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夕焼け色
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窓から流れ込んでくる生ぬるい風が少し汗ばんだ首筋を軽くなでた。
セミの鳴き声と共にグラウンドから元気のいい声が聞こえるてくる。
遠くを見れば海が光を受けてキラキラ輝いてその上には大きな入道雲が浮かんでいる。
あぁ、もう夏だな……道理でこんなに暑いわけだ……。
腕にペタッと張り付いたシャツを引きはがし、手に持っていた下敷きでパタパタと扇ぐ。
視線を部室の中に戻し、斜め前に座っているこの部唯一の同級生、河野亜里沙をチラリを見る。
黒い髪を背中まで伸ばしていて、繊細な肌は病的なまでに白く、触れるだけで壊れそうだ。
本を読みながら髪をかき上げる姿はまさに美少女。同性の私でさえドキッとしてしまう。
じーっと見ていたからか、こちらに気づいた様に顔を上げた。
「…未来?どうしたの?顔に何かついてる?」
「あっ、うん、なんでもないよ!」
亜里沙は本を閉じて立ち上がると、大きく背を伸ばした。
「んー…!はぁ…。」
その一つ一つの動作さえ目を奪われるほどの美しさ、写真に収めたい衝動を抑えた。
「亜里沙ー、今からどうする?」
「んー…どうしよっか」
壁に掛けられた時計をみると、まだ6時位だった。
「帰るにはまだ早いし、先輩達も戻ってきてないし…。」
そう、この部には私達含めて3人の部員がいる。何故そんなに少ない人数で部活が成立しているのかといえば、この部が『天体観測部』という文化系に属してるからだ。
元々歴史が浅い部らしく、五年程前に創部されたそうだ。
しかし侮ることなかれ、設備は十分過ぎるほど整っていて天体望遠鏡なんか一人一台使えるし、個人ロッカーや冷蔵庫も完備。部屋の広さも申し分なく、校舎の三階の日当たりがいいところにこの部室はある。
何故そんなに好条件なのか、それは初代部長が資産家の息子で、学校に多額の寄付をしていたからだそうだ。
そのおかげでどんなに部員が少なくなっても廃部にならないし、天体観測なんてロマンチックなことも出来るというまさに一石二鳥!
…まあ、その他にも入部した理由は沢山あるけどそこは割愛。
なんだかんだで亜里沙と共に入部した私は高校生として初めての夏に直面していた。
ていうか、先輩達はまだ帰って来ないのか…。
「…って、あれ?なんで先輩達いないんだっけ?」
「未来聞いてなかったんだね…。」
呆れ顔でこちらを見ながら、ホワイトボードを指さした。
「ほらここ。夏休み間の部活の申請の締切、今日だって書いてあるでしょ?」
「あ、ほんとだ…。じゃあ、職員室かな?」
「多分ね、まあ蒼太先輩の事だから女子に捕まってるんじゃない?」
「…!そ、そうだよね…。蒼太先輩、モテるしね…」
そう、この部の部長である谷本蒼太先輩は学校中のアイドル的存在で、常に追っかけの女子がいるほどの人気者なのだ。
イケメンで運動神経抜群、性格、成績、共に優秀の完璧超人。我ら明星学園が誇る最高の生徒。それが蒼太先輩なのだ。
「…あ、ごめん。未来、蒼太先輩の事好きなんだよね」
「うぅ…そうなんだけどー…。」
実は私がこの部に入った理由、それは蒼太先輩がいたからだ。部活動紹介の時、一目惚れしてしまい勢いで入部届けを出したのはいいものの、現実はあまりにも残酷だった。
「でもさー、まさかあの蒼太先輩が美月先輩と付き合ってるなんてね~」
そう、そうなのだ。
入部してから知ったこと、蒼太先輩は一つしたで2年生の羽生美月先輩と付き合っていたのだ。美月先輩も蒼太先輩に負けず劣らず、清楚で上品なお嬢さまって感じの人で噂ではお母さんが女優なんだとか。まさに天の上の人、敵う相手じゃない…。勝ち目なんてないのは解ってる。ちゃんと理解してるはずなのに納得してない自分がいることも知ってる。それがぐるぐる回ってよくわからないのが現状なんだよね…。
「やっぱり私みたいなのが蒼太先輩と釣り合うはずないもんね…」
「そ、そんなことないよっ!未来だって素敵だし、蒼太先輩とだって……!」
慰めの言葉を掛けてくれるのは嬉しいけど、今はその気遣いが肩に重くのしかかった。
