「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san

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19. クリスティーナの仕事中毒

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 クリスティーナとギルバートは、初会合の翌日から怒涛の日々を送っていた。
 
改革派の初会合でクリスティーナとギルバートの発案が支持され、法律の起案、各領地の特産や資源に合わせた各領地への下請けの提案書の作成や今までの税収と改革後の収益の比較、そして隣国へ輸出するための農地改革の魔道具作成など、クリスティーナ達は改革派の全部門で引っ張りだこにあっていた。

そして王政の廃止については、初代首相のみ改革派の推薦で選ばれた王弟のレイノルドが担当し、王政廃止を施行してからは4年おきに国民全投票で次の首相を決めることになった。そして選挙の方法や魔道具を使用した投票など、クリスティーナとギルバートは寝る間を惜しんで原案や魔道具作成に没頭していた。

クリスティーナが疲れた顔で帰ると、レイとガイが久しぶりにタウンハウスへ訪れていた。

「レイ様!ガイ様!お久しぶりでございます。今日はどうされたんですか?」

「今日は頑張っているクリスに美味しい差し入れを持って激勝に来たんだよ。ギルも魔道具研究所に籠りっきりになっているようだったから、ギルのところにも差し入れを持って行ってきたよ」

「そうでしたか!わざわざありがとうございます」

そういうと、ノアがサッと美味しそうなケーキや王都で人気のスィーツをテーブル一杯に並べてくれた。

「すごい!美味しそうです!」

クリスティーナは、大好きなイチゴのショートケーキを口一杯に頬張って甘味を堪能していると、レイが初めてクリスティーナの前世について訊ねてきた。

「クリスは法律にも詳しいようだが、前世ではどんな仕事に就いていたんだ?」

今まで前世の世界について話したことはあったが、クリスティーナ自身については家族以外に話したことは無かった。

「あっ、私自身のことについてお話したことはありませんでしたね。私は前世で国の税収の監査をする仕事をしていました」

ガイも興味深そうに話を聞いていたが、「あっ……」という気まずい顔をしながら、聞きづらそうに口を開いた。

「クリス、聞いてもいいかな……?クリスは前世で何歳の時にこの世界に転生したの?」

「私が前世で亡くなったのは32歳の時ですね。仕事がハード過ぎて過労で倒れてそのまま亡くなったようです」

「32歳!? そんなに若くして過労で亡くなったって……。クリス、この世界では働きすぎるなよ……って、今もすでに過労……。この状況はなんとかしないとな……」

「レイ様、大丈夫ですよ。これぐらいではまだ過労の域にには達しておりませんから」

クリスティーナはそう言うと、2個目のケーキを皿にのせた。

ガイは「言動が大人びているとは思ってたけど……」と、口に手を当てて驚いていた。

「クリスは前世で結婚はしていなかったのかな?32歳といえば、結婚していてもおかしくない年齢だと思うのだが?」

「前世の世界では、30歳を超えても結婚をしていない人が多かったですね。そういう私も独身で彼氏もいなくて仕事中毒な日々を過ごしてました」

「「仕事中毒……」」

「これは俺達がクリスの仕事量を管理しないと、だな……」

レイとガイは目を合わせて頷き合った。


♢*♢*♢*♢*♢*


そんな日々が半年ほど続き、ようやくナジア国とイディア国へ輸出する魔道具が完成した。暑い気候でも寒い気候でもどんな土地でも農作物を栽培できるような魔道具に改良して他の国にも輸出できるようにした。

この『どこでも栽培セット(名付けはクリスティーナである)』は2つの魔道具をセットで使用する。
まずは約10000㎡(約1町分の広さ)の農地の四隅に結界の魔道具を埋め込む。そしてその結界の中は常に適温と湿度が保たれる。いわゆるビニルハウスの改良系である。そして地面には農地一面に魔シートを張り、前世にもあった『フィルム栽培』の技術を活用した。その魔シート上で作物を栽培することにより、最低限の水分で作物を育てることが出来るものである。

その結界の魔道具は年に1度の魔石の交換で半永久的に使えるが、魔シートに関しては新しく種まきをするごとに交換が必要となる。ということで、魔シートの継続的な販売の契約を結ぶことができ、この技術はガーラ国の独占となるため、この魔道具からは安定した収益を上げることができることになる。

クリスティーナ達は、まずこの魔道具を2国に輸出した利益で、各領地の下請け工場を建設する補助金となる財源を確保することを提案していた。いくら将来的に下請け工場で利益が上がると言っても初めの初期費用が莫大なため、魅力的な改革案を示しても領主達は、なかなか首を縦には降らないだろうと予想したからだった。

