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Chapter5:Struggle
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王党派会館の正面玄関には、グラットー達が侵入して来ていた。
元王党派でありながら、巡礼者でもない彼らは、自身を真・王党派と名乗っている。
王党派が割れたのは当然、日に日に弱るロード・ルスヴンを彼らが知っているからだ。
長く続いたルスヴンの統治を続けるべきだと主張するグラットー達王党右派、そして正規の手続きを経て代議士となっていたジュリアンこそが正統かつ新たな世界の支配者だとする王党左派。
王党派は二つに割れ、遂に先日、ジュリアンが選挙を経て王党派党首となったのである。
グラットーは「たとえ法に背くことになろうと、俺は陛下を生かす道を選ぶ」と豪語し、王党派から離脱した者達と巡礼者を率い、ジャックのジュリアン暗殺を手助けしている。
「グラットー、党首室の前まで来たぞ」
ジャックは窓から王党派の内紛を見下ろした。党首室のある階では、流石に多くの警護を相手にする羽目になった。だが、それももう終わりだ。
『ジャック・ガードナー、健闘を祈る』
グラットーはそれだけ言い、通信を切った。
その瞬間、外で大きな破裂音が聞こえた。
小型戦術爆弾の起動音。
辺り一帯を巨大な爆発で巻き込み、その空を一世紀の間雲で覆う。その場に居合わせた不死者殺は、身体を粉々に砕かれ再生を阻害される、巡礼者の兵器だ。
王党派会館はその爆発にも物ともしないと踏んだグラットーは、自分達諸共、ジュリアン・ガードナーが用意した兵を一掃することを選んだのだろう。
「グラットーは、ルスヴンの眠る百年の間にうまれた貧民街の出身だったな」
王党派会館党首室、その扉を開けると、その奥にはジュリアン・ガードナーが鎮座していた。
「たった百年。ルスヴンが眠るたった百年の間に世界はこうも荒む。だからルスヴンは俺達を後継者としてその支配を続けようとしたが、私に言わせればそんなものは延命措置に過ぎない」
ジュリアンはゆっくりと立ち上がり、その場に置いていた武器を手に取った。
ジュリアンが不死者になる前にジャックと戦った時にも愛用していた帯電刀。銘を“ヤブサメ”。
「不死者が世界を支配してしまったのが過ちだ。巡礼者の長、チャールズはそう言いながらもその実、ルスヴンにとって代わりたいだけ。だから私はルスヴンもチャールズも殺し、この地に人の支配を取り戻す」
「矛盾しているな」
ジュリアンの言葉は、矛盾している。
不死者の統治を終わらせて、人の支配を取り戻す。そう主張する彼が既に不死者となっている。
ジュリアンは自身を睨みつけるジャックを、鼻で笑った。
「貴様に一度殺された時は私も終わりかと思ったよ。だが、世界は俺を生かした。俺もお前も死ねば、不死者殺しは失われるからな。チャールズの外面の良さに辟易していた巡礼者の同士が、私を蘇らせてくれた」
チャールズ率いる巡礼者もまた、王党派同様一枚岩ではなかった。それはルスヴンの後継者を選ぶことも出来るのに誰よりも教義に忠実なジュリアンに共鳴した者が大勢居たからだ。
結果として、彼はその身で、王党派と巡礼者、二つの組織を掻き乱したのだ。
「この腐り切った世界を壊し、新たな歩みを始めたのを見届ければ、私も死者の国に向かうよ」
「成程な」
「ジャック、貴様は何故私を殺す?」
「──俺は」
ジュリアンの問いに答えようと口を開いた瞬間、ジャックの目の前に帯電刀が一直線に飛んできた。
ジャックは腕甲でその攻撃を防ぐ。
不死者でないジャックは、常にその身を極薄のナノマシンの鎧に包んでいる。簡単には殺せない。
ジャックは帯電刀の刃を握りしめると、力任せに蹴り上げた。
その力でジュリアンの愛刀は砕け、床に転がる。
だが、その程度でジュリアンは怯むことはない。不死者の強みは、当然“死なない”ことだが、不死者殺しのジャックとの戦闘ではそれも大きなアドバンテージとは言えない。
