元精霊使いのささやかなミッション

RIO

文字の大きさ
11 / 24

11

しおりを挟む
 結局のところエリックは、翌日に近隣の魔物を一掃する任務が始まるまで、現れることはなかった。あの後受付に戻ってみたものの、レナルドの父だと名乗る男性に会っただけで大きな収穫もない。

 やはり彼も私が、『助手というのは建前で、エリック・ターナーの査定のためにやってきた』と認識しているらしく、それは周知の事実のようだ。どこからこの話が出てきたのか追及する前に、彼は私に簡単なあいさつだけしてバタバタと仕事に戻ってしまった。

 ただ、エリックが任務の前に戻ってきたところを見ると、本格的に仕事をサボるのはまずいということは認識しているようだ。


 おかげで、というべきか、彼が戻ってこないことで私は助手の仕事をせずに済んでいた。それに、半日ほど遠くから演習を眺めていたことで、この部隊で働いている人たちのレベルもだいたい分かったように思う。

 ざっと見る限り、全体が高レベルということはなさそうだ。1人、2人は王都にいてもおかしくないとは思うけれど、特筆すべきことはない。そもそもこの辺りにいる魔物は対して駆除に困るほどではなかったし、エリア的にも激しい戦場になることは考えにくかった。わざわざ高位の精霊使いがここで働く理由はないのだろう。

 ただ、私はいまだに事情がよく飲み込めないでいた。とりあえず私がここに来ることは伝わっていたとはいえ、『助手として』という話が私の予想とかけ離れていたためだ。まさか『どういう事情でそんなことに?』と聞いて回るわけにもいかず、エリックの実力の真偽すら分からない。

 結局どこかで確かめるしかないのだが、どうやってさりげなくこれまでの状況を聞けばよいのだろう。定期的な魔物の駆除という任務があったのは、まだよかったかもしれない。少なくとも、彼らが仕事をしているところを見られるわけだから。

 あまり考えがまとまらないまま、私はエリックの様子を窺った。

 彼は私の顔を見て、眉をひそめる。これはちょっとした問題かもしれない。もし彼が本当に引き抜きをかけるほどの人材だったとして、監視のために助手をよこしたことになっている王都に行こうとするだろうか。

 場合によっては3ヶ月で彼の信頼を勝ち取らなくてはいけないが、何だか前途多難な気がした。



「さあ、全員揃ったようですし、出発しましょうか」

 レナルドが声をかけたことで、周囲の隊員たちが集まってきた。到着してからは個人行動になるが、さすがに現地集合、現地解散なわけではない。

 また、私はこの任務に帯同してエリックの様子を窺うという話になっていた。本人は監視だと思っているし、それ以外の隊員は彼の処遇を決めるための確認作業だと思っているのだから行かないわけにはいかないだろう。



 周囲を見渡すと、それぞれの隊員が精霊を準備している。わらわらと現れた火の玉を見て、ここから去ってしまいたい気持ちになった。ただ、この3ヶ月が過ぎればもう見ることはないのだろうし、と気持ちを切り替える。

 見ているだけでいいのだから、大きな問題はないはずだ。なるべくかかわらないようにすればいい。以前のように、使役しろというわけではないのだから。




 基本的に、精霊はよほどの事情がない限り貸し出し制だった。日常生活に精霊はほとんど必要がなく、無駄に近くに置いておくと暴発の危険もある。そもそも、精霊の所有権は精霊使いではなく王宮にあった。危ない武器のようなものかもしれない。

 必要なときだけ、それぞれが扱える精霊を借りるというのが基本的なスタイルだ。あとは、1人1体が上限ということくらいだろうか。そもそも複数を扱える人がほぼいない上に、無駄な弾はないからだ。

 本人の資質にもかかわるため、自分で選ぶのではなくそれまでの成績などを考慮して上層部から割り当てられる。一握りの精霊使いは貸出や返却の必要はないが、本人と周囲に危険がないと判断されるときに限られた。

 ただ、精霊を準備している様子を見て、私は違和感を覚えた。


 一つ、おかしなものが混ざっていたからだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

処理中です...