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光のその先へ
しおりを挟むパシャッ.....
近くで水の音が聞こえる。
気がつくと真っ白な空間にいた。
ふわふわと心地よく、温かな光が私を包む。
見たことのある空間に、安心感を覚える。戻ってきたのだ、ここに。
「長旅お疲れ様でした。さっ、この船に乗ってください」
気がつくと、目の前に小さな船と人影が現れた。
その他にも続々と人が現れる。
誰もがみな、幸せそうに微笑んでいた。
悲しみや憎しみ、苦しみがない世界。
温かく穏やかで、幸せな世界。
ここは、そういう世界だった。
私はこの場所で生まれて、人として生きる事を自分で願って決めた。
どのように生まれたのかはわからない。
でも、ここで生まれたのだ。
...どうして忘れていたのだろう。
そして、ふいに下を見ると、ドス黒くゆらゆらと揺れる物体がうごめいていた。
透明なガラスの下にあるかのような光景だった。
直感で気づく。
見てはならないものだと。
...人として正しく生きられなかった魂が、裁きを受けている姿である事を思い出した。
そういう邪悪な魂は、自動的に地下の世界へと飛ばされる。
魂になってからの地下での生活の辛さは、人として生きていた頃とは比べ物にならないくらい辛いものであることは、誰もが想像できた。
もう、人ではなく魂なのだ。
いくら逃げたくても、どこへも逃げられない。
魂が成長するまで、清く正しく魂を磨くまでは、ずっとこの地下の空間からは出られない。
薄暗く、辛く、悲しい世界。
いくら嘆いても、どうしようもなく辛くたまらない世界。
人間の言葉で言うと、「地獄」だ。
「朱音....」
大切で、大切で。
愛しくてたまらない我が子の名前をそっと呟いた。
この先に、あの子がいる。
そう思うと、胸が張り裂けそうになる。
早く、会いたい。
「ゆっくり向かいますねー」
全員が乗り終えた後、船が出発した。
時間という概念もないこの場所では、急かす人はもちろん、文句を言う人もいない。
みんな穏やかに、ただただ船に揺られていた。
***********
船から降りると、懐かしい顔ぶれが私を囲んだ。
ずっと私に冷たく当たっていた母は、涙を流しながら私に謝罪した。
きっと、この世に来た時にとてつもない罪悪感に襲われ、逃げ出したくなるくらいの辛さを味わったのだろう。
人として生きていた頃に覚えた黒い感情は、魂になった時に一気に自分に降り注いでくる。
幸せな感情しかないこの世界でその感情を持つことは、言葉にできないほど苦しかっただろう。
罪悪感、自分への失望、悲しさ、辛さ、後悔。
人ではなく純粋な魂に戻った時、想像を絶する痛みとして自分に襲いかかるのだ。
人として正しい行いをしなければいけない。
それは、人としての人生を終えて魂に戻った時、辛くないようにする為の自分への戒めでもある。
「もう、いいの。会えて嬉しい」
涙を流し、お互いに抱き合う。
そして、一通り懐かしい人たちと話し終えた頃、私は朱音の姿を探した。
ずっとずっと、会いたかった。
ふわっ....
穏やかな風が私を包んだ。
懐かしいその風に、私は涙が溢れた。
「久しぶりですね。ようやく会えて嬉しいです」
私の守護霊だった。
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