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新狩場②
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「ここはどこかしら?」
「今調べますので少々お待ちください」
言語学習を決意してから約3ヵ月が経ち、約束通り魔王と所長、メイド長は異世界に来ていた。
皆死に物狂いで覚えたのだが、さすがに1ヵ月では無理だった。1番初めに覚え終わったのはメイド長で2ヵ月で、その後の1ヵ月は市井に出かけ元勇者に聞き取りをするなど意欲的に活動していた。
当初は執事長もラースも来たがっていた、未知なる世界への興味だ。だが、全員が城を同時に抜けるのは問題である。では、メイド長でなくてもいいのではないか?となったのだが、魔王の「男と一緒に居たら出会いがない」という想いに因った結果である。
また服装も地球風の服装を身に着けていた。所長とメイド長はジーンズにTシャツ、魔王は背中と胸が大きく開いた黒のロングドレスを着ていた、全員の反対意見は聞こえていなかった。男にアピール出来る恰好しか考えていなかったのだ。
「ここは日本というところのようですね」
「何か聞いた事あるわね」
「魔王様、元勇者に多い出身地ではないでしょうか?」
所長が何やら怪しげな機械を弄って答えると魔王は首を傾げ、メイド長が助言した。
「えっ?あの黒髪で平べったい顔のやつらの事?」
「そうかと・・・・・・所長、その黒い物は何でしょうか?」
「これですか?こちらで手に入れたジーピーエスなるもので、これを持っているだけで現在地が地図に表示されるのです」
「それは素晴らしいですね、我が国でも使用できるので?」
「ねえ、人は?人はどこ?」
「いえ、どうも出来ないようです」
「どこでしょう?」
「2つありますので、お一つをメイド長様お持ちください。使い方は・・・・・・こうで・・・・・・こうすると・・・・・こう」
「人にあ・い・た・い」
新たなる文化に興味が尽きない、たった一人を除いては。
魔王は男にしか興味を持っていないのだ、ぶれない。
所長の案内に従い歩き始めた3人。言語学習と共に地球の景色を勉強してきていた、一々見る物すべてに驚いていたら不審に思われる為だ。それを踏まえて景色や音について所長から説明を受けつつ歩みを進める。
ちらほらと人が見え始めると魔王は1人テンションが上がっていく。そして大通りでたくさんの人とすれ違う際には興奮しながらも、なぜか胸を張り腰をくねらせて歩いていた。
地球人の視線は皆憐れみを含んでいたのだが、それに気づく魔王ではない。
「ねえ、気になる事があるんだけど」
しばらく歩いた所で魔王が立ち止まり不思議そうに首を傾げた。
「どうして誰も声を掛けてこないのかしら?」
確かに誰一人として声を掛けてきたものはいなかった、魔王の予定では囲まれているはずだった。イケメンに。
「魔王様、そのドレスは少々浮いて見えますので・・・・・・調べたところに寄りますとこの国ではそのような服装は夜の商売を生業とする女性がよく着用するようです」
そんな事はないのだが、所長の調べではそうなっていた。あくまでも研究者なので、衣食住といった風俗よりも見知らぬ機械などに興味を引かれていた為だ。
「・・・・・・早く言いなさいよ」
「申し上げましたよ、何度も」
「・・・・・・・着替えたいわね」
「っと申されると思いまして、こちらに用意してあります、着替えは・・・・・・」
魔王を連れて公園へと入ると、道行く人に見えない場所で着替えをさせる。
「ねえ、この服2人と違うけど?」
「この国の者にとても好まれるそうですわ、元勇者達が申しておりました」
「そうなの!?じゃあ、えっと、この白い布で出来たティアラみたいなのも着ける必要あるのよね」
「もちろんでございます」
満面の笑みを浮かべるメイド長の前に現れた魔王の姿は・・・・・・・ナース服だった。しかもコスプレ用のような、膝上数十センチのミニである。