それでもジュリアンは愛刀の柄を直ぐに捨て、ジャックの喉に向けて手刀で突く。
一進一退の攻防。
どちらもが同程度の力なのであれば、決着がつくのは一瞬の判断による。その点で言えば、間違いなくジャックが不利である。
疲労すらも回復する不死者ジュリアンに対し、ジャックの動きは、それが何年も鍛錬を積み重ねてきた達人の極技であろうと、時を重ねる度に鈍る。
本来ならば、こうして真正面から戦いを挑むのは避けるべきだった。しかし、ジュリアンがジャックの潜入に気付いていたことは、ジャックも判っていた。
「貴様は死にに来たのか、ジャック。グラットーの死を無駄にしない為か?」
「殺し合いの最中にお喋りとは余裕だな、ガードナー!」
ジャックはジュリアンの左胸に手を伸ばす。そのまま心臓を一突きすればジャックの勝ち。
だが当然、ジュリアンがそれを許す筈はない。
「哀れ」
ジュリアンは自身の胸元に届いた腕を掴み、握り潰す。
腕を失い、戦う手段を無くしたジャックに、もう成す術はない。
そう、ジュリアンが思考したその時だった。
「──む?」
ジュリアンの胸から、血が流れる。
不死者の胸に、風穴が空いていた。
「何が」
ジュリアンはジャックの腕を改めて注視した。
潰れた腕。その負傷した血が固まり、極小の刃となって、ジュリアンの胸を貫いている。
「そうか貴様、負傷覚悟で」
「俺がこの期に及んで完全勝利を狙っているとでも思ったか?」
「──否。それは、そうだな」
ジュリアンは小さく息を吐き、背中から倒れる。
不死者殺し。その力が自身の胸を穿った際に間違いなく発揮されていることを、ジュリアンは理解する。
ジャックは潰れた腕を止血し、ジュリアンの顔を見下ろした。
「俺もお前に聞きたい」
「何だ」
「お前が俺の潜入に気付いていたというなら、お前こそ俺と対峙する必要はなかった筈だ」
ジャックの言葉に、ジュリアンは再び鼻で笑った。
「知れたこと」
怪物が世を統べてはならない。
ジュリアンは一言、巡礼者の教義を口にして自らの喉をその爪で掻っ切った。
「ガードナー……否、ジュリアン」
ジャックは、今しがた息を引き取った兄弟の名を改めて呼んだ。
元王党派でありながら、巡礼者でもない彼らは、自身を真・王党派と名乗っている。
王党派が割れたのは当然、日に日に弱るロード・ルスヴンを彼らが知っているからだ。
長く続いたルスヴンの統治を続けるべきだと主張するグラットー達王党右派、そして正規の手続きを経て代議士となっていたジュリアンこそが正統かつ新たな世界の支配者だとする王党左派。
王党派は二つに割れ、遂に先日、ジュリアンが選挙を経て王党派党首となったのである。
グラットーは「たとえ法に背くことになろうと、俺は陛下を生かす道を選ぶ」と豪語し、王党派から離脱した者達と巡礼者を率い、ジャックのジュリアン暗殺を手助けしている。
「グラットー、党首室の前まで来たぞ」
ジャックは窓から王党派の内紛を見下ろした。党首室のある階では、流石に多くの警護を相手にする羽目になった。だが、それももう終わりだ。
『ジャック・ガードナー、健闘を祈る』
グラットーはそれだけ言い、通信を切った。
その瞬間、外で大きな破裂音が聞こえた。
小型戦術爆弾の起動音。
辺り一帯を巨大な爆発で巻き込み、その空を一世紀の間雲で覆う。その場に居合わせた不死者殺は、身体を粉々に砕かれ再生を阻害される、巡礼者の兵器だ。
王党派会館はその爆発にも物ともしないと踏んだグラットーは、自分達諸共、ジュリアン・ガードナーが用意した兵を一掃することを選んだのだろう。
「グラットーは、ルスヴンの眠る百年の間にうまれた貧民街の出身だったな」
王党派会館党首室、その扉を開けると、その奥にはジュリアン・ガードナーが鎮座していた。
「たった百年。ルスヴンが眠るたった百年の間に世界はこうも荒む。だからルスヴンは俺達を後継者としてその支配を続けようとしたが、私に言わせればそんなものは延命措置に過ぎない」
ジュリアンはゆっくりと立ち上がり、その場に置いていた武器を手に取った。
