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第1話 キリマンジャロ・マシーン
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◯教室内。
チャイムが鳴り響く。
教室での喧騒が聞こえる。
向かい合って座る制服姿の▼(女子)と▽(女子)。
▼は本を読んでいる。
▽は映画やドラマの話をしている。
(2022年5月19日現在、『シン・ウルトラマン』や『ファウンデーション』の話題など)
▽「そういうわけで私はあのキャラが最高に推しわけよ」
▼「……ねえ」
▽「何?」
▼「そうやって、作品の話をする時にキャラクターの魅力ばかり語る人っているけど、それってどうなの? と思うのよ。そんなの、アイドルに群がる人達と何が違うの? あなたは真摯に作品に向き合ってるって言える?」
溜息をつく▽。
▽「あのさー、キャラがあってのストーリーなわけ。作品の良さを語るのにキャラ萌えは必須よ?」
▼「キャラはあくまで主題やストーリーラインを魅せる為の駒でしょう。星を継ぐ者を説明する時に、登場人物の話する?」
▽「全然するでしょ。あたしゴードン・ストレルのファンフィク書いたよ」
▼「嘘でしょ」
と、読んでいた本を閉じる。
▼「ストレルって続編の『ガニメデの優しい巨人』に出てくる副官? ヴィクターとか探偵役のダンチェッカーならまだ良いわ。ストレルって何か描写あった?」
▽「ガニメアンとのファーストコンタクト果たしたのはストレルじゃん」
▼「逆に言うとそれ以外ないわよね」
▽「わかってないなあ。だからこそ膨らませがいがあるわけでしょ」
▼「膨らませるって、何を膨らませるのよ」
▽「ストレルが如何にしてガニメアンに対面したのか。そして、脳裏に思い出される……幼き日の少年との、ロマンス……!」
▼「着いていけないわね……」
と、本を開こうとしてもう一度閉じる。
▼「ブラッドベリの短編で、登場人物の個性の話はしないでしょ。短編なんて、それが尖った人物でなければ取り替えが効くんだから。そもそも名前がないことも多いでしょうに」
▽「でもキリマンジャロマシーンのタイムマシーンが何故トラックなのかとかあのトラックとの出会いは?とか考えるの面白いよ」
▼「そこまで行くと何言ってるかよくわからないわ。大体あの話をする人はヘミングウェイへのオマージュとか、そういう方面を語るでしょ」
▽「そんな裏表紙に書いてるような紋切り型の話なんかして何が楽しいのさ。あ、でも、その方面も面白いか。愛する人に相応しい死を迎えて欲しいって最高のクソデカ感情の話だから」
▼「クソデカ……何?」
と、眉を細める。
▽「クソデカ感情」
▼「クソデカ感情。……え?」
▽「滅茶苦茶重い愛」
▼「そのまんまじゃない」
▽「そのまんまだよ? だってあの話、名言はされてないけど、主人公が過去に連れて行きたい老人はヘミングウェイでしょ」
▼「そうね。ヘミングウェイは散弾銃で自殺したと言われてるから、それを救う話、と言えるわ」
▽「それがクソデカ感情でしょ」
▼「わからないわ」
▽「『老人と海』で知られる巨匠、尊崇するヘミングウェイに、平和な最期を迎えて欲しい。その為にフィクションの中だけでも愛するヘミングウェイを救う。ワンスアポンアタイムインハリウッドのタランティーノから映画界へ送る讃歌にも共通するような、最強の愛でしょ。あ、▼ちゃん『ルックバック』読んだ?」
▼「読んでないわ。話題になってたのは知ってるけど、漫画をスマホで読む習慣がないから」
▽「マジで? じゃあ今度単行本貸す」
▼「……ありがとう」
と、今度こそ本を開き直す。
チャイムが鳴り、▼は溜息をついて本を閉じる。
▽は急いで自分の席に戻ろうとする。
それを目で追う▼。
登場作品
『キリマンジャロ・マシーン』レイ・ブラッドベリ
『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン
『ガニメデの優しい巨人』ジェイムズ・P・ホーガン
『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』クエンティン・タランティーノ監督作品