所長は目が点になっていた、あまりにもな恰好に。ただ詳しくはないので何も言わない、ラースとは違う。
「じゃあ、行きましょ」
「はい、ただ私達2人がいると人も声を掛けにくいでしょうから少々離れて歩きますわ」
勢いよく大通りを歩き出す魔王とその後ろ数十メートルをにやけた顔で着いて行くメイド長と我関せずとキョロキョロし続ける所長。
「ハロー!日本語わかるかな?」
「わかるわよ」
すぐにナース服の効果が表れたようだ、魔王に金髪で耳にいくつもの飾りをつけた男が声を掛けた。
「上手だね~で、どこのお店なの?今休憩?それとも撮影?」
「え?お店?休憩?撮影?どういう意味??」
「はぐらかさなくていいって~名前教えてよ~」
「アンよ」
「名前も可愛いね~それって源氏名なのかな?本名と電話番号教えてよ~」
「言ってる意味がわからないけど、本名よ」
「へ~まぁいいや、じゃあ行こうよ」
「どこに?」
「えっ?決まってるでしょ~気持ちいい事しちゃおうよ、得意なプレイ教えてよ、ベッドでさ」
それは軽薄なナンパだった、しかも下世話な。
ベッドという単語が出て初めて気が付いた魔王。いつもならここで吹っ飛ばしているところだがここは異世界、来る前に何度も魔人と違って簡単に死ぬと言われていたので堪えていた。
「イヤ」と一言呟いて速足でその場を去る。
だが、他の軽薄な男が次々と近寄って来ていた、それぞれに同じような台詞を吐きながら・・・・・・
「ねえ、メイド長?これが人気なのよね?」
「はい、元勇者が言っておりました、嬉しそうに」
メイド長に駆け寄ると確認をする魔王、その顔は真っ赤だった。何度も言われて気付いてしまったのだった。
「あいつらに話があるから帰るわよ」
聞いた事のないような重低音で呟く魔王。
満面の笑みで頷くメイド長。
事態について行けず挙動不審な所長。
その日、日本では街中で突然美女が3人消えるという怪奇現象が目撃された。
その日、魔王国では元勇者が6人空を何度も舞うという恐怖現象が目撃された。
「今調べますので少々お待ちください」
言語学習を決意してから約3ヵ月が経ち、約束通り魔王と所長、メイド長は異世界に来ていた。
皆死に物狂いで覚えたのだが、さすがに1ヵ月では無理だった。1番初めに覚え終わったのはメイド長で2ヵ月で、その後の1ヵ月は市井に出かけ元勇者に聞き取りをするなど意欲的に活動していた。
当初は執事長もラースも来たがっていた、未知なる世界への興味だ。だが、全員が城を同時に抜けるのは問題である。では、メイド長でなくてもいいのではないか?となったのだが、魔王の「男と一緒に居たら出会いがない」という想いに因った結果である。
また服装も地球風の服装を身に着けていた。所長とメイド長はジーンズにTシャツ、魔王は背中と胸が大きく開いた黒のロングドレスを着ていた、全員の反対意見は聞こえていなかった。男にアピール出来る恰好しか考えていなかったのだ。
「ここは日本というところのようですね」
「何か聞いた事あるわね」
「魔王様、元勇者に多い出身地ではないでしょうか?」
所長が何やら怪しげな機械を弄って答えると魔王は首を傾げ、メイド長が助言した。
「えっ?あの黒髪で平べったい顔のやつらの事?」
「そうかと・・・・・・所長、その黒い物は何でしょうか?」
「これですか?こちらで手に入れたジーピーエスなるもので、これを持っているだけで現在地が地図に表示されるのです」
「それは素晴らしいですね、我が国でも使用できるので?」
「ねえ、人は?人はどこ?」
「いえ、どうも出来ないようです」
「どこでしょう?」
「2つありますので、お一つをメイド長様お持ちください。使い方は・・・・・・こうで・・・・・・こうすると・・・・・こう」
「人にあ・い・た・い」
新たなる文化に興味が尽きない、たった一人を除いては。
魔王は男にしか興味を持っていないのだ、ぶれない。
