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結局のところエリックは、翌日に近隣の魔物を一掃する任務が始まるまで、現れることはなかった。あの後受付に戻ってみたものの、レナルドの父だと名乗る男性に会っただけで大きな収穫もない。
やはり彼も私が、『助手というのは建前で、エリック・ターナーの査定のためにやってきた』と認識しているらしく、それは周知の事実のようだ。どこからこの話が出てきたのか追及する前に、彼は私に簡単なあいさつだけしてバタバタと仕事に戻ってしまった。
ただ、エリックが任務の前に戻ってきたところを見ると、本格的に仕事をサボるのはまずいということは認識しているようだ。
おかげで、というべきか、彼が戻ってこないことで私は助手の仕事をせずに済んでいた。それに、半日ほど遠くから演習を眺めていたことで、この部隊で働いている人たちのレベルもだいたい分かったように思う。
ざっと見る限り、全体が高レベルということはなさそうだ。1人、2人は王都にいてもおかしくないとは思うけれど、特筆すべきことはない。そもそもこの辺りにいる魔物は対して駆除に困るほどではなかったし、エリア的にも激しい戦場になることは考えにくかった。わざわざ高位の精霊使いがここで働く理由はないのだろう。
ただ、私はいまだに事情がよく飲み込めないでいた。とりあえず私がここに来ることは伝わっていたとはいえ、『助手として』という話が私の予想とかけ離れていたためだ。まさか『どういう事情でそんなことに?』と聞いて回るわけにもいかず、エリックの実力の真偽すら分からない。
結局どこかで確かめるしかないのだが、どうやってさりげなくこれまでの状況を聞けばよいのだろう。定期的な魔物の駆除という任務があったのは、まだよかったかもしれない。少なくとも、彼らが仕事をしているところを見られるわけだから。
あまり考えがまとまらないまま、私はエリックの様子を窺った。
彼は私の顔を見て、眉をひそめる。これはちょっとした問題かもしれない。もし彼が本当に引き抜きをかけるほどの人材だったとして、監視のために助手をよこしたことになっている王都に行こうとするだろうか。
場合によっては3ヶ月で彼の信頼を勝ち取らなくてはいけないが、何だか前途多難な気がした。
「さあ、全員揃ったようですし、出発しましょうか」
レナルドが声をかけたことで、周囲の隊員たちが集まってきた。到着してからは個人行動になるが、さすがに現地集合、現地解散なわけではない。
また、私はこの任務に帯同してエリックの様子を窺うという話になっていた。本人は監視だと思っているし、それ以外の隊員は彼の処遇を決めるための確認作業だと思っているのだから行かないわけにはいかないだろう。
周囲を見渡すと、それぞれの隊員が精霊を準備している。わらわらと現れた火の玉を見て、ここから去ってしまいたい気持ちになった。ただ、この3ヶ月が過ぎればもう見ることはないのだろうし、と気持ちを切り替える。
見ているだけでいいのだから、大きな問題はないはずだ。なるべくかかわらないようにすればいい。以前のように、使役しろというわけではないのだから。
基本的に、精霊はよほどの事情がない限り貸し出し制だった。日常生活に精霊はほとんど必要がなく、無駄に近くに置いておくと暴発の危険もある。そもそも、精霊の所有権は精霊使いではなく王宮にあった。危ない武器のようなものかもしれない。
必要なときだけ、それぞれが扱える精霊を借りるというのが基本的なスタイルだ。あとは、1人1体が上限ということくらいだろうか。そもそも複数を扱える人がほぼいない上に、無駄な弾はないからだ。
本人の資質にもかかわるため、自分で選ぶのではなくそれまでの成績などを考慮して上層部から割り当てられる。一握りの精霊使いは貸出や返却の必要はないが、本人と周囲に危険がないと判断されるときに限られた。
ただ、精霊を準備している様子を見て、私は違和感を覚えた。
一つ、おかしなものが混ざっていたからだ。
やはり彼も私が、『助手というのは建前で、エリック・ターナーの査定のためにやってきた』と認識しているらしく、それは周知の事実のようだ。どこからこの話が出てきたのか追及する前に、彼は私に簡単なあいさつだけしてバタバタと仕事に戻ってしまった。
ただ、エリックが任務の前に戻ってきたところを見ると、本格的に仕事をサボるのはまずいということは認識しているようだ。
おかげで、というべきか、彼が戻ってこないことで私は助手の仕事をせずに済んでいた。それに、半日ほど遠くから演習を眺めていたことで、この部隊で働いている人たちのレベルもだいたい分かったように思う。
ざっと見る限り、全体が高レベルということはなさそうだ。1人、2人は王都にいてもおかしくないとは思うけれど、特筆すべきことはない。そもそもこの辺りにいる魔物は対して駆除に困るほどではなかったし、エリア的にも激しい戦場になることは考えにくかった。わざわざ高位の精霊使いがここで働く理由はないのだろう。
ただ、私はいまだに事情がよく飲み込めないでいた。とりあえず私がここに来ることは伝わっていたとはいえ、『助手として』という話が私の予想とかけ離れていたためだ。まさか『どういう事情でそんなことに?』と聞いて回るわけにもいかず、エリックの実力の真偽すら分からない。
結局どこかで確かめるしかないのだが、どうやってさりげなくこれまでの状況を聞けばよいのだろう。定期的な魔物の駆除という任務があったのは、まだよかったかもしれない。少なくとも、彼らが仕事をしているところを見られるわけだから。
あまり考えがまとまらないまま、私はエリックの様子を窺った。
彼は私の顔を見て、眉をひそめる。これはちょっとした問題かもしれない。もし彼が本当に引き抜きをかけるほどの人材だったとして、監視のために助手をよこしたことになっている王都に行こうとするだろうか。
場合によっては3ヶ月で彼の信頼を勝ち取らなくてはいけないが、何だか前途多難な気がした。
「さあ、全員揃ったようですし、出発しましょうか」
レナルドが声をかけたことで、周囲の隊員たちが集まってきた。到着してからは個人行動になるが、さすがに現地集合、現地解散なわけではない。
また、私はこの任務に帯同してエリックの様子を窺うという話になっていた。本人は監視だと思っているし、それ以外の隊員は彼の処遇を決めるための確認作業だと思っているのだから行かないわけにはいかないだろう。
周囲を見渡すと、それぞれの隊員が精霊を準備している。わらわらと現れた火の玉を見て、ここから去ってしまいたい気持ちになった。ただ、この3ヶ月が過ぎればもう見ることはないのだろうし、と気持ちを切り替える。
見ているだけでいいのだから、大きな問題はないはずだ。なるべくかかわらないようにすればいい。以前のように、使役しろというわけではないのだから。
基本的に、精霊はよほどの事情がない限り貸し出し制だった。日常生活に精霊はほとんど必要がなく、無駄に近くに置いておくと暴発の危険もある。そもそも、精霊の所有権は精霊使いではなく王宮にあった。危ない武器のようなものかもしれない。
必要なときだけ、それぞれが扱える精霊を借りるというのが基本的なスタイルだ。あとは、1人1体が上限ということくらいだろうか。そもそも複数を扱える人がほぼいない上に、無駄な弾はないからだ。
本人の資質にもかかわるため、自分で選ぶのではなくそれまでの成績などを考慮して上層部から割り当てられる。一握りの精霊使いは貸出や返却の必要はないが、本人と周囲に危険がないと判断されるときに限られた。
ただ、精霊を準備している様子を見て、私は違和感を覚えた。
一つ、おかしなものが混ざっていたからだ。
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