18 / 24
18
しおりを挟む
目を開けると、白い天井が見えた。気分は悪くない。どうやら、私は無事だったようだ。
視線を横にずらすと、そこにはエリックが座っていた。サイドテーブルに頬杖をついてぼんやりとした表情をしていたが、私と目が合うと急にその顔に驚きが広がる。
ただ、彼の表情はすぐに、ふてくされたような怒っているようなものに変わった。
「…………大丈夫?」
表情と声だけだと、そんな言葉が出てくるようには思えなかった。ただ、倒れていたことを考慮したのか、気を遣ってくれてはいるようだ。
「……はい、そうですね。問題なさそうです」
私は、そう答えて体を起こした。一体どうなったのかある程度想像はつくけれど、聞いておかないといけないこともある。
彼は『そう』とだけ返事をして、立ち上がった。
「どこに行くんですか?」
「君が起きたってことを、言いに行かないといけないんだよ。それより、後で全部説明してもらうからね。いろいろと」
「…………ええと、それはそうですよね。でも、エリックさんも大丈夫だったみたいで、よかったです」
「何が大丈夫なのか分からないけど。とりあえず生きててよかったね」
彼の声はやっぱり怒っていたけれど、仕方のないことだとは思う。もし何か一つでも間違えていたら、死んでいてもおかしくなかったのだから。
「エリックさん」
「なに?」
彼は私に背を向けて、歩き出していた。部屋の扉を開けたところで、彼が振り返る。
「あの、怒られても当然のことをしたとは思ってるんですけど、本当に」
謝る前に、私の声は遮られてしまった。
「だから、全部説明してくれたらそれでいいよ。帰ってきたら説明するって、君が言ったんだろ?」
エリックはそのまま部屋を出ていき、扉がぱたんと閉まる。彼の求めている説明は一体どこからどこまでなのだろうか、と思いながら私は諦めてベッドに横たわることにした。
本当なら、私はここに戻ってきて彼に『いかに王都がよいところか』をアピールするつもりだったのだ。後は定期審査のときにちょっとした手助けをするとか、そのくらいの話で済んでいたのではないだろうか。
とても簡単なお仕事だ。そうして私は彼を王都に送って、どこか適当な街で今度こそのんびり暮らす。エルドレッドも人手不足を解消できて、今後私が呼び出されることもない。
ただ、それは、訳の分からないドラゴンが現れず、私がよく知る精霊がここにいなければの話だった。
そういえば、ダインはどうしたのだろう。多分、大人しく他の精霊と一緒に返却されて倉庫で眠っているなんてことはないはずだ。
私は、考えることを放棄した。
次にダインが話しかけてきたとき、どうすれば関わり合いにならずに済むか思いつかなかったからだ。3ヶ月だけと割り切って、諦めるしかないのかもしれない。
とりあえず、後で全部考えよう、と思って私は目を閉じた。
視線を横にずらすと、そこにはエリックが座っていた。サイドテーブルに頬杖をついてぼんやりとした表情をしていたが、私と目が合うと急にその顔に驚きが広がる。
ただ、彼の表情はすぐに、ふてくされたような怒っているようなものに変わった。
「…………大丈夫?」
表情と声だけだと、そんな言葉が出てくるようには思えなかった。ただ、倒れていたことを考慮したのか、気を遣ってくれてはいるようだ。
「……はい、そうですね。問題なさそうです」
私は、そう答えて体を起こした。一体どうなったのかある程度想像はつくけれど、聞いておかないといけないこともある。
彼は『そう』とだけ返事をして、立ち上がった。
「どこに行くんですか?」
「君が起きたってことを、言いに行かないといけないんだよ。それより、後で全部説明してもらうからね。いろいろと」
「…………ええと、それはそうですよね。でも、エリックさんも大丈夫だったみたいで、よかったです」
「何が大丈夫なのか分からないけど。とりあえず生きててよかったね」
彼の声はやっぱり怒っていたけれど、仕方のないことだとは思う。もし何か一つでも間違えていたら、死んでいてもおかしくなかったのだから。
「エリックさん」
「なに?」
彼は私に背を向けて、歩き出していた。部屋の扉を開けたところで、彼が振り返る。
「あの、怒られても当然のことをしたとは思ってるんですけど、本当に」
謝る前に、私の声は遮られてしまった。
「だから、全部説明してくれたらそれでいいよ。帰ってきたら説明するって、君が言ったんだろ?」
エリックはそのまま部屋を出ていき、扉がぱたんと閉まる。彼の求めている説明は一体どこからどこまでなのだろうか、と思いながら私は諦めてベッドに横たわることにした。
本当なら、私はここに戻ってきて彼に『いかに王都がよいところか』をアピールするつもりだったのだ。後は定期審査のときにちょっとした手助けをするとか、そのくらいの話で済んでいたのではないだろうか。
とても簡単なお仕事だ。そうして私は彼を王都に送って、どこか適当な街で今度こそのんびり暮らす。エルドレッドも人手不足を解消できて、今後私が呼び出されることもない。
ただ、それは、訳の分からないドラゴンが現れず、私がよく知る精霊がここにいなければの話だった。
そういえば、ダインはどうしたのだろう。多分、大人しく他の精霊と一緒に返却されて倉庫で眠っているなんてことはないはずだ。
私は、考えることを放棄した。
次にダインが話しかけてきたとき、どうすれば関わり合いにならずに済むか思いつかなかったからだ。3ヶ月だけと割り切って、諦めるしかないのかもしれない。
とりあえず、後で全部考えよう、と思って私は目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる