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#5 マナヒコ・オリジン
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殺し屋稼業綾蔵家。
それが俺が継いだ家の名だった。
元々は戦後の日本に生まれた博徒の集まりだったそうだ。だが、腕っ節の強い者が多いという綾蔵家には殺しの仕事が少なからず舞い込んで来た。
その仕事を喜んで請け負ったのが綾蔵家の初代と伝わる綾蔵真名彦だ。代々綾蔵家の当主は真名彦の名を継ぐことが決まっている。そんなわけで俺の名前も綾蔵真名彦である。
だが俺はその綾蔵家を早々に捨てた。
綾蔵家の当主は本来世襲制だ。
初代綾蔵真名彦の血を引いた人間が子供の頃から殺し屋としての研鑽と技術を積み、そして二十歳の誕生日を迎えるのと同時に家を継ぐのが決まりだ。そんな伝統を綾蔵家は七代目まで続けていた。
だが、その綾蔵家の歴史はある日壊れる。
当時、当主だった七代目真名彦、そして八代目を継ぐ筈だった幸峰を俺が殺したことで。
俺自身は綾蔵家本家の人間ではなく、分家絹河家の人間だった。殺しではなく本家綾蔵家に遣え、医家を営む家である。俺はその絹河家の次男坊として産まれた。
当主を殺したのは、純粋に当時の俺の野心からだった。殺しの腕に加えて、俺には異能があったからだ。
ヒーロー社会全盛期を迎えつつあった当時の日本では、異能者のヒーロー側の需要は勿論、ヴィラン側の需要だって相当な物だった。綾蔵家は伝統的に、殺し屋としての仕事のほとんどを政治家や資産家などから受けていたが、それでは勿体ないと、異能を持ってこの殺し屋の家系に生まれた俺は、若さ故に突っ走った。
俺ならば、因習で雁字搦めになった綾蔵家をより大きくし、より莫大な利益を得られる一大組織を作れると豪語し、七代目当主やその後継ぎに不満のある本家分家の人間を取り込み、俺は親父と実の兄、そして本家の当主相手に下克上を試みたのだ。
結果はご覧の通り。
薄汚い地下のアジトで、日銭を稼ぐ日々だ。
ただ、一応は目論見通り俺はこの東京という都市の中、誰からであろうと殺しの依頼を受けて仕事をする、オールラウンダーの殺し屋としての人生を送っている。
当時の自分が喜ぶとも思えないが。
そんな俺はヒーローからでもヴィランからでも、依頼を受けさえすればなんだってこなす、世間様からすれば金さえ積まれればなんでもする、どっちつかずの蝙蝠野郎として、一部からは蛇蝎の如く嫌われているのだった。
そして俺が今から足を運ぶ場所の主人も、パンカーバイスのように突っかかってこそ来ないものの、俺を嫌っている人間のひとりだ。
「歓迎は、してくれねえよなあ」
俺は目的の建物の扉を守るように仁王立ちする大男を目の前に、頭を掻き毟った。マスターから受けた痛みはもうひいているのだが。
亜細亜系マフィアの一角、陳ファミリー。新宿の裏社会の支配権を我がものにしていたテキーラ・ウルフが死んで得をするのは、普通に考えればその敵対組織だ。
陳ファミリーは大陸から流入してきた大勢のヴィランを抱える組織で、銀狼組とも大きな戦争を何度か、平和な時だってそこかしこで御競り合いもするゴリゴリのライバル組織だ。
「貴様のような小物がボスに簡単に会えるわけがなかろう。仕事の依頼もない身のくせに」
陳ファミリーが根城とするこの場所の門番を進めるこの大男は、ランツェルトと呼ばれるファミリーお抱えの用心棒だ。
「いやあ、でも俺の今後のために? 一度お目見えしたくてな? 一瞬でいいんだ、一瞬。ダメ?」
「ならん!」
大男はその手に握る大槍を振り回す。