所長の案内に従い歩き始めた3人。言語学習と共に地球の景色を勉強してきていた、一々見る物すべてに驚いていたら不審に思われる為だ。それを踏まえて景色や音について所長から説明を受けつつ歩みを進める。
ちらほらと人が見え始めると魔王は1人テンションが上がっていく。そして大通りでたくさんの人とすれ違う際には興奮しながらも、なぜか胸を張り腰をくねらせて歩いていた。
地球人の視線は皆憐れみを含んでいたのだが、それに気づく魔王ではない。
「ねえ、気になる事があるんだけど」
しばらく歩いた所で魔王が立ち止まり不思議そうに首を傾げた。
「どうして誰も声を掛けてこないのかしら?」
確かに誰一人として声を掛けてきたものはいなかった、魔王の予定では囲まれているはずだった。イケメンに。
「魔王様、そのドレスは少々浮いて見えますので・・・・・・調べたところに寄りますとこの国ではそのような服装は夜の商売を生業とする女性がよく着用するようです」
そんな事はないのだが、所長の調べではそうなっていた。あくまでも研究者なので、衣食住といった風俗よりも見知らぬ機械などに興味を引かれていた為だ。
「・・・・・・早く言いなさいよ」
「申し上げましたよ、何度も」
「・・・・・・・着替えたいわね」
「っと申されると思いまして、こちらに用意してあります、着替えは・・・・・・」
魔王を連れて公園へと入ると、道行く人に見えない場所で着替えをさせる。
「ねえ、この服2人と違うけど?」
「この国の者にとても好まれるそうですわ、元勇者達が申しておりました」
「そうなの!?じゃあ、えっと、この白い布で出来たティアラみたいなのも着ける必要あるのよね」
「もちろんでございます」
満面の笑みを浮かべるメイド長の前に現れた魔王の姿は・・・・・・・ナース服だった。しかもコスプレ用のような、膝上数十センチのミニである。
所長は目が点になっていた、あまりにもな恰好に。ただ詳しくはないので何も言わない、ラースとは違う。
「じゃあ、行きましょ」
「はい、ただ私達2人がいると人も声を掛けにくいでしょうから少々離れて歩きますわ」
勢いよく大通りを歩き出す魔王とその後ろ数十メートルをにやけた顔で着いて行くメイド長と我関せずとキョロキョロし続ける所長。
「ハロー!日本語わかるかな?」
「わかるわよ」
すぐにナース服の効果が表れたようだ、魔王に金髪で耳にいくつもの飾りをつけた男が声を掛けた。
「上手だね~で、どこのお店なの?今休憩?それとも撮影?」
「え?お店?休憩?撮影?どういう意味??」
「はぐらかさなくていいって~名前教えてよ~」
「アンよ」
「名前も可愛いね~それって源氏名なのかな?本名と電話番号教えてよ~」
「言ってる意味がわからないけど、本名よ」
「へ~まぁいいや、じゃあ行こうよ」
「どこに?」
「えっ?決まってるでしょ~気持ちいい事しちゃおうよ、得意なプレイ教えてよ、ベッドでさ」
それは軽薄なナンパだった、しかも下世話な。
ベッドという単語が出て初めて気が付いた魔王。いつもならここで吹っ飛ばしているところだがここは異世界、来る前に何度も魔人と違って簡単に死ぬと言われていたので堪えていた。
「イヤ」と一言呟いて速足でその場を去る。
だが、他の軽薄な男が次々と近寄って来ていた、それぞれに同じような台詞を吐きながら・・・・・・
「ねえ、メイド長?これが人気なのよね?」
「はい、元勇者が言っておりました、嬉しそうに」
メイド長に駆け寄ると確認をする魔王、その顔は真っ赤だった。何度も言われて気付いてしまったのだった。
「あいつらに話があるから帰るわよ」
聞いた事のないような重低音で呟く魔王。
満面の笑みで頷くメイド長。
事態について行けず挙動不審な所長。
その日、日本では街中で突然美女が3人消えるという怪奇現象が目撃された。
その日、魔王国では元勇者が6人空を何度も舞うという恐怖現象が目撃された。
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