「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san

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24. 特級魔術試験(1)

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 「おはよう……」

特級魔術試験の朝、魔法協会の受付で待ち合わせをしていたガイが受付時間ギリギリに現れた。

「ガイ様!おはようございます」

「ガイ、おはよう……って、なんだ、その目の下の隈は!凄い顔してるぞ」

「そうか?朝方まで魔道具の調整をしてたから寝てないんだ、ハハハっ!」

疲れからか?何故かハイテンションのガイが頭を掻きながら試験会場の訓練場へ向かう後ろ姿を、クリスティーナとギルバートは「えっ……?」と首を傾げながら追いかけた。


魔法協会の訓練場に入ると、すでに10名ほどの受験者が各自それぞれに準備をしたり体をほぐしたりしていた。そして試験時間になると、魔法協会の会長と審査員5人が訓練場に入ってきた。

「おはよう皆さん。今日の特級魔術試験のために君達は人一倍の努力をしてきたと思う。今日は君達の素晴らしい魔術を私達に披露してほしい。そして気負わずに力を抜いて今日の試験を楽しんでくれ」

魔法協会の会長が皆に挨拶し、審査員の一人が前に出て手を前に翳すと、受験者全員が筆記試験を受ける部屋へ飛ばされた。

「各自、自分の名前が貼ってある机に座ってください。試験時間は60分。問題は10問全て記述式です。試験用紙に名前を書いたら、自動的に60分がカウントされます。60分経ったら試験用紙は自動的に回収されますので、気持ちを落ち着けて、自分のタイミングでスタートしてください」

(凄いわ!ただの筆記試験なのに、すでにたくさんの魔法が使われてる!楽しい~!)

クリスティーナは、ふう~と深呼吸すると、ペンを持って試験用紙に名前を書いた。

カリカリ、カリカリ……。

クリスティーナが、全問解答して顔を上げると、前に座っていたガイが机に突っ伏していびきをかいて寝ていた。

(えっ?えっ~~~!ガイ様、寝てる!)


筆記試験が終わり、全員の試験用紙が回収されると30分ほどの休憩となった。

「ガイ、ガイ!起きろ、筆記試験終わったぞ」

「えっ……、もう終わったの?速攻で試験問題を解答して、爆睡時間を確保したらスッキリしたよ」

「結構、難問でしたけど、何分ぐらいで終わらせたんですか?」

「10分ぐらいかな?」

「「……」」

ガイは、立ち上がって体を伸ばすとスッキリした顔で「次は訓練場だな。クリス、ギル、行くぞ~」と、弾む足取りで先頭を歩いて行った。



訓練場に全員が揃うと、審査員の他に『光・闇・火・水・風・土』の魔法を使う6人の試験官が並んでいた。

「実技試験は模擬試合じゃ。彼らには試合の相手をしてもらう。各自の持つ魔力と相性の悪い魔力を持つ者が試合相手となる。試験の順番はくじ引きじゃ」

魔法協会会長が試験の説明をすると、一人の受験者が手を上げて質問した。

「この模擬試合は、相手を殺すつもりで術をかけてもいいんですか?」

「あぁ、殺すつもりでいきなさい。どんな道具でも使用してよい。特級レベルの治癒師も最高級ポーションもたくさんあるから心配せんでいいぞ。思いっきりいきなさい」

質問した受験者は、ニヤリとしながら前に並ぶ試験官をじっとりした視線で眺めていた。

(うわぁ~、この人とっても性格悪そう~。えっ?土魔法を持つ女性の試験官の方、彼を見て微笑んでるわ。恐いわねぇ~)


くじ引きをして順番が決まった後、対戦相手が決められて受験者は試験を受ける順番に椅子に座らされた。クリスティーナ達3人の順番は、ガイが一番最後で、次にギルバート、そしてクリスティーナは最後から3番目だった。

「あっ、さっき質問してた彼が、一番最初ね」
「彼が出す術は、ちょっと興味あるね」

クリスティーナとギルバートが身を乗り出して、訓練場の真ん中に立つ二人を見ていたが、側に座っていたガイは、反対側に座っている自分の対戦相手の試験官をじっと見ていた。