あー、殺し屋とは言えこういう手合相手の暴力沙汰は専門じゃねえんだよなあ。
それが俺が継いだ家の名だった。
元々は戦後の日本に生まれた博徒の集まりだったそうだ。だが、腕っ節の強い者が多いという綾蔵家には殺しの仕事が少なからず舞い込んで来た。
その仕事を喜んで請け負ったのが綾蔵家の初代と伝わる綾蔵真名彦だ。代々綾蔵家の当主は真名彦の名を継ぐことが決まっている。そんなわけで俺の名前も綾蔵真名彦である。
だが俺はその綾蔵家を早々に捨てた。
綾蔵家の当主は本来世襲制だ。
初代綾蔵真名彦の血を引いた人間が子供の頃から殺し屋としての研鑽と技術を積み、そして二十歳の誕生日を迎えるのと同時に家を継ぐのが決まりだ。そんな伝統を綾蔵家は七代目まで続けていた。
だが、その綾蔵家の歴史はある日壊れる。
当時、当主だった七代目真名彦、そして八代目を継ぐ筈だった幸峰を俺が殺したことで。
俺自身は綾蔵家本家の人間ではなく、分家絹河家の人間だった。殺しではなく本家綾蔵家に遣え、医家を営む家である。俺はその絹河家の次男坊として産まれた。
当主を殺したのは、純粋に当時の俺の野心からだった。殺しの腕に加えて、俺には異能があったからだ。
ヒーロー社会全盛期を迎えつつあった当時の日本では、異能者のヒーロー側の需要は勿論、ヴィラン側の需要だって相当な物だった。綾蔵家は伝統的に、殺し屋としての仕事のほとんどを政治家や資産家などから受けていたが、それでは勿体ないと、異能を持ってこの殺し屋の家系に生まれた俺は、若さ故に突っ走った。
俺ならば、因習で雁字搦めになった綾蔵家をより大きくし、より莫大な利益を得られる一大組織を作れると豪語し、七代目当主やその後継ぎに不満のある本家分家の人間を取り込み、俺は親父と実の兄、そして本家の当主相手に下克上を試みたのだ。
結果はご覧の通り。
薄汚い地下のアジトで、日銭を稼ぐ日々だ。
ただ、一応は目論見通り俺はこの東京という都市の中、誰からであろうと殺しの依頼を受けて仕事をする、オールラウンダーの殺し屋としての人生を送っている。
当時の自分が喜ぶとも思えないが。
そんな俺はヒーローからでもヴィランからでも、依頼を受けさえすればなんだってこなす、世間様からすれば金さえ積まれればなんでもする、どっちつかずの蝙蝠野郎として、一部からは蛇蝎の如く嫌われているのだった。
そして俺が今から足を運ぶ場所の主人も、パンカーバイスのように突っかかってこそ来ないものの、俺を嫌っている人間のひとりだ。
「歓迎は、してくれねえよなあ」
俺は目的の建物の扉を守るように仁王立ちする大男を目の前に、頭を掻き毟った。マスターから受けた痛みはもうひいているのだが。
亜細亜系マフィアの一角、陳ファミリー。新宿の裏社会の支配権を我がものにしていたテキーラ・ウルフが死んで得をするのは、普通に考えればその敵対組織だ。
陳ファミリーは大陸から流入してきた大勢のヴィランを抱える組織で、銀狼組とも大きな戦争を何度か、平和な時だってそこかしこで御競り合いもするゴリゴリのライバル組織だ。
「貴様のような小物がボスに簡単に会えるわけがなかろう。仕事の依頼もない身のくせに」
陳ファミリーが根城とするこの場所の門番を進めるこの大男は、ランツェルトと呼ばれるファミリーお抱えの用心棒だ。
「いやあ、でも俺の今後のために? 一度お目見えしたくてな? 一瞬でいいんだ、一瞬。ダメ?」
「ならん!」
大男はその手に握る大槍を振り回す。
あー、殺し屋とは言えこういう手合相手の暴力沙汰は専門じゃねえんだよなあ。
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