「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san

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番外編 フェミリアのその後(3)

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 義兄の結婚式から数日後、フェミリアはクリスティーナからお茶会の招待を受けてグリモード家のタウンハウスへやってきた。

「フェミリア様、お待ちしておりました!フルーラ辺境伯様もいらっしゃっていますよ」

クリスティーナがフェミリアをテラスに案内すると、黒のトラウザーズに上質な仕立てと分かる白シャツをラフに着崩して優雅にお茶を飲んでいる彼が長い脚組んで座っていた。

「グルフスタン伯爵令嬢、お久しぶりです。今日はお忙しい中、ありがとうございます」

フルーラ辺境伯は立ち上がってフェミリア前に来ると手を取って、席までエスコートしてくれた。

(……!紳士だわ!)

「早速、お仕事のお話で恐縮ですが、フェミリア様があのドレスを女性騎士様へ紹介してくださったおかげで、すでに予約注文がいくつも入ってきております。メナード辺境伯夫人からもご注文をいただきました」

「そうだったんですね!それは良かったです。あの生地は騎士団の制服にも取り入れたいと義兄が申しておりました。近々、兄から問い合わせの連絡が入るかと……」

「なるほど、騎士団の制服に……」クリスティーナが顎に手を当てて色々と頭で計算している様子に、フルーラ辺境伯は苦笑いしながらフェミリアに話しかけた。

「南の辺境伯騎士団では、すでにあの撥水加工を騎士服に取り入れています。今度サンプルをお持ちしましょう」

「ありがとうございます!」

そしてこの日のお茶会は、南の辺境伯騎士団の話やメナード辺境伯の話で大盛り上がりで、フェミリアはフルーラ辺境伯から、機会があったら是非フルーラ辺境伯領へ来てくださいとお誘いを受けたのであった。


♢*♢*♢*♢*♢*

フルーラ辺境伯とのお茶会から暫くして、フェミリアは騎士団長室に呼ばれた。

「グルフスタン君、来週から10日ほどフルーラ辺境伯領に行ってくれないか?」

「えっ?フルーラ辺境伯領ですか?」

「あぁ、急で申し訳ないんだが、王弟殿下夫妻が来週からフルーラ辺境伯領の視察に行くことになってね。護衛として君が指名されたんだよ」

「わかりました、すぐに準備をいたします」

「王太子妃殿下の護衛には新しく新人を入れることになったから、安心して行って来てくれ」

「畏まりました」

騎士団長室を出ると、フェミリアはふぅ~と息を吐いた。

(王太子妃殿下の護衛チームに新人が入るのか……。女性騎士の同期も半数は結婚して退団していったからな……。私も古株になってきたな……)

♢*♢*♢*♢*♢*

フルーラ辺境伯領へ向かう当日、フェミリアは集合場所の王宮入り口で王弟殿下夫妻を待っていた。

「フェミリア様、お待たせして申し訳ございません!」

クリスティーナとレイ、そして執事のセバスが馬車から降りてきた。

「えっ、南の辺境伯領に向かうのは王弟殿下夫妻とセバス殿と私だけですか?他の護衛や侍女は?」

クリスティーナはニマリっと笑うと、「ふふふっ。このメンバーに護衛も侍女も必要ありませんから。フェミリア様には護衛の仕事ではなく、ドレス生地の改良担当として同行していただきたいのです」

「確かに……。護衛がいる方が足手まといになってしまいそうですね。私で務まるか不安ですが、お手伝いさせていただきます」

そしてその場から、レイはセバスと、そしてクリスティーナはフェミリアと腕を組んで、フルーラ辺境伯領へ転移した。


その頃、フルーラ辺境伯城では……

「坊ちゃま、ウロウロと歩き回っていないで、お茶でも飲んで落ち着いてください!」

「だって、この機会にフェミリア嬢に求婚しろって王弟殿下夫妻からハッパ掛けられてるんだぜ!確かに俺の一目惚れだったけど、いつバレたんだぁ~!クリスティーナ殿の眼力、恐るべし」

玄関前でルキリアと執事が大声でやり取りしていると、祖父母が呆れた顔で残念そうな視線を向けながら孫が大騒ぎしているところへやってきた。

「ルキ、落ち着きなさい。ばあ様の新作でも読んで感想を聞かせておくれ」

「そうじゃ、今回のばあさんの新作は面白いぞ!タイトルは『王宮侍女は見た!』だぞ」

(ちょっとタイトル古いなぁ~っていうか、この世界ならまだアリか……?)

