魔王様の婚活事情

マニアックパンダ

文字の大きさ
上 下
28 / 31

千客万来

しおりを挟む
 円卓を数人の煌びやかに着飾った人間が取り囲み、顔を寄せあっている。

「お宅もダメだったか?」
「ってことはお前のところもか」
「勇者をもっと鍛えんといかんな」
「いや、どこまで鍛えればいいのか分からんし、そもそも鍛えたところで勝てるのか?」

 そう、彼らは魔王の元に勇者を送り込む現況である人族の各国王だった。
 それぞれの国同士で小競り合いを行い、領土を奪いあっていた事もあったのだが、限りあるパイを取り合うよりも連携して魔族の土地を奪った方が実りある結果を得れると協力することにしていた。

「何かいい手はないものか……」
「このままでは人が溢れかえってしまう」
「食糧生産も土地がなければおいつかん」

 魔物がいることで自然死以外にも多くは死ぬものの、国同士の戦争がなくなったおかげなのか、各国共に人が多く産まれる事によって食糧難や住居不足に陥り始めていた。大きな集合住宅を作る技術は人族の国にはまだ無い。もっとも魔族の国にはあるし、素直に教えを乞えば伝えてくれるのだか、プライドなのかバカなのか未だ何もしていなかった。
 
 あーでもないこーでもないと議論?……話し合いをしていると、ふっとある太っちょの王が呟いた。

「そういえば……ある噂を聞いたな。魔王アンゴルモアが婿を探しているとか」
「「「「「「それだ!!」」」」」」

 そこからは議論が大いに盛り上がった。各国で送るタイプの男を決めたり、服装をどうするかなど激論だ。

「どこの国の男が堕とすかだな」
「うむ、それによって領土配分を決めようではないか」
「それで揉めても仕方がないぞ?ここは当分にしようではないか」

 取らぬ狸の皮算用とはこの事である。もう勇者が魔王の伴侶となり、領土を支配できるつもりになっていた。そもそも魔王を攻略した所で領土を支配できるかどうかは別の話なのだが、魔王の力が強すぎるためなのか、頭が弱いだけなのか欲なのか……そんな事は考えていなかった。


…………………………………………

………………………………

……………………

…………


 「ご機嫌がよろしいようですね」
「そりゃそうよ!」

 メイド長の呟き通り、魔王は満面の笑みだった。
 それもそのはず、ここ最近の毎日は勇者一行の来城が続いているのだ。しかも何故か全組が男だけのフルパーティー。更に不思議なのは誰もがまるで戦うような装備ではなく、煌びやかな衣装を来ていた。更に更に、不思議なことに全組が魔王の前に出ると口を揃えて「一目惚れしました、結婚してください」などと告白するのである。
 誰がどう見てもおかしなことなのだが、舞い上がっている魔王は全く気づいていなかった、それどころかモテ期来訪などとニヤついている。

「で、どうなされるんです?あれらは」
「うーん、もうちょっと待ってみるわ、増えるかもしれないし」

 あまりにも告白する者が多いので、現在各勇者一行は恋人候補として保留状態にしてあるのだ。現時点での総勢40名。ただ攻め込んできていることに変わりはないので例によって地下牢での待機である。いくら魔王の頭がお花畑状態になろうとも、そこは施政者である。


 そんなこんなで10日後。
 勇者の来訪が途切れて3日目、地下牢に詰め込まれた一行の人数は320名にまで膨れ上がっていた。こうなると既に勇者とはなんなのか?勇者の大安売りであった。11際から68歳まで年齢層も幅広く、顔も可愛いのやら厳ついのやらイケメンやらブサイクやらのよりどりみどり。
 人族の国の必死さがよく分かると言うものである。
 さすがに魔王城に勤務するもの達は理由に気付いていた、一般兵士まで。そう、アホの子らーすまでもが。最初こそは各所にて待機していたが、途中からは見向きもしていなかった。気づかぬのは魔王ばかりなり……気づかぬどころかますます舞い上がっていた。
…………哀れ。