「亜里沙、ありがと。……今日は帰るね、先輩達にはよろしく」
「み、未来!……私、なんでも相談乗るから」
「……うん、じゃあ、また明日」
カバンをつかみドアに向かう。亜里沙の視線を感じるが、振り向かない。後ろ手を振ってばいばいする。多分今の顔はなかなか凄いことになっていそうなので床を向いて他の人から顔を隠すように歩いた。何回も通った道、前は見なくても感覚でわかる。
何も考えない様に、無理矢理頭の中に空白を創り出す。真っ白じゃない、何処か儚げな、言葉で言い表せない色。少しずつ別の色が加わり、自在に変化していく。寒色系が多いのは気のせいだろうか。たまに深くなる色合いに、黒に染まってしまうのでは。と心配してみる。
だかそれも杞憂だったようで、また別の色に変わり始める。というか、完成した色がわからない状態では変わり続ける、と言った方がしっくりくる。
揺らぎ、混ざり、変わり、光り、燻り、変動する。
変幻自在といえば聞こえはいいが、言い換えると優柔不断の様で、周りに感化されているだけのようにも思える。
ふと、色の世界に陰りが差した。
現実に引き戻され、色の世界は夕日色に染まった校舎に切り替わる。
顔を上げると、そこには心配そうな顔をした蒼太先輩がいた。
「大丈夫?葛城さん」
覗き込んできた目と目が合った。
……うわぁ、まつ毛長いなぁ。肌も綺麗で色白だし、そりゃあモテる訳だよ。
そんなことを考えているとは露知らず、蒼太先輩は不思議な表情を浮かべた。
「……俺の顔、なんかついてるかな?」
「い、いえ!なにもついてません!……会議、終わったんですか?」
「あー、うん。終わったのは随分前だったんだけど、その後色々と……ね」
はぁーっと大きな溜息をついて疲れたように視線を落とす。モテるって大変なんだな、と先輩を見ているとたまに思う。
「お、お疲れ様です……?……あ。先輩お先に失礼します!!」
「お、おう。おつかれ……?」
言うが早いか、階段を駆け下りる。まだ蒼太先輩と話していたいが、廊下の先に美月先輩の姿が見えた途端、何故か足が動いた。
振り返りたい気持ちを抑えて走り続け、気付いたら家の前にいた。どうやら体は帰り道を覚えていたらしい。
「ただいま……」
誰もいない空間に形だけの挨拶を投げ、自分の部屋へと向かう。ほぼ倒れ込むようにベッドに身を投げた。
セミの鳴き声と共にグラウンドから元気のいい声が聞こえるてくる。
遠くを見れば海が光を受けてキラキラ輝いてその上には大きな入道雲が浮かんでいる。
あぁ、もう夏だな……道理でこんなに暑いわけだ……。
腕にペタッと張り付いたシャツを引きはがし、手に持っていた下敷きでパタパタと扇ぐ。
視線を部室の中に戻し、斜め前に座っているこの部唯一の同級生、河野亜里沙をチラリを見る。
黒い髪を背中まで伸ばしていて、繊細な肌は病的なまでに白く、触れるだけで壊れそうだ。
本を読みながら髪をかき上げる姿はまさに美少女。同性の私でさえドキッとしてしまう。
じーっと見ていたからか、こちらに気づいた様に顔を上げた。
「…未来?どうしたの?顔に何かついてる?」
「あっ、うん、なんでもないよ!」
亜里沙は本を閉じて立ち上がると、大きく背を伸ばした。
「んー…!はぁ…。」
その一つ一つの動作さえ目を奪われるほどの美しさ、写真に収めたい衝動を抑えた。
「亜里沙ー、今からどうする?」
「んー…どうしよっか」
壁に掛けられた時計をみると、まだ6時位だった。
「帰るにはまだ早いし、先輩達も戻ってきてないし…。」
そう、この部には私達含めて3人の部員がいる。何故そんなに少ない人数で部活が成立しているのかといえば、この部が『天体観測部』という文化系に属してるからだ。
元々歴史が浅い部らしく、五年程前に創部されたそうだ。
しかし侮ることなかれ、設備は十分過ぎるほど整っていて天体望遠鏡なんか一人一台使えるし、個人ロッカーや冷蔵庫も完備。部屋の広さも申し分なく、校舎の三階の日当たりがいいところにこの部室はある。
何故そんなに好条件なのか、それは初代部長が資産家の息子で、学校に多額の寄付をしていたからだそうだ。
そのおかげでどんなに部員が少なくなっても廃部にならないし、天体観測なんてロマンチックなことも出来るというまさに一石二鳥!