そして準備が整ったガーラ国へ、ナジア国とイディア国の視察団が訪れた。広い農地に結界を張って、魔法で寒冷と乾燥地帯を模した環境を作り、その地で魔道具を使用した作物が栽培されているのを見て、驚喜した彼らはすぐにガーラ国と魔道具購入の契約を結んだ。

そして、それと同時進行で改革後の様々な法案も整理されていった。貴族制度が廃止され、各領主が領知事となり、その領知事がオーナーとなって下請け工場が設立されるということは、将来的に前世でもあったような財閥というようなものができるだろうとクリスティーナは予想した。そのため法案には『独占禁止法』の法案も組みこみ、品質の良いものがどんどん開発されて自由競争を促されるような提案をした。

改革派の下準備も順調に進んでいる頃、レイは宰相と一緒に国王に進捗状況を報告にきていた。

「陛下、失礼いたします」

宰相とレイが国王の私室に入ると、国王は侍従達を部屋から退室させてすぐに防音の結界を張った。

「順調に進んでいるようだな」

「はい、各領地に提案する下請けの要望書と改革前後の収益の比較書も出来上がりました」

宰相が提案書の束を国王に手渡すと、国王は目を見開いて書かれてある数字に唖然とした。

「各領地の収益が今までの3割も増えるのか?机上の空論ではなく?」

「はい。すでに外務省とグリモード商会が国交のある国へ輸出の交渉に入っております。イディア国とナジア国へ輸出する魔道具ですが、他国もかなり興味をしめしており、他の生活魔道具や水を確保する魔道具等も予約販売と言う形ですでに売買契約が結ばれています。改革前ですが、すでに国益としての収益予想は昨年の数倍となっております」

「凄いな。この短期間にこれだけの数字を上げることができるとは」

「国営工場ももうすぐ完成する予定で、完成次第すぐに『どこでも栽培セット』の魔シートの量産に取り掛かかります。各領地に提案する下請け内容は、輸出用が5割と自国の流通用が5割と半々にしております」

「そうか、それがいい。輸出ばかりに依存しては国交が途絶えた時に自滅する可能性があるからな。食料の自給自足と国内の国民の生活レベルを上げるにはその割合がいいだろう。レイ、クリスティーナ嬢とギルバート君は大丈夫か?」

レイは腕組みをすると、はぁ~っと溜め息をついた。

「彼らは、良くやってくれていますよ。しかし働きすぎで過労で倒れないか心配で、私とガイが彼らの『仕事中毒』にセーブをかけている状態です」

「ハハハっ、仕事中毒か。レイ、彼らがネズミ達に害されないようにフォローしてやってくれ。すでに各国からネズミ達が入り込んだと情報が入った」

「それはグリモード家からの情報ですか?」

「あぁ、そうだ。彼らの仕事は早くて正確だね。うちと契約してもらえて良かったよ」

グリモード家暗部は、レイからの推薦でガーラ国専属の諜報部隊として移住するとすぐに契約を結んでいたのであった。そしてダリオン国で爵位を返上したグリモード家にガーラ国での男爵位を叙爵させて、魔道具を各国へ流通させる商会として動いてもらうように依頼していた。

♢*♢*♢*♢*♢*

グリモード伯爵が分家に爵位を譲りガーラ国へ移住してから二年が過ぎた頃、ガーラ国外務省からダリオン国へ魔道具の案内書が届いた。その案内書は前世でいう通販カタログのようなもので、商品詳細と絵柄で説明の入ったものになっていた。

ダリオン国王の執務室に、外務大臣がガーラ国からの案内書が届いたことを伝えにいくと、王妃も国王と一緒にお茶を飲んでいたところだった。

「陛下、隣国のガーラ国から新しい魔道具の案内書が届きました」

国王がパラパラと冊子を捲ると、「私も見たいわ」と王の持っていた冊子を取り上げた。そしてつまらなさそうに冊子を閉じた。

「こんなもの別にいらないわよ。こんなガラクタを購入する予算があるんだったら私の最高シルクのドレスを新調したいわ。ガーラ国のシルクは最高品質なんだもの」

「しかし、この気候に左右されないで農作物が育てられる魔道具とうものはこの国でも取り入れるべきかと……」

国王は王妃の持っていた案内書を放り投げると、「こんなものが無くても税収は減っておらんじゃろ。税収が減ったら税率を上げるだけじゃ。何の心配もいらん」と、手を払うように振ると外務大臣を部屋から追い出した。

「はぁ~、この国に先は無いかもしれないな……」

外務大臣は小さく呟きながら王宮の廊下を静かに歩いて行った。
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