ジュリアンが不死者になる前にジャックと戦った時にも愛用していた帯電刀。銘を“ヤブサメ”。
「不死者が世界を支配してしまったのが過ちだ。巡礼者の長、チャールズはそう言いながらもその実、ルスヴンにとって代わりたいだけ。だから私はルスヴンもチャールズも殺し、この地に人の支配を取り戻す」
「矛盾しているな」
ジュリアンの言葉は、矛盾している。
不死者の統治を終わらせて、人の支配を取り戻す。そう主張する彼が既に不死者となっている。
ジュリアンは自身を睨みつけるジャックを、鼻で笑った。
「貴様に一度殺された時は私も終わりかと思ったよ。だが、世界は俺を生かした。俺もお前も死ねば、不死者殺しは失われるからな。チャールズの外面の良さに辟易していた巡礼者の同士が、私を蘇らせてくれた」
チャールズ率いる巡礼者もまた、王党派同様一枚岩ではなかった。それはルスヴンの後継者を選ぶことも出来るのに誰よりも教義に忠実なジュリアンに共鳴した者が大勢居たからだ。
結果として、彼はその身で、王党派と巡礼者、二つの組織を掻き乱したのだ。
「この腐り切った世界を壊し、新たな歩みを始めたのを見届ければ、私も死者の国に向かうよ」
「成程な」
「ジャック、貴様は何故私を殺す?」
「──俺は」
ジュリアンの問いに答えようと口を開いた瞬間、ジャックの目の前に帯電刀が一直線に飛んできた。
ジャックは腕甲でその攻撃を防ぐ。
不死者でないジャックは、常にその身を極薄のナノマシンの鎧に包んでいる。簡単には殺せない。
ジャックは帯電刀の刃を握りしめると、力任せに蹴り上げた。
その力でジュリアンの愛刀は砕け、床に転がる。
だが、その程度でジュリアンは怯むことはない。不死者の強みは、当然“死なない”ことだが、不死者殺しのジャックとの戦闘ではそれも大きなアドバンテージとは言えない。
それでもジュリアンは愛刀の柄を直ぐに捨て、ジャックの喉に向けて手刀で突く。
一進一退の攻防。
どちらもが同程度の力なのであれば、決着がつくのは一瞬の判断による。その点で言えば、間違いなくジャックが不利である。
疲労すらも回復する不死者ジュリアンに対し、ジャックの動きは、それが何年も鍛錬を積み重ねてきた達人の極技であろうと、時を重ねる度に鈍る。
本来ならば、こうして真正面から戦いを挑むのは避けるべきだった。しかし、ジュリアンがジャックの潜入に気付いていたことは、ジャックも判っていた。
「貴様は死にに来たのか、ジャック。グラットーの死を無駄にしない為か?」
「殺し合いの最中にお喋りとは余裕だな、ガードナー!」
ジャックはジュリアンの左胸に手を伸ばす。そのまま心臓を一突きすればジャックの勝ち。
だが当然、ジュリアンがそれを許す筈はない。
「哀れ」
ジュリアンは自身の胸元に届いた腕を掴み、握り潰す。
腕を失い、戦う手段を無くしたジャックに、もう成す術はない。
そう、ジュリアンが思考したその時だった。
「──む?」
ジュリアンの胸から、血が流れる。
不死者の胸に、風穴が空いていた。
「何が」
ジュリアンはジャックの腕を改めて注視した。
潰れた腕。その負傷した血が固まり、極小の刃となって、ジュリアンの胸を貫いている。
「そうか貴様、負傷覚悟で」
「俺がこの期に及んで完全勝利を狙っているとでも思ったか?」
「──否。それは、そうだな」
ジュリアンは小さく息を吐き、背中から倒れる。
不死者殺し。その力が自身の胸を穿った際に間違いなく発揮されていることを、ジュリアンは理解する。
ジャックは潰れた腕を止血し、ジュリアンの顔を見下ろした。
「俺もお前に聞きたい」
「何だ」
「お前が俺の潜入に気付いていたというなら、お前こそ俺と対峙する必要はなかった筈だ」
ジャックの言葉に、ジュリアンは再び鼻で笑った。
「知れたこと」
怪物が世を統べてはならない。
ジュリアンは一言、巡礼者の教義を口にして自らの喉をその爪で掻っ切った。
「ガードナー……否、ジュリアン」
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