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第1話 入国
「やあやあ今日はようこそおいでくださいましたわ!」
生の楽器演奏でうるさい店内の、その音楽にも負けず劣らずうるさい声とともに、パピル氏はようやく姿を現した。
「全く、僕も暇じゃないんです。お世話になった神高原先生からのお誘いだと言うので妻にも頼み込んでわざわざこんな遠くの南国まで出向いたんですから」
私が今いるのはネブッアー島。
日本から遥か南洋。マーシャル諸島沖から更に南東に進んだところに存在する辺境だ。不勉強ながら、こんなところに島国があるということを私は招待状をもらうまで知らなかったけれど、少し調べてみるとそれなりに人気の観光地であるらしく、観光客の口コミや旅の様子を綴るブログなんかも、インターネット上で見ることができた。
この国は、ハワイ諸島を発見した彼のキャプテン・クックも「この世の楽園」と称したとも言われている程に一年を通して住みやすい天候に恵まれているンケッキモ=ティハゥソと呼ばれる海域に存在しているのだという。
私がこのネブッアー島を訪れたのは、大学時代の恩師である神高原先生が原地の女性と御結婚されるという話を聞き、結婚式の招待状を貰ったからだ。
入国してから式場までの案内は通訳のパピル氏がしてくれるというので、まさに南国情緒、観光客ウケばっちしって感じのレストランでパピル氏の到着を待っていたのだったが、これが約束の時間を一時間こえてもやって来ない。
あまりにもイライラして、SNSに店の悪口をあることないこと書きこもうかなんて完全な八つ当たりをしようとしていたところだったが、店の料理がかなりの絶品だった為に踏み止まった。
「どうでっしゃろ? ネブッアーのお食事は?」
遅れたことなど悪気のないといった感じで、パピル氏は私のテーブル前にある皿に目を止めて尋ねた。
パピル氏の服装は、式に合わせてということもあってなのか、少し小綺麗なスーツ風の衣装だ。この国の礼服なのかもしれない。
「悪くない。悪くなかったよ。特にこのデザートのマンゴーシャーベットが美味しかった。甘味だけじゃない。なんというか、食べただけで口蓋が刺激されて、空気までもが嗜好品になるような。そんな逸品だった」
実際、食事を喉に通してからは、たかだか数時間を異国で待たされたからといって何なんだ、という気分にまでなったくらいだ。いつもの私なら、パピル氏が現れた瞬間に怒鳴りつけるくらいはするだろうが、そんな気も起きなかった。
「そうでっしゃろそうでっしゃろ! ネブッアーのゴンリクは世界一やからな!」
「ゴンリク?」
「あんさんが今食べたフルーツですわ。島の言葉で、極楽いう意味です」
「なるほどな」
「ささっ! お待たせしまして申し訳ありまへんでした。途中まで車でお送りしますさかい。お店を出まひょ」
「待て。途中までと言ったか? まさか、最後まで車でいけないとかいうんじゃないだろうな」
私が問いかけると、パピル氏は苦笑いで頭を掻いた。
「いやー。式場は島の奥ですさかい。どうしても歩かんといけんくて。池濱様には申し訳ありまへんが」
いつもの私なら、その妙な日本語と、遅刻にしても案内の仔細にしても事前に連絡を入れないふざけた態度に、脳天をカチ割る勢いで怒るだろうが、ゴンリクを食べた私は機嫌が良い。
「わかった。案内してくれ」
私はパピル氏の手招くまま、彼の車に乗り込んだ。
生の楽器演奏でうるさい店内の、その音楽にも負けず劣らずうるさい声とともに、パピル氏はようやく姿を現した。
「全く、僕も暇じゃないんです。お世話になった神高原先生からのお誘いだと言うので妻にも頼み込んでわざわざこんな遠くの南国まで出向いたんですから」
私が今いるのはネブッアー島。
日本から遥か南洋。マーシャル諸島沖から更に南東に進んだところに存在する辺境だ。不勉強ながら、こんなところに島国があるということを私は招待状をもらうまで知らなかったけれど、少し調べてみるとそれなりに人気の観光地であるらしく、観光客の口コミや旅の様子を綴るブログなんかも、インターネット上で見ることができた。
この国は、ハワイ諸島を発見した彼のキャプテン・クックも「この世の楽園」と称したとも言われている程に一年を通して住みやすい天候に恵まれているンケッキモ=ティハゥソと呼ばれる海域に存在しているのだという。
私がこのネブッアー島を訪れたのは、大学時代の恩師である神高原先生が原地の女性と御結婚されるという話を聞き、結婚式の招待状を貰ったからだ。
入国してから式場までの案内は通訳のパピル氏がしてくれるというので、まさに南国情緒、観光客ウケばっちしって感じのレストランでパピル氏の到着を待っていたのだったが、これが約束の時間を一時間こえてもやって来ない。
あまりにもイライラして、SNSに店の悪口をあることないこと書きこもうかなんて完全な八つ当たりをしようとしていたところだったが、店の料理がかなりの絶品だった為に踏み止まった。
「どうでっしゃろ? ネブッアーのお食事は?」
遅れたことなど悪気のないといった感じで、パピル氏は私のテーブル前にある皿に目を止めて尋ねた。
パピル氏の服装は、式に合わせてということもあってなのか、少し小綺麗なスーツ風の衣装だ。この国の礼服なのかもしれない。
「悪くない。悪くなかったよ。特にこのデザートのマンゴーシャーベットが美味しかった。甘味だけじゃない。なんというか、食べただけで口蓋が刺激されて、空気までもが嗜好品になるような。そんな逸品だった」
実際、食事を喉に通してからは、たかだか数時間を異国で待たされたからといって何なんだ、という気分にまでなったくらいだ。いつもの私なら、パピル氏が現れた瞬間に怒鳴りつけるくらいはするだろうが、そんな気も起きなかった。
「そうでっしゃろそうでっしゃろ! ネブッアーのゴンリクは世界一やからな!」
「ゴンリク?」
「あんさんが今食べたフルーツですわ。島の言葉で、極楽いう意味です」
「なるほどな」
「ささっ! お待たせしまして申し訳ありまへんでした。途中まで車でお送りしますさかい。お店を出まひょ」
「待て。途中までと言ったか? まさか、最後まで車でいけないとかいうんじゃないだろうな」
私が問いかけると、パピル氏は苦笑いで頭を掻いた。
「いやー。式場は島の奥ですさかい。どうしても歩かんといけんくて。池濱様には申し訳ありまへんが」
いつもの私なら、その妙な日本語と、遅刻にしても案内の仔細にしても事前に連絡を入れないふざけた態度に、脳天をカチ割る勢いで怒るだろうが、ゴンリクを食べた私は機嫌が良い。
「わかった。案内してくれ」
私はパピル氏の手招くまま、彼の車に乗り込んだ。
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