『ルックバック』藤本タツキ
チャイムが鳴り響く。
教室での喧騒が聞こえる。
向かい合って座る制服姿の▼(女子)と▽(女子)。
▼は本を読んでいる。
▽は映画やドラマの話をしている。
(2022年5月19日現在、『シン・ウルトラマン』や『ファウンデーション』の話題など)
▽「そういうわけで私はあのキャラが最高に推しわけよ」
▼「……ねえ」
▽「何?」
▼「そうやって、作品の話をする時にキャラクターの魅力ばかり語る人っているけど、それってどうなの? と思うのよ。そんなの、アイドルに群がる人達と何が違うの? あなたは真摯に作品に向き合ってるって言える?」
溜息をつく▽。
▽「あのさー、キャラがあってのストーリーなわけ。作品の良さを語るのにキャラ萌えは必須よ?」
▼「キャラはあくまで主題やストーリーラインを魅せる為の駒でしょう。星を継ぐ者を説明する時に、登場人物の話する?」
▽「全然するでしょ。あたしゴードン・ストレルのファンフィク書いたよ」
▼「嘘でしょ」
と、読んでいた本を閉じる。
▼「ストレルって続編の『ガニメデの優しい巨人』に出てくる副官? ヴィクターとか探偵役のダンチェッカーならまだ良いわ。ストレルって何か描写あった?」
▽「ガニメアンとのファーストコンタクト果たしたのはストレルじゃん」
▼「逆に言うとそれ以外ないわよね」
▽「わかってないなあ。だからこそ膨らませがいがあるわけでしょ」
▼「膨らませるって、何を膨らませるのよ」
▽「ストレルが如何にしてガニメアンに対面したのか。そして、脳裏に思い出される……幼き日の少年との、ロマンス……!」
▼「着いていけないわね……」
と、本を開こうとしてもう一度閉じる。
▼「ブラッドベリの短編で、登場人物の個性の話はしないでしょ。短編なんて、それが尖った人物でなければ取り替えが効くんだから。そもそも名前がないことも多いでしょうに」
▽「でもキリマンジャロマシーンのタイムマシーンが何故トラックなのかとかあのトラックとの出会いは?とか考えるの面白いよ」
▼「そこまで行くと何言ってるかよくわからないわ。大体あの話をする人はヘミングウェイへのオマージュとか、そういう方面を語るでしょ」
▽「そんな裏表紙に書いてるような紋切り型の話なんかして何が楽しいのさ。あ、でも、その方面も面白いか。愛する人に相応しい死を迎えて欲しいって最高のクソデカ感情の話だから」
▼「クソデカ……何?」
と、眉を細める。
▽「クソデカ感情」
▼「クソデカ感情。……え?」
▽「滅茶苦茶重い愛」
▼「そのまんまじゃない」
▽「そのまんまだよ? だってあの話、名言はされてないけど、主人公が過去に連れて行きたい老人はヘミングウェイでしょ」
▼「そうね。ヘミングウェイは散弾銃で自殺したと言われてるから、それを救う話、と言えるわ」
▽「それがクソデカ感情でしょ」
▼「わからないわ」
▽「『老人と海』で知られる巨匠、尊崇するヘミングウェイに、平和な最期を迎えて欲しい。その為にフィクションの中だけでも愛するヘミングウェイを救う。ワンスアポンアタイムインハリウッドのタランティーノから映画界へ送る讃歌にも共通するような、最強の愛でしょ。あ、▼ちゃん『ルックバック』読んだ?」
▼「読んでないわ。話題になってたのは知ってるけど、漫画をスマホで読む習慣がないから」
▽「マジで? じゃあ今度単行本貸す」
▼「……ありがとう」
と、今度こそ本を開き直す。
チャイムが鳴り、▼は溜息をついて本を閉じる。
▽は急いで自分の席に戻ろうとする。
それを目で追う▼。
登場作品
『キリマンジャロ・マシーン』レイ・ブラッドベリ
『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン
『ガニメデの優しい巨人』ジェイムズ・P・ホーガン
『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』クエンティン・タランティーノ監督作品
『ルックバック』藤本タツキ
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