婚約破棄されるらしいので、返り討ちにしてみた結果

森島菫

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第三章 反撃

第二十一話 逆転劇③

「これだけは言い逃れできまい。ガルシア侯爵令嬢のロッカーの中に、リディアのブローチが落ちていたことは」 

 私は俯きながら、あまりの順調さにもはや怖さすら覚えていた。
 まさか、こんなことになるなんて思わなかった。

 ──殿下が自ら罠に嵌まってくれることになるなんて。

 私は、顔を上げて真っ直ぐに殿下を見据える。
 その間、彼は何も言わない私に気を良くしたのか流暢に話し出した。

「ガルシア侯爵令嬢のロッカーにリディアのブローチが入っていた。彼女は、このブローチは自分のものではないと言い、なぜ入っていたのか分からない様子だった。それはつまり!リディアがガルシア侯爵令嬢のロッカーを無断で開け、ブローチを落としたということだ!なぜ無断で他人のロッカーを開けたのか?やましいことをしようとしていたからに違いない!」

 決まった、といった表情で高らかに告げるクレイグ殿下。

「……そうですか、彼女のロッカーに私のブローチが」
「ああ、そうだ!」

 殿下は会場中の人々に見せびらかすように、ブローチを高く掲げた。

「本当に、よくできていますね」

 感心しながら、私はポケットから出した本物の自分のブローチと見比べる。
 色、形、大きさ、デザインなど、見た目はどちらもほとんど同一に見えるように作られている──そう、

「は……!?」

 殿下が私の持つブローチに目をやり、そのまま見開いた。

「リディアのブローチが、二つ……!?」

 思ったことと感情が駄々漏れですよ殿下。

「どういうことか、私が説明いたしましょうか」

 驚きで返事もできないらしい彼を一瞥し、私は簡単に仕掛けを教えることにした。

「実は殿下がお持ちになっているそのブローチは、偽物です。金具の裏側に、きちんと『偽物』と掘ってありますよ」
「何だと……!」

 そんな馬鹿な、と呟きながら、殿下はブローチを裏返す。

 あら、殿下の口が半開きになったわ。

「そのブローチは、一週間ほど前にこちらで用意したものです。殿下の御目につくような場所に置いたのですが、ブローチを手にした殿下は私に返すことなく今日を迎えられました──私の罪を作り上げるために」

 静かに淡々と告げる私に言葉を返すわけでもなく、殿下はただ衝撃を受け止めているようだった。

「なぜ私が偽物を用意したのか、お分かりですか、殿下?」

 茫然と立ち尽くす彼を眺めながら、私は口を開く。

「殿下の理不尽を明るみにするためですよ」

 にっこりとそう告げると、彼は目を見開いた。

「これまで殿下は、数々の非道な行いをしてきました。これが、その証拠です」

 そこで、ある映像が映し出される。

『おい』
『はい、何でしょうか』
『これを明日の午後に使うから、調べてまとめておけ』
『あの……殿下、こちらにも都合がありますので、本日はご自分でお願いいたします』
『俺に口答えするのか』
『いえ、そういうわけではありませんが──』
『とにかくそれ、やっておけよ』

 映像の中で、私に書類を押し付け立ち去る殿下。

「ミルトン侯爵令嬢と……クレイグ殿下?」
「どういうことなの」
「普段と全然違うな……これは本当なのか?」

 人々は、信じられないといった表情で映像を食い入るように見上げた。

「今の映像は、殿下が資料集めや政策提案書など、ご自分の仕事を私に強要しているところです。このようなことは、ここ一年半ほど続いております」

 私の言葉に、会場にどよめきが広がった。
 さらに、映像が続く。

『おい』
『はい、何でしょうか』
『今度のパーティーの準備もお前がやってくれ』
『……殿下、少しでもお手を借りることはできませんでしょうか』
『俺に指図するというのか?』