「それでは模擬試合を始めます。始め!」

審判がサッと二人の間からグラウンドの外側に転移するとすぐに、受験者は術を発動した。

「雷(サンダー)!」

(えっ!彼、雷魔法を持ってるの?とっても希少な魔力で、この魔力保持者はこの国に数人しかいないって聞いてたけど……)

対戦相手の試験官は、サッと自分を守るドーム型の結界を張ると「ライティング・ロッド」と唱え、ドームの四隅に避雷針を出して受験者の放った雷を避雷針に落とした。

「チッ!」と舌打ちした受験者は続けて術を発動した。

「雷散(サンダースカッター)」

雷があちこちから地面に降り注ぐように放たれると、試験官は表情も変えずに地面の磁力をコントロールしてグラウンドの隅に雷を集めて落とした。

「くそ~!」

(凄いわ!特級魔術師って技量も凄いけど、対応する技のアイディアが柔軟で素晴らしいのね。特級魔術師になるって、そういうことなのね!)

クリスティーナが感動しながら試合を見ている横で、ギルバートもガイも手に拳を握って集中して観戦していた。特に土魔法を持つギルバートは「磁力の使い方が上手い」と感心していた。

最終的に、受験者は対戦者の試験官に雷を通さない砂粒で体の動きを止められて試合終了となった。

魔法協会会長が試合終了後に二人の間に姿を現すと、受験者に今後のためにといくつかの課題を与えた。

「君の雷魔法は威力もあって素晴らしいものじゃ。しかしその威力だけに頼ってはいけない。今後は雷の基本的な性質を細かく研究してみなさい。きっと雷の弱点を補えるものが見つかるじゃろう。君にはまだまだ伸びしろがある。楽しみにしているよ」

そう言って受験者の肩をポンポンと叩くと、審査員の席に戻って行った。


そして次々と模擬試合が行われ、クリスティーナの番となった。

「クリスティーナ、頑張れよ!」「クリスティーナ、楽しんできて!」

「はい!」

クリスティーナがグラウンドの中央に立つと、闇魔法を持つ試験官が歩いてきた。

(闇魔法との対戦ね。初めの攻撃は……。よし決まった!)

審判の掛け声と同時に、対戦相手が闇魔法で私の影を捕えようと魔術を発動した瞬間、クリスティーナは詠唱も無しに対戦相手を光のドームに閉じ込めた。そして蜘蛛の糸のような光の糸で相手をがんじがらめにすると、クリスティーナは『針』と小さく呟き、光の糸から無数の鋭い長い針のようなものが出て容赦なく一気に対戦相手の体を突き刺した。

「そこまで!」

審判が試合を止めに入り、治癒師が治癒魔法を施すと対戦相手を連れてすぐに救護室に転移して行った。

ギルバートは「クリス、早かったな!」とクリスティーナと笑顔でハイタッチしていたが、ガイは引き攣った顔で無理やり笑顔を作り、席に戻ってきたクリスティーナを迎えた。

(やっぱり、彼女はグリモード家だな……。容赦ない……)


次にギルバートがグラウンドの中央で待っていると、風魔法の使い手で有名な魔術師がギルバートの前に立った。

「おぉ~!憧れの貴方に対戦相手をしていただけるなんて光栄です!」

ギルバートは、この国でも有名な魔術師に相手をしてもらえると感動しながら騎士の礼をとった。

対戦相手の試験官も「俺も楽しみだ。全力でこい!」とガハハっと楽しそうに笑った。

審判の掛け声と同時に、ギルバートは重力の術式を相手の立つ地面に展開し対戦相手の風を封じ込める作戦に出た。

「おぉ、重力を操作できるとは、やるじゃねぇか」

ギルバートが重力をかけ続けると対戦相手の周りの地面がすり鉢状に深さ50メートルほどドンっと地面にめり込んで相手の姿が消えた。その瞬間、ギルバートの足元がボコっと盛り上がり、一気に竜巻が空へ巻き上がった。

