役立たずと勇者パーティーから追放された俺、人間嫌いの魔族様に「君は私の光だ」と求婚され溺愛される

水凪しおん

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第5話「月の夜の誓い」

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 その夜は、魔力が最も不安定になるとされる満月だった。城に戻った頃からゼノンの様子はどこかおかしく、呼吸も荒くなっていた。
「ゼノンさん……? 大丈夫ですか?」
 リアムが心配そうに声をかけると、ゼノンは額に汗を浮かべ、苦しげに答えた。
「……近づくな、リアム」
 彼の体から、制御しきれないほどの強大な魔力が黒いオーラとなってあふれ出していた。ゴウ、と風が吹き荒れ、城の窓ガラスがガタガタと激しく揺れる。ゼノンは苦痛に顔を歪め、壁に手をついてかろうじて立っている状態だった。
「満月の夜は、古傷の呪いが疼き、私の魔力をかき乱す。理性を保てなくなる前に……早くここから離れろ……!」
 ゼノンの金の瞳が、徐々に赤く染まっていく。暴走する魔力は、まるで生き物のように城内を暴れ回り、書架から本が次々と床に叩きつけられた。リアムの足は恐怖ですくみ、体が震える。けれど、彼が苦しんでいる姿を見て、逃げ出すことなどできなかった。
「嫌です! 一人になんてしません!」
 リアムは恐怖を振り払うように叫び、ゼノンに向かって駆け寄った。
「来るなと言ったはずだ!」
 ゼノンが伸ばした腕から放たれた魔力の奔流が、リアムのすぐ横の壁を砕く。それでもリアムは止まらなかった。
 やっとの思いでゼノンのそばにたどり着き、リアムは力のすべてを振り絞るようにして、その大きな体を後ろから抱きしめた。
「うわあああああっ!」
 ゼノンの体からほとばしる荒れ狂う魔力が、リアムの全身を叩く。まるで嵐の中にいるようだ。けれど、リアムは必死に腕に力を込めた。
「ゼノンさん、僕がそばにいます! だから、自分に負けないで!」
 リアムの願いに応えるように、彼の体から温かく、そして力強い癒やしの光があふれ出した。それは、これまで見せたことのないほどのまばゆい輝きだった。金色の光の粒子が、ゼノンの体を包む黒いオーラに触れ、まるで雪を溶かす陽光のように、その禍々しい力を優しく鎮めていく。
「リアム……お前……」
 ゼノンの赤い瞳に、わずかに理性の光が戻る。リアムの温もりと、魂にまで染み渡るような優しい力が、暴走する魔力を内側から穏やかに凪いでいく。
 やがて、嵐は過ぎ去った。ゼノンの体からあふれていた黒いオーラは完全に消え去り、城内に静寂が戻る。
「……はぁ……っ、はぁ……」
 リアムは持てる力のすべてを使い果たし、立っているのがやっとだった。意識が遠のき、彼の体から力が抜けていく。その体を、振り返ったゼノンが力強く、しかし壊れ物を扱うかのように優しく抱きとめた。
 腕の中でぐったりと意識を失いかけているリアムを見下ろし、ゼノンの心の中に、今まで感じたことのない燃え上がるような感情が突き上げてきた。失いかけて初めて、この存在が自分にとってどれほどかけがえのないものか、はっきりと自覚したのだ。
 愛おしい。手放したくない。誰にも渡したくない。
「リアム」
 ゼノンは、リアムの髪を優しく撫でながら、熱のこもった声で囁いた。
「行くな。ずっと、私のそばにいろ」
 その言葉が聞こえたのか、リアムはゆっくりと瞼を開けた。間近にあるゼノンの真剣な瞳に見つめられ、リアムは夢うつつの中で、こくりと静かに頷いた。
 言葉はいらなかった。二人の心は、この月の夜、完全に一つになったのだ。抱きしめるゼノンの腕に、さらに力がこもった。
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