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プロローグ
両親との再会
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学生寮から連れ出されたわたくしは、エミィに手を引かれ、校舎の方へ歩いていく。
「お嬢様、お会いになって欲しい方たちがいるのですが……酷い臭いです。どこかで湯は借りられませんか?」
「それなら、客人が泊まれる部屋にバスタブがあったわ」
久しぶりに会ったエミィに臭いと言われ、恥ずかしい思いをしつつも受付で客室の鍵を借りる。ついでに保健室から持ってきた体操着と下着をありがたく受け取った。生徒はともかく、学園の職員は味方のようだ。
服を脱がせてわたくしをバスタブに押し込んだエミィは、布で体をごしごし擦りながら文句を言った。
「まあお嬢様、布が真っ黒ですよ。見てくださいほら! 公爵家では一体どんな暮らしをなさっていたんですか。髪もこんなに真っ白になってしまって、おいたわしや……」
「ふふ、エミィったら」
大袈裟に言うエミィに、思わず噴き出す。こうして彼女の他愛のない冗談にもう一度笑える日が来るなんて。エミィはわたくしの痣にも気付いているだろうに、そこには一切触れないのがありがたかった。そうだ、わたくしにはこんなにも優しい友達がいたのに、どうしてひとりぼっちだなんて思い込んでいたんだろう。
身支度を済ませると、エミィに言われるまま学園長室に向かう。ノックをしてから扉を開けると、学園長と向かい合うようにして座っていたのは――
「おとうさん……おかあさん……?」
「リジー!!」
デミコ ロナル公爵にわたくしを金で売り渡していたと聞いていた、育ての親のボーデン男爵夫妻だった。いや、母のアリナは生みの親だ。メイドだった母に手を出したお父様は、メアリー様の悋気を恐れ、支援と称した養育費と共にわたくしごと母を男爵に押し付けたのだ。
「リジー……こうなると分かっていたら、あの時何があってもお前を手放すんじゃなかった。金なんてすぐに突き返せばよかったんだ。辛い思いをさせて、本当にすまなかった……」
「おとうさん、わたくしを信じてくれるの?」
「当たり前じゃないか! たった五年だけだったが、親が子を信じなくてどうする」
ボーデン男爵――おとうさんは、血が繋がらなくても、公爵などよりもよっぽど父親らしかった。両親に抱きしめられ、わたくしは瞼の裏が熱くなった。この十年、すっかり干上がったと思っていた涙が溢れてくる。入り口付近に控えていたエミィも、ハンカチで目元を押さえていた。
「おとうさん、おかあさん、ごめんなさい……わたくし、ずっと捨てられたと思っていたの」
「仕方ないよリジー。私たちはずっと、借金を盾に会う事を禁じられていたんだから。だがもう大丈夫だ、公爵はお前を勘当したのだろう? もう一度親子に戻ろう」
「グスッ、いいのですか? おとうさんたちが悪く言われたりするのは……」
「構わないわ。もう二度と、あなたを一人で苦しませたくはないの」
懐かしい声と温かい腕に包まれ、わたくしたちは再会を喜び合った。そしてようやく落ち着き涙も乾くのを待ち、見守っていた学園長が口を開く。
「エリザベスさん、とても辛い思いをされてきたのですね。王家や神殿……いいえ、生徒たち一人一人に対しても、わたくしはあまりにも無力。ですが今回ここにお呼びしたのは、会わせたい御方がいるためです。ご両親の他に、もう一人……準備はよろしいですね?」
コクリと喉を鳴らし、わたくしは頷いてその御方をお迎えした。
「お嬢様、お会いになって欲しい方たちがいるのですが……酷い臭いです。どこかで湯は借りられませんか?」
「それなら、客人が泊まれる部屋にバスタブがあったわ」
久しぶりに会ったエミィに臭いと言われ、恥ずかしい思いをしつつも受付で客室の鍵を借りる。ついでに保健室から持ってきた体操着と下着をありがたく受け取った。生徒はともかく、学園の職員は味方のようだ。
服を脱がせてわたくしをバスタブに押し込んだエミィは、布で体をごしごし擦りながら文句を言った。
「まあお嬢様、布が真っ黒ですよ。見てくださいほら! 公爵家では一体どんな暮らしをなさっていたんですか。髪もこんなに真っ白になってしまって、おいたわしや……」
「ふふ、エミィったら」
大袈裟に言うエミィに、思わず噴き出す。こうして彼女の他愛のない冗談にもう一度笑える日が来るなんて。エミィはわたくしの痣にも気付いているだろうに、そこには一切触れないのがありがたかった。そうだ、わたくしにはこんなにも優しい友達がいたのに、どうしてひとりぼっちだなんて思い込んでいたんだろう。
身支度を済ませると、エミィに言われるまま学園長室に向かう。ノックをしてから扉を開けると、学園長と向かい合うようにして座っていたのは――
「おとうさん……おかあさん……?」
「リジー!!」
デミコ ロナル公爵にわたくしを金で売り渡していたと聞いていた、育ての親のボーデン男爵夫妻だった。いや、母のアリナは生みの親だ。メイドだった母に手を出したお父様は、メアリー様の悋気を恐れ、支援と称した養育費と共にわたくしごと母を男爵に押し付けたのだ。
「リジー……こうなると分かっていたら、あの時何があってもお前を手放すんじゃなかった。金なんてすぐに突き返せばよかったんだ。辛い思いをさせて、本当にすまなかった……」
「おとうさん、わたくしを信じてくれるの?」
「当たり前じゃないか! たった五年だけだったが、親が子を信じなくてどうする」
ボーデン男爵――おとうさんは、血が繋がらなくても、公爵などよりもよっぽど父親らしかった。両親に抱きしめられ、わたくしは瞼の裏が熱くなった。この十年、すっかり干上がったと思っていた涙が溢れてくる。入り口付近に控えていたエミィも、ハンカチで目元を押さえていた。
「おとうさん、おかあさん、ごめんなさい……わたくし、ずっと捨てられたと思っていたの」
「仕方ないよリジー。私たちはずっと、借金を盾に会う事を禁じられていたんだから。だがもう大丈夫だ、公爵はお前を勘当したのだろう? もう一度親子に戻ろう」
「グスッ、いいのですか? おとうさんたちが悪く言われたりするのは……」
「構わないわ。もう二度と、あなたを一人で苦しませたくはないの」
懐かしい声と温かい腕に包まれ、わたくしたちは再会を喜び合った。そしてようやく落ち着き涙も乾くのを待ち、見守っていた学園長が口を開く。
「エリザベスさん、とても辛い思いをされてきたのですね。王家や神殿……いいえ、生徒たち一人一人に対しても、わたくしはあまりにも無力。ですが今回ここにお呼びしたのは、会わせたい御方がいるためです。ご両親の他に、もう一人……準備はよろしいですね?」
コクリと喉を鳴らし、わたくしは頷いてその御方をお迎えした。
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