吹き上げられたギルバートは地面を隆起させてジャンプする足場を作ると『3つ』の魔法を同時に放った。

1つ目は、重力で相手の足を止め
2つ目は、ダイヤモンド級の硬い石矢を無数に相手の背中に放った。
そして3つ目は、……

「風球(ウィンドスフィア)」

相手は超高速な風で球体を作り、風の結界を作り上げてギルバートの攻撃を弾いていたが、急に結界が解かれて、中から対戦相手が目と口を手で抑えてふらつきながら出てきた。

「ギブ……」

皆が首を傾げて、「何があったんだ?」と様子を見ていると、治癒師が走って来て「洗浄(クリーン)」と対戦相手の体に洗浄魔法をかけていた。

魔法協会の会長がグラウンドに入り、「フォッフォッ!面白い作戦を考えたな!」とギルバートの背中をバシバシと叩いて大笑いした後に皆に何が起こったのかを説明した。

「グリモード君は、初めの重力操作をした際に、改良したハバネロの種を対戦相手の体にくっ付けておった。そして相手が風球で結界を張った時にその種を発芽させて辛い粒子を纏った花粉が彼の目や口の中の粘膜に張り付いた。通常のハバネロを500倍の辛さに改良したものが目や鼻にはいったなら、儂もギブするだろうな」

ギルバートは魔法協会の会長に背中を叩かれ、苦笑いしながら頭を掻いた。

「自分より魔力も技量も経験値も上の魔術師と戦うなら、ちょっと汚い作戦を使わないと勝てないなと思って……」

洗浄魔法を掛けてもらって、ようやく立ち上がれるようになった試験官がギルバートの側に来ると「お前、凄いな!」と笑いながら肩を叩いた。

魔法協会の会長は真面目な顔になると、皆に向かって助言をした。

「彼が何でこの特級魔術試験で、このような下級魔法を使ったかわかるかね。勝つためだ。彼はこの試験で自分の技量を見せつけようとはせずに、勝つための魔法を使った。魔法はただの道具に過ぎん。かっこいいものでも何でもない。ただの道具なんだよ。その道具をいかに使うか、その道具を上手く使える者が特級魔術師の資格を与えられる。皆、柔軟な思考を持つんじゃぞ。さあ、あと一人、受験者がおったの。最後の者、出てきなさい」

ガイがグラウンドに出ると、聖騎士の制服を着た背の高い男性が現れた。

(うゎ~!あの人、凄い魔力量だわ。ガイ様ほどではないけど、こちらまで光の魔力が伝わってくる……)

魔法協会会長は、その聖騎士に一言「手加減はいらん」と言い残してホーッホッホと笑いながらグラウンドを出て審査員の席に戻った。

ガイは火魔法で受験登録していたのにもかかわらず、対戦相手は光魔法の聖騎士だった。ガイは、火と闇の魔力を7対3の割合で持っている。対戦相手には、光の魔力と僅かな水の魔力が感じられた。火魔法の受験者には、水魔法を持つ試験官が対戦相手になるはずだったのだが……。

ガイは、「会長、俺に何をさせたいんだ?」とはぁ~とため息をついた。

審判が「始め!」と声を上げたが、二人ともお互いの様子を見やったまま動かなかった。

(うゎ~!2人とも、お互いの魔力の動きを探ってるわ。上級者の戦い方ね……)

勝負は一瞬で終わった。

聖騎士が「うぐっ……」と膝を着いて倒れた。

治癒師が、焦った顔で急いで転移してくるとすぐに最大出力で聖騎士に治癒魔法を照射した。

「心臓と脳は焼いてない。内臓だけだから大丈夫だよ。彼は俺の闇魔法を警戒して身体を光魔法で防御してたから、火魔法で内臓の温度を上げて沸騰させた」

クリスティーナとギルバートは、顔を見合わせて頷いた。

((あいつ(ガイ様)、間違いなくグリモード家に影響されてるな……))
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