ルキリアの祖父母であるフルーラ前辺境伯夫妻は、時代は違うが二人とも日本で暮らしていたという前世持ちであった。そして幼い頃に両親を魔獣のスタンピードで亡くしたルキリアも実は前世持ちで、前世の技術を使った魔道具を駆使しながら幼い頃から魔獣と戦っていた。


「ルキリア様!王弟殿下夫妻御一行が到着されました!」

門番が全速力で城の正面玄関前に走ってくると、その後ろから手を振りながらクリスティーナ達がゆっくりと歩いてきた。

「皆様、お久しぶりでございます!暫くお世話になります」

クリスティーナ達が城に入ると、いつの間にか整然と並んだ侍従やメイド達がきっちり45度の角度にお辞儀をして皆を迎えた。

(ちょっと……、お前達、気合い入りすぎじゃねぇ?)

ルキリアは侍従達の気合の入ったオーラに少し引いたのであった……。


「クリスティーナ殿、久しぶりじゃなぁ。丁度、新作が書き終わったから、滞在中に読んで感想を聞かせてほしいんじゃが、時間はあるかのぉ?」

「セイ様!新作でございますか!ぜひ、読ませてください!」


クリスティーナとルキリアの祖母が盛り上がっている横では……

「セバス殿、米から作った『酒』の試作品が出来たんじゃ。今夜、一杯やらんかの?」

「ハン様、それは素晴らしい!ぜひ、試飲させていただきたい!」

この二人も、ヒソヒソと何やら盛り上がっていた……。


そしてレイは、ルキリアを肘で突くと、目線で何かを合図するように頷いた。

(わかりましたよ!わかってますから!急かさないで~)

「フェミリア嬢、ようこそフルーラ辺境伯へ。この領地は沢山の種類の果物が特産となっていて王都にはない珍しい物も沢山ありますから、時間のある時に市場へ案内させてくださいね」

「はっ、はい。ありがとうございます」

(皆の生暖かい視線が痛いよ!)

ルキリアに睨まれた執事は、平然とした顔で「お部屋へご案内させていただきます」とフェミリアへ微笑んだ。

レイとクリスティーナ、そしてセバスは、日当たりのいい客間へ案内されたのだが……


「えぇ~!私がこの部屋を使うのですか !」

フェミリアが案内されたのは、何故か辺境伯夫人用の部屋だった……。

「フェミリア様、あいにく女性用の客間が改装中でして、こちらのお部屋しか空いていないのです。大変申し訳ありませんが、滞在中はこちらのお部屋をお使いいただけますでしょうか」

案内してきた侍女は、フェミリアに申し訳なさそうな風を装った顔でしれっと言い訳をした。

「私は騎士用宿舎で構いません。次期辺境伯夫人がお使いになるお部屋を使うわけには……」

(いえいえ、貴方様が次期辺境伯夫人となられるので無問題ですから)

「この辺境伯騎士団には女性用の騎士宿舎が無いのでございます。女性騎士の方は数名いらっしゃいますが全員が既婚で城の近くに家を構えて住んでいらっしゃいます。短い滞在ですので、遠慮なくこちらのお部屋を使ってほしいと前辺境伯様からも申し付かっております」

(こんな大きなお城なのに、客間が改装中で空いてないってどういうこと???)

「前辺境伯様が仰っているのでしたら……。有難く使わせていただきます」

「何か御用がございましたら、テーブルにある魔道具のボタンを押してください。侍女がすぐに参りますので」

そう言うと、侍女はフェミリアを部屋に押し込んで、パタリとドアを閉めた。

(よし、成功!)

侍女は、近くに隠れていた執事にハンドサインを送ると、執事は頷いて次の作戦の準備に取り掛かったのであった。

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