 そんなこんなで勇者一行320名が纏めて訓練場に集められている。あまりにも多いためにこれから選別するのである。まずは年齢毎に分けると200名まで減った。それでも多いが、さすがの人族の各国も考えていたという事であろう。仕分けのために集められた勇者達は勿論のこと、兵士までもが「年齢選別するなら牢屋でやっておけよ」と思っていた、全ては魔王が周りに自分のモテモテっぷりを見せつけたいためだけに行われたのだ。

 ここから更に好みの顔であるかそうではないかで選別。これで180名になった。可能性を減らすのには抵抗があったらしい、生理的に……っていうの以外が残ることとなったのだ。どれだけ舞い上がっていても、心底にある焦りはそう簡単には消せやしなかった。

 満面の笑みを浮かべたままの魔王。勇者一同の前で腰に手を当て仁王立ちとなり言い放った。

「ではこれからみなさんでバトルロイヤルして貰います!最後まで残った人「魔王様、素手ての戦いでよろしいですか?」が……」

  途中でメイド長の言葉が挟まれたために最後まで聞けなかったが予想はついた、最後の一人がけ隣の勇者を睨み小突き毒を吐く。
「急増勇者がなめんなよ」
「うるせー俺はAランクだぞ」
「お子ちゃまは帰りな」
「勝って俺は貴族になるんだ、そしてあの子にプロポーズするんだ」などなど。大いに一同は盛り上がっていた。

「魔王様、みなさん必死ですね」
「ふふふ、そうみたいね」
「モテる女は辛いですね、みなさん目がギラついてますよ」
「溢れる魅力がいけないのね」
「罪作りですね魔王様は」

 メイド長の言葉に魔王は有頂天だった。メイド長の唇がこの上なく三日月を描いている事に気づいた執事長は少しづつ後ずさりしていた。

「最後まで残った方は魔王様と1VS1で闘う権利を得ることが出来ます」
「「「「「「「「えっ」」」」」」」」

 メイド長の言葉に勇者一同の動きが止まった。

「どうしたの?みんな。勝てばこの私を好きに出来るのよ?」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「皆様感動に打ち震えて言葉も出ないようですね」
「ふふふふ」

 にこやかなメイド長と嬉しそうな魔王。

「「「「「「「…………」」」」」」」

 魔王達が笑えば笑うほど、勇者一同は顔を青ざめさせ足を震わせていく。
 それもそのはず、感情の昂りによって魔王の内の圧倒的な魔力が溢れ出し一同に波及していっていたのだ。

「ひぃっ無理だ」
「バケモンじゃねえか」
「話が違う」
「焦る年増女を騙くらかせばいいんじゃなかったのか」
「こんなんだったら来なかった」

 本音が漏れ始めていたが、あまりにも小声であまりにも途切れ途切れで、魔王には聞こえていなかった。

「あれ?なんでみんな座り込んじゃったの?」
「魔王さまの魅力に打ち震えてるんですわ、きっと」
「んもうー照れるわ。なんか言ってるみたいだけど何かしら?」
「きっと愛の言葉ですわ、そばでお聞きになったらいかがです?私は野暮になりますから離れてますので」
「そう?じゃあ聞いちゃおっかな」

 その場から後ろ歩きでササッとその場を離れて行くメイド長。それを見て何かを察し逃げ始める兵士達。

 魔王はそんな事には気付くことも無くスキップで一同に歩み寄る。

「ひぃっバケモノが来た」
「お、お前自信あるんだろ何とかしろよ」
「お、俺は口説けば貴族にしてくれるだって言うから来ただけだ、お前行けよ」
「俺はあんなババア好きじゃねえんだよ」
「口説いたら王女様が結婚してくれるって言うから来ただけだ」
「故郷でフィアンセが待ってるんだ!」

「…………どういうこと?」

「ひぃっ許してください許してください殺さないで殺さないで」
「王様が行き遅れの魔王を口説けば報酬くれるって」
「こんなバケモンだって知ってたら来ませんでした」

 「…………」

 その後訓練場からはこの世とは思えない絶叫が世界の端にいる将軍まで届いた。



後日人族の国の城のいくつかが突然何者かによって更地にさらされたらしい。
しおりを挟む

処理中です...