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学園祭準備編
女神の火
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思わぬ人物が容疑者として挙がって狼狽えるが、まだそうと決まったわけじゃない。あたしは深呼吸して心を落ち着かせると、アステル様に頼まれて持ってきた物を取り出した。
「そうだ、アステル様これ……お預かりしていた火時計です。今までありがとうございました」
「お役に立てていたならよかったよ。……あれ」
手に取ってみて、彼は異変に気付いたようだ。気まずくて思わず視線を逸らす。
「すみません、部屋を荒らされた時に壊れたらしくて、回収してから何度か試したのですが、上手く作動しなくて……」
「いや、その事はいいよ。もう『エリザベス』の部屋は使わないんだからね。今日の放課後は、これを使った実験をやるつもりだったんだ」
火時計の実験……? 壊れてしまったのに、よかったんだろうか。首を傾げるあたしに、アステル様はにやりとした……雰囲気だった。
「正確には、火時計の原理だね。ちょうど同じ効果の魔道具を、僕も持っているから心配いらないよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、あわわわ……アステル様、それをどうなさったんですか!」
「借りたんだ、王妃殿下から」
実験室でアステル様が取り出したそれを見て、あたしは泡を吹きそうになった。一方、ラク様はきょとんとしている。
一見、紫色の宝石がついた一対のペンにしか見えないそれは、歴代の王妃だけが持つ事を許されている国宝『女神の火』だった。効果そのものは着火装置なのだが、式典で聖火や花火に点火するといった、主に儀式で使用される神具なのだ。
それを、たかだか学校のクラブ活動で借りてくるなんて……アステル様はどれだけ王妃様と親しくしているの!?
(それにしても、あの宝石には見覚えがあるわ。実際に点火している時は遠目からだけだったけど、もっと近くで……いつだったかしら)
「これを作ったのは、先代ディアンジュール伯爵だ。『女神の火』の特徴は、ただ火を点けるだけじゃなく、調整によって火の温度や色を変えられる事で、ある程度の距離であれば離れていても着火は可能。このように……」
言いながら白鼠にペンを向け、カチリとスイッチを入れる。
途端に青白い炎に包まれる鼠の尻尾。思わず「わっ」と声を上げるが、鼠は平然としていた。かなりの勢いで燃えているけれど、熱くないのかしら……
が、あたし以上にラク様が驚いているようだった。
「あの時の、ヒトダマ!」
「恐らく、飛んでいる虫にでも使ったんだろう。対象が小さくても炎の勢いを拳大にすれば済むだろうから」
「それじゃ、犯人は……王妃、さま?」
これを持っているのが王妃様だけであれば、疑いは出る。でもあたしは、アステル様の先ほどの言葉が引っ掛かっていた。
「作ったのは、先代伯爵とおっしゃいましたよね? ですが『女神の火』は、歴代王妃に受け継がれてきた神具で……」
「そう、この『女神の火』を作ったのが先代だよ。実は国王陛下が学生時代に、自分の王妃と定めた女性に勝手にあげてしまってね。結婚が許されないのなら、せめてこれぐらいはと押し切られて……結局新しく作り直す事になったんだ」
『女神の火』を巡る経緯を語るアステル様は、その陛下の想い人が誰なのかまでは知らないようだ。公にはされていないし、あたしもテセウス殿下から聞かされるまで知らなかった。
(お義母様も、『女神の火』を持っている。だとしたら、やっぱりラク様がみたのは)
不安定な気持ちで、アステル様の手の中の『女神の火』を見つめる。紫の宝石は、まるでこちらをじっと見つめる二つの目玉のようで……
『エリザベス』
「うっ」
「どうしたんだ、リジー!?」
「リジーさま!?」
その瞬間過ぎったイメージに、あたしは口を押えてへたり込んだ。お義母様がいつも大切に抱きしめて持ち歩いていた人形……彼女の紫色の瞳が、『女神の火』の宝石にそっくりだったのだ。
「そうだ、アステル様これ……お預かりしていた火時計です。今までありがとうございました」
「お役に立てていたならよかったよ。……あれ」
手に取ってみて、彼は異変に気付いたようだ。気まずくて思わず視線を逸らす。
「すみません、部屋を荒らされた時に壊れたらしくて、回収してから何度か試したのですが、上手く作動しなくて……」
「いや、その事はいいよ。もう『エリザベス』の部屋は使わないんだからね。今日の放課後は、これを使った実験をやるつもりだったんだ」
火時計の実験……? 壊れてしまったのに、よかったんだろうか。首を傾げるあたしに、アステル様はにやりとした……雰囲気だった。
「正確には、火時計の原理だね。ちょうど同じ効果の魔道具を、僕も持っているから心配いらないよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、あわわわ……アステル様、それをどうなさったんですか!」
「借りたんだ、王妃殿下から」
実験室でアステル様が取り出したそれを見て、あたしは泡を吹きそうになった。一方、ラク様はきょとんとしている。
一見、紫色の宝石がついた一対のペンにしか見えないそれは、歴代の王妃だけが持つ事を許されている国宝『女神の火』だった。効果そのものは着火装置なのだが、式典で聖火や花火に点火するといった、主に儀式で使用される神具なのだ。
それを、たかだか学校のクラブ活動で借りてくるなんて……アステル様はどれだけ王妃様と親しくしているの!?
(それにしても、あの宝石には見覚えがあるわ。実際に点火している時は遠目からだけだったけど、もっと近くで……いつだったかしら)
「これを作ったのは、先代ディアンジュール伯爵だ。『女神の火』の特徴は、ただ火を点けるだけじゃなく、調整によって火の温度や色を変えられる事で、ある程度の距離であれば離れていても着火は可能。このように……」
言いながら白鼠にペンを向け、カチリとスイッチを入れる。
途端に青白い炎に包まれる鼠の尻尾。思わず「わっ」と声を上げるが、鼠は平然としていた。かなりの勢いで燃えているけれど、熱くないのかしら……
が、あたし以上にラク様が驚いているようだった。
「あの時の、ヒトダマ!」
「恐らく、飛んでいる虫にでも使ったんだろう。対象が小さくても炎の勢いを拳大にすれば済むだろうから」
「それじゃ、犯人は……王妃、さま?」
これを持っているのが王妃様だけであれば、疑いは出る。でもあたしは、アステル様の先ほどの言葉が引っ掛かっていた。
「作ったのは、先代伯爵とおっしゃいましたよね? ですが『女神の火』は、歴代王妃に受け継がれてきた神具で……」
「そう、この『女神の火』を作ったのが先代だよ。実は国王陛下が学生時代に、自分の王妃と定めた女性に勝手にあげてしまってね。結婚が許されないのなら、せめてこれぐらいはと押し切られて……結局新しく作り直す事になったんだ」
『女神の火』を巡る経緯を語るアステル様は、その陛下の想い人が誰なのかまでは知らないようだ。公にはされていないし、あたしもテセウス殿下から聞かされるまで知らなかった。
(お義母様も、『女神の火』を持っている。だとしたら、やっぱりラク様がみたのは)
不安定な気持ちで、アステル様の手の中の『女神の火』を見つめる。紫の宝石は、まるでこちらをじっと見つめる二つの目玉のようで……
『エリザベス』
「うっ」
「どうしたんだ、リジー!?」
「リジーさま!?」
その瞬間過ぎったイメージに、あたしは口を押えてへたり込んだ。お義母様がいつも大切に抱きしめて持ち歩いていた人形……彼女の紫色の瞳が、『女神の火』の宝石にそっくりだったのだ。
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