…まあ、その他にも入部した理由は沢山あるけどそこは割愛。
なんだかんだで亜里沙と共に入部した私は高校生として初めての夏に直面していた。
ていうか、先輩達はまだ帰って来ないのか…。
「…って、あれ?なんで先輩達いないんだっけ?」
「未来聞いてなかったんだね…。」
呆れ顔でこちらを見ながら、ホワイトボードを指さした。
「ほらここ。夏休み間の部活の申請の締切、今日だって書いてあるでしょ?」
「あ、ほんとだ…。じゃあ、職員室かな?」
「多分ね、まあ蒼太先輩の事だから女子に捕まってるんじゃない?」
「…!そ、そうだよね…。蒼太先輩、モテるしね…」
そう、この部の部長である谷本蒼太先輩は学校中のアイドル的存在で、常に追っかけの女子がいるほどの人気者なのだ。
イケメンで運動神経抜群、性格、成績、共に優秀の完璧超人。我ら明星学園が誇る最高の生徒。それが蒼太先輩なのだ。
「…あ、ごめん。未来、蒼太先輩の事好きなんだよね」
「うぅ…そうなんだけどー…。」
実は私がこの部に入った理由、それは蒼太先輩がいたからだ。部活動紹介の時、一目惚れしてしまい勢いで入部届けを出したのはいいものの、現実はあまりにも残酷だった。
「でもさー、まさかあの蒼太先輩が美月先輩と付き合ってるなんてね~」
そう、そうなのだ。
入部してから知ったこと、蒼太先輩は一つしたで2年生の羽生美月先輩と付き合っていたのだ。美月先輩も蒼太先輩に負けず劣らず、清楚で上品なお嬢さまって感じの人で噂ではお母さんが女優なんだとか。まさに天の上の人、敵う相手じゃない…。勝ち目なんてないのは解ってる。ちゃんと理解してるはずなのに納得してない自分がいることも知ってる。それがぐるぐる回ってよくわからないのが現状なんだよね…。
「やっぱり私みたいなのが蒼太先輩と釣り合うはずないもんね…」
「そ、そんなことないよっ!未来だって素敵だし、蒼太先輩とだって……!」
慰めの言葉を掛けてくれるのは嬉しいけど、今はその気遣いが肩に重くのしかかった。
「亜里沙、ありがと。……今日は帰るね、先輩達にはよろしく」
「み、未来!……私、なんでも相談乗るから」
「……うん、じゃあ、また明日」
カバンをつかみドアに向かう。亜里沙の視線を感じるが、振り向かない。後ろ手を振ってばいばいする。多分今の顔はなかなか凄いことになっていそうなので床を向いて他の人から顔を隠すように歩いた。何回も通った道、前は見なくても感覚でわかる。
何も考えない様に、無理矢理頭の中に空白を創り出す。真っ白じゃない、何処か儚げな、言葉で言い表せない色。少しずつ別の色が加わり、自在に変化していく。寒色系が多いのは気のせいだろうか。たまに深くなる色合いに、黒に染まってしまうのでは。と心配してみる。
だかそれも杞憂だったようで、また別の色に変わり始める。というか、完成した色がわからない状態では変わり続ける、と言った方がしっくりくる。
揺らぎ、混ざり、変わり、光り、燻り、変動する。
変幻自在といえば聞こえはいいが、言い換えると優柔不断の様で、周りに感化されているだけのようにも思える。
ふと、色の世界に陰りが差した。
現実に引き戻され、色の世界は夕日色に染まった校舎に切り替わる。
顔を上げると、そこには心配そうな顔をした蒼太先輩がいた。
「大丈夫?葛城さん」
覗き込んできた目と目が合った。
……うわぁ、まつ毛長いなぁ。肌も綺麗で色白だし、そりゃあモテる訳だよ。
そんなことを考えているとは露知らず、蒼太先輩は不思議な表情を浮かべた。
「……俺の顔、なんかついてるかな?」
「い、いえ!なにもついてません!……会議、終わったんですか?」
「あー、うん。終わったのは随分前だったんだけど、その後色々と……ね」
はぁーっと大きな溜息をついて疲れたように視線を落とす。モテるって大変なんだな、と先輩を見ているとたまに思う。
「お、お疲れ様です……?……あ。先輩お先に失礼します!!」
「お、おう。おつかれ……?」
言うが早いか、階段を駆け下りる。まだ蒼太先輩と話していたいが、廊下の先に美月先輩の姿が見えた途端、何故か足が動いた。
振り返りたい気持ちを抑えて走り続け、気付いたら家の前にいた。どうやら体は帰り道を覚えていたらしい。
「ただいま……」
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