしている。
都会の喧騒から離れたこの場所は、僕たち二人にとって、本当の安息の地だった。
僕は、料理研究家として、ささやかながら自分のアトリエを構えている。
地元の食材を使った、体に優しいレシピを考案し、雑誌やウェブで紹介するのが僕の仕事だ。
大きな成功ではないけれど、好きなことを仕事にできる毎日は、本当に充実していた。
蓮さんは、橘財閥の当主として、今も日本の経済を動かす中心人物だ。
でも、彼は巧みにリモートワークを取り入れ、一年の半分以上を、この別荘で僕と一緒に過ごしてくれていた。
その日も、外は静かに雪が降っていた。
暖炉の炎が、ぱちぱちと心地よい音を立てている。
僕は、淹れたてのコーヒーを二つ、マグカップに入れて、リビングのソファに座る蓮さんの隣に腰を下ろした。
「ありがとう、湊」
蓮さんは、僕からカップを受け取ると、空いている方の手で、僕の腰を優しく引き寄せた。
僕は、彼の肩にこてんと頭を預ける。
この時間が、僕の一番好きな時間だった。
ふと、蓮さんの体が、柔らかな光に包まれた。
次の瞬間、僕の隣にいたはずの彼の姿はなく、代わりに、ソファにゆったりと横たわる、一頭の美しい銀狼がいた。
月光を浴びた新雪のように輝く、銀色の毛皮。
そして、僕を静かに見つめる、あの黒曜石の瞳。
「蓮さん」
僕が名前を呼ぶと、銀狼は、僕の手にその大きな頭をすり寄せてきた。
僕は、そのふさふさの毛皮に顔をうずめる。
暖かくて、柔らかくて、そして、あの雪の森の香りがする。
僕を、世界で一番安心させてくれる香り。
僕が蓮さんの獣形を初めて見たのは、結婚してすぐのことだった。
橘家に代々伝わる、特別な血筋。
彼は、その力を僕にだけは見せてくれた。
最初は驚いたけれど、怖くはなかった。
だって、その瞳は、紛れもなく僕が愛する蓮さんのものだったから。
僕は、銀狼の喉元を優しく撫でてやる。
グルル、と満足そうな低い声が、彼の喉から聞こえた。
言葉を交わさなくても、お互いの気持ちが伝わってくる。
これが、運命の番というものなのだろう。
「ねえ、蓮さん」
僕は、銀狼に語りかける。
「僕たち、本当に幸せだね」
銀狼は、僕の言葉に応えるように、僕の頬をぺろりと舐めた。
くすぐったくて、思わず笑みがこぼれる。
窓の外では、雪がさらに深々と降り積もっていく。
世界は、僕たち二人と、暖炉の炎の音だけを残して、しんと静まり返っていた。
この穏やかで、満たされた時間が、永遠に続けばいい。
いや、きっと、永遠に続いていくのだろう。
だって、僕たちは、もう離れられないのだから。
この雪の森の奥で、僕たちはこれからもずっと、寄り添って生きていく。
愛する人の温もりを感じながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
僕たちの物語は、ここで終わりじゃない。
ここから始まる、永遠の幸せの、ほんの序章に過ぎないのだから。
僕と蓮さんは、人里離れた森の中に立つ、静かな別荘で暮らしている。
都会の喧騒から離れたこの場所は、僕たち二人にとって、本当の安息の地だった。
僕は、料理研究家として、ささやかながら自分のアトリエを構えている。
地元の食材を使った、体に優しいレシピを考案し、雑誌やウェブで紹介するのが僕の仕事だ。
大きな成功ではないけれど、好きなことを仕事にできる毎日は、本当に充実していた。
蓮さんは、橘財閥の当主として、今も日本の経済を動かす中心人物だ。
でも、彼は巧みにリモートワークを取り入れ、一年の半分以上を、この別荘で僕と一緒に過ごしてくれていた。
その日も、外は静かに雪が降っていた。
暖炉の炎が、ぱちぱちと心地よい音を立てている。
僕は、淹れたてのコーヒーを二つ、マグカップに入れて、リビングのソファに座る蓮さんの隣に腰を下ろした。
「ありがとう、湊」
蓮さんは、僕からカップを受け取ると、空いている方の手で、僕の腰を優しく引き寄せた。
僕は、彼の肩にこてんと頭を預ける。
この時間が、僕の一番好きな時間だった。
ふと、蓮さんの体が、柔らかな光に包まれた。
次の瞬間、僕の隣にいたはずの彼の姿はなく、代わりに、ソファにゆったりと横たわる、一頭の美しい銀狼がいた。
月光を浴びた新雪のように輝く、銀色の毛皮。
そして、僕を静かに見つめる、あの黒曜石の瞳。
「蓮さん」
僕が名前を呼ぶと、銀狼は、僕の手にその大きな頭をすり寄せてきた。
僕は、そのふさふさの毛皮に顔をうずめる。
暖かくて、柔らかくて、そして、あの雪の森の香りがする。
僕を、世界で一番安心させてくれる香り。
僕が蓮さんの獣形を初めて見たのは、結婚してすぐのことだった。
橘家に代々伝わる、特別な血筋。
彼は、その力を僕にだけは見せてくれた。
最初は驚いたけれど、怖くはなかった。
だって、その瞳は、紛れもなく僕が愛する蓮さんのものだったから。
僕は、銀狼の喉元を優しく撫でてやる。
グルル、と満足そうな低い声が、彼の喉から聞こえた。
言葉を交わさなくても、お互いの気持ちが伝わってくる。
これが、運命の番というものなのだろう。
「ねえ、蓮さん」
僕は、銀狼に語りかける。
「僕たち、本当に幸せだね」
銀狼は、僕の言葉に応えるように、僕の頬をぺろりと舐めた。
くすぐったくて、思わず笑みがこぼれる。
窓の外では、雪がさらに深々と降り積もっていく。
世界は、僕たち二人と、暖炉の炎の音だけを残して、しんと静まり返っていた。
この穏やかで、満たされた時間が、永遠に続けばいい。
いや、きっと、永遠に続いていくのだろう。
だって、僕たちは、もう離れられないのだから。
この雪の森の奥で、僕たちはこれからもずっと、寄り添って生きていく。
愛する人の温もりを感じながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
僕たちの物語は、ここで終わりじゃない。
ここから始まる、永遠の幸せの、ほんの序章に過ぎないのだから。
24
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
αとβじゃ番えない
庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。
愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる