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アインシュタインとフランケンシュタイン

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    乱れたシーツの上に艶めかしく光る正方形のパッケージと、それが破られ中身を取り出した後の残骸、いくつもの丸まったティッシュが無造作に散らばっている。

「ダルい……けど……」

 ついに、ついに俺は大人への階段を駆け上がってしまったようだ。

 チラリとベッド横の床を見ると、俺の脱ぎ散らかした服と女性物の下着が力なく絡まって落ちているのが見えた。
 もう相手の姿は部屋にないけれど……
 やはり、やはり間違いない。

 高校2年生冬、クリスマスよりちょっと早いけれど、毎日頑張る俺に神様はクリスマスプレゼントをくれたようだ。

 素晴らしき夜となった、昨日に到るまでの事を思い出してみよう。


 20日間にも及ぶ地獄の修行を終えて、日常へと生活は戻った。
 若狭は相変わらず謹慎中と、学校は何も変わっていなかった。
 そういえば放火犯のあいつは、裁判が終わって、少年院だか鑑別所行きとなったと先生が興味無さそうに、吐き捨てるようにホームルームで話していた。

 アホの子2人だが……
 俺がいない間に少し変化が起きたようだ。
 具体的には師匠とか訓練の話をする時、これまでは無駄に目を輝かせていたが、若干曇りが映るようになってきていた。
 もしかしたらそろそろ恋から覚める日が近いのかもしれない。

 そして俺は2人に伝えなければならない事があった。
 そう、知力が2Bになった事である!!

「なぁ2人とも日間賀島でカリカリやってたけど上がったの?」
「さすがダンジョンだな、一つ上がってBになった」
「俺も3Dに下がってたけど、2Cにまで上がったよ」

 アマめ……俺があれだけ酷い目にあってやっと2Bだというのに、たった1つしか変わらないとは。
 まぁアマはまだいい、鍛えられたといってもまだまだヒョロメガネだし?メガネのやつが勉強出来るのは、当然の摂理だしね、うん。それよりもキムのドヤ顔が腹立たしい、きっと俺より上だと思っている顔だ。

「えぇ~すごーぃ!」
「天野くんと木村くんすごくないっ!?」

 来たな来たな、こちらの会話に聞き耳をたてていた元地味女子2人組みめ!

「2Cとか、Bって博士レベルだよねっ!?」
「イケメンの上に天才とか、ずるぅ~い」

 おうっ、元々ビッチっぽいギャル2人組みまでもが参戦してきた。
 この2組はあまり仲良くなかった様な気がするんだけど、いつの間に仲良くなったのか……
 俺がいない間に何があったの?
 共闘する事にしたのだろうか……

 まったく、イケメンだったら何でもいいのだろうね、それにだいたい2Cは天才でも博士でもないからね。

 教壇の前に陣取る数人がこちらを2度見した後、ちょっとしてからキムを睨んでいる。
 俺にはテレパシーも読心術もないけれど、今の一連の動きはわかる。
 
「はっ?2Cで天才?えっ?俺のステータスは……うん、ふざけんな」

 こんな感じだろう。
 今キムは勉強は出来るけど、モテない男たちを一気に敵に回したな……
 キムに一切の非はないけれど、確実に敵に回した。
 全てはイケメンである、お前の顔がいけないんだよ!
 キーッ!羨ましいっ!!

 相変わらず俺は見えていないようだけれど、だが本日ばかりはきっと見えるようになるだろう。
 俺を押し出すようにして、アマとキムの周りを囲む4人だけれど、きっと俺の周りを囲むようになるだろう。
 くくくくくっふはははははは……あっ、なんか今のクソ忍者とハゲヤクザっぽいな……感化されてしまったようだ、危ない危ない。

「キムは2Cか……まぁ俺は2Bだけどな」
「それはない」
「嘘おつ、悔しいなら悔しいと素直に言え」

 こいつら……
 即答しやがった。
 そして女子たちは……うん、見向きもしないと。

「それが本当なんだな、まぁステータス開示は師匠に禁じられているからここでは証明出来ないけどね」
「マジか……」
「2Bだと?」
「悔しいなら悔しいと素直に言っていいんだぞ?んっ?」

 ほら、認めるんだ。
 素直になってしまえ!

「あれだけ修行してそれだけ?」
「元が悪いんだな……可哀想に」

 えっ?そっち??
 ここは「スゲー」とか「負けた……悔しい」って残念がる場面じゃないの?
 元が悪いって言うな!!
 特にキム、お前は元々俺と同じステータスだったからな!?

「横川くん2Bなの?」

 そうだった、ギャラリーはアマとキムだけじゃなかった。
 そう君たちは素直に褒めてくれるはず、いや褒めたまえ!

「ステータスってあんまりあてにならないんだね~」
「マジ意味わかんな~い」
「元が悪いと上がりやすいとか?」

 なんだと……
 このステータス社会において、ステータス全否定なんて……
 それだとちょっと下がっただけなのに、20日間も地獄のような目に合わせられた俺はどうなるんだよっ!

「横川っ!お前2Bってマジ?」

 凄い形相で、教壇前の席から一気に詰め寄られた……これが女子だったら良かったんだけど、残念ながら男だ。
 こいつの名前は相田秀太《あいだしゅうた》、小学校からずっと学年1位、全国模試でも1桁番台をキープし続けている秀才くんだ。いつも他のことには脇目も振らず勉強をしていて、クラスでもちょっと浮いた存在だ。
 なぜ俺が彼の事をここまで知っているかには理由がある。
 まず孤児院が一緒な事。
 もう1つが、その勉強の出来っぷりと相田秀太という名前から、日本のアインシュタインとのあだ名を周りから小学生の時に付けられたのだが、彼は以来そのあだ名がとても気に入っているらしく、院や学校での集合写真では、必ずかの物理学者アインシュタインの有名な写真のように、舌を出してフレームに収まるという、ちょっと残念な子だからだ。
 ちなみに院では、彼を本名で呼ぶと返事をしない。そのためみんなシュタインさんと呼んでいる。本人はきっとアインシュタインのつもりだろうが、みんなの言っているのはフランケンシュタインの方だ。これは老人ホームに慰問だか何だかに行かされた時に、認知症のおばあちゃんに相田が「相田です、アインシュタインって呼んでね」と自己紹介したところ、「……フランケンシュタイン?」と聞き返した事が由来である。
 学校ではさすがに返事はするが、ちょっと不機嫌になる相田くんだ。

「マジだけど?」
「何でお前が2Bなんだよっ!」
「えっと……相田くんは?」
「……俺のはどうでもいいだろ!何でお前が2Bもあるんだよ」

 どうやら俺より下のようだ。

「ダンジョンで勉強したからかな」
「お前シーカー用jobだよな?」
「うん、進学はしないかな」
「なら何で上げる必要あるんだよっ」

 いや、うん、それについては俺もそう思っていますよ。激しく同意したいところです、アマとキムもさりげなく頷いてるし。

「成り行き?」
「ふざけんなっよっ」

 まぁ彼が怒るのも少しわかる。
 大学によっては、志願するのに最低知力ステータスが設けられている有名大学が存在するからね。
 でも俺に怒られても困る……

「そう言われてもね……」
「マジ、ふざけんなっ」

 怒ったまま去っていってしまった……
 困るよ……ってか俺だって、こんなにまで上げたくなかったわっ!

「ねぇねぇ~横川くん、どうやって上げたの~?ダンジョンで普通に勉強すればいいの?」

 あれ?
 女子はみんなキムに夢中で、こちらには気付きもしていないと思ったが、どうやら俺の溢れ出る知性に食い付いたビッチが1人いたようだ。
 そう、こういう反応を俺は待っていた!

「いや、単純計算とかかな」
「へーすごーぃ!そんなんで上がるんだーいい事聞いちゃったぁ~」

 おうっ!
 相変わらずめちゃくちゃベタベタ触ってくるな……

「ねぇねぇ、今度さ一緒にダンジョン行こっ?そこでい・ろ・い・ろ教えて欲しいなぁ~わたしもぉ~教えて上げれる事あるかもだしぃ~」

 色々って何ですか!?
 ナニを教えてくれるんですか!?

「ぃぃょねっ?」
「おっおう……」
「ゃった!じゃあさ、ID教えて?連絡するから」
「わかった……」

 危うく声が上擦るところだったが、何気なく普通にID交換出来たはずだ。

「あっ、先生来たっ!じゃあっ」

 これはもしや春が来たかもしれない。
 やっぱり付き合いたいのは如月先輩だけど、経験は重要だよねっ!?

 ……ってダンジョン探索一緒にする事を約束したけれど、そんな暇あるのか?

 いや、時間とは作るものだって、どっかの誰かが言っていた。
 何とか作る!
 そしてあんな事やこんな事をしちゃうんだっ!
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