「嘘でしょう……?」
「まさか、あの殿下が」

 次々と流れる映像に、最初こそ半信半疑だった人々も次第に顔色を変えていった。

 そして、今度は画像に切り替わった。そこに登場するのは、二人の男女。

「ねえ、あれって……」
「殿下と、ガルシア侯爵令嬢よね」
「どういうことだ?」

 何枚もの写真が次々と映し出されていく。
 その中には、学園外で撮ったものや、明らかに恋人との触れ合いだと捉えられるものもあった。

「これって……浮気?」
「信じられない!」

 ざわめきが収まらない中、ちらりと殿下を見ると青ざめた顔で立ち尽くしていた。

「皆様、ご覧になりましたか」

 私が声を発すると、会場にいる人々は再びこちらに視線を戻した。

「今お見せしたものが、本当の私達のやり取りです。そして……クレイグ殿下はカミラ・ガルシア侯爵令嬢と、浮気をしています」
「待て、誤解だ!皆の者、リディアの言うことに惑わされてはならない!」

 私の発言に我に返り、慌てて否定し出す殿下。
 その姿は普段公の場で出していた理想の王子様像とは程遠かった。

「殿下。こちら側には確たる証拠がございます」
「そんなものはお前が偽造したに決まっている!」
「私を断罪するために虚偽の罪を作り上げたのは、殿下の方ですよ?挙げ句の果てに私を奴隷として売る、あるいは愛人に据え置くと考えていらっしゃいましたっけ」
「なっ、なぜそれを……!」

 狼狽える彼に、聴衆は眉をひそめた。

「奴隷取引は禁止されているが……」
「愛人だなんて、リディア様を軽んじていらっしゃるとしか思えないわ」

 奴隷取引は禁止。このことは近隣諸国でも当然とされつつあり、厳罰化と摘発が進められている。

 貴族の結婚についても以前とは変わり、サレナ王国では自由恋愛が推奨されている。
 高位貴族や王族は政略結婚の場合もあるにはあるが(私と殿下も政略結婚)、どうしても政治的な婚姻関係が必要な場合以外は、当人の希望に任せようという風潮が強くなっている。

 最近は男女共に、好きな人と結婚したいという意見が急増しているようだ。
 結婚後も、当然たった一人の好きな人に愛情を注ぐ。
 そのため、愛人や浮気といった単語は以前よりも受け入れられなくなってきた。

 ざわめきが収まらない会場。
 すると、ふいに会場の出入口付近がさらに騒がしくなる。
 何が起こったのか──誰が来たのか、おおよその検討はついた。
 おそらく、この騒ぎを聞いて急いで戻ってこられたのだろう。

「これは、どういうことだ」

 普段王宮で会話をする時には見せられたことのない、険しい表情で会場へやって来たのは、国王陛下並びに王妃様。

 カーテシーと挨拶を終えた後、私は当事者として状況を説明した。

「クレイグ殿下が、無実の罪で私を糾弾なさっているところでございます」

 そう言うと、お二人は頭を抱えた。

「なんてことなの」
「こんなことになろうとは」
「父上母上、私は……!」
「クレイグ」
「……っ」

 国王陛下の威圧に押され、殿下は口をつぐむ。

「ミルトン侯爵令嬢、誠に申し訳ない」

 国王陛下は即座に私に向き直り、謝罪の意を述べる。

「いえ、心構えはしておりました。ただ……殿下から謂れのない罪で婚約破棄を告げられたため、こちらからもこの場で申し上げたいことがございます」
「良かろう」

 私が何を言うかを察した様子の国王陛下は、やる方ないといった表情で頷いた。

「これまでどんなに理不尽なことをされても、将来の伴侶になる以上は歩み寄る必要があると思い、我慢をしてきました」

 気付けば会場は静まり返り、私の言葉だけが響き渡る。

「しかし、ある時殿下の浮気を知り、私は決意しました。必ず証拠を集め、正当に婚約破棄をしようと。もう、耐えるのは止めようと」

 一息つき、私は告げた。

「私、リディア・ミルトンは、サレナ王国第一王子であらせられるクレイグ・スペンサー殿下との婚約破棄を申し出ます」
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