婚約破棄されるらしいので、返り討ちにしてみた結果

森島菫

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第三章 反撃

第二十三話 真相

「どういうことだ?カミラは、俺を愛していたのではなかったのか……?」

 殿下はポツリと呟く。

 そう思うのは当然と言えば当然だ。
 カミラ様から接触した上に、婚約者のいる相手と恋仲になる選択をしたということだから。
 まあ、それは命じられたことだったのだけれど。

「殿下……命令を受けたとはいえ、本当に申し訳ありませんでした」

 カミラ様は謝罪し、これまでの逢瀬での言葉は八割が振りだったこと、殿下への気持ちはもうすでに無いこと、そして金輪際関わらないようにすることを述べた。

 殿下は自分への好意がほぼ偽物だったことにショックを受けているらしかった。
 誠実な人なら素直に胸を痛めることが出来たが、相手はあの殿下である。
 正直、自業自得だという気持ちでいっぱいだ。

 そんなこんなで、カミラ様と殿下の関係は終止符を打った。

「殿下」
「……」

 生気が抜けているような彼に向かって口を開くと、彼はゆっくりと顔を上げる。

「政略結婚だとしても、関係改善に努めようとしてきました。全て、上手くいきませんでしたけれど」

 すると、殿下ははっとした。

「政略結婚だ、そのことを聞きたかったのだ。この婚約は、望んだ者の中から選ばれたのではなかったのか!?」
「違いますよ。私に殿下と婚約する意志はありませんでした」
「ならば、なぜお前が俺の婚約者になったのだ」

 そう尋ねられ、私は振り向く。

「陛下……この場で申し上げても?」
「ああ、構わない」

 公の場で口にする了承を得て、私はこの婚約の真相を教えることにした。

「表向きは、爵位や年齢、礼儀作法や教養などを考慮して選ばれたということになっています。ですが、本当の理由は、私の魔力と魔法です」
「……どういうことだ?」
「私は聖属性であり、魔力量が多くあります。その性質を王家の血筋に取り入れ、子孫繁栄に繋げるという目的で、私が選ばれました。このような婚約の仕方はサレナ王国では古くから行われていたそうです。聖属性かつ魔力量の多い者を王家に迎え入れた例は、過去に多々あると聞いています」

 聖属性の者は治癒魔法や聖結界などが使えることから神聖さが連想され、他国では聖人や聖女として崇められることもあるらしい。

 サレナ王国には聖女の存在は無いものの、王家に迎え入れることで神聖さを継承していったという歴史がある。

 もちろん王族全員の婚姻相手が聖属性で魔力量の多い人だったわけではない。
 王の兄弟姉妹や甥姪にあたる者は聖属性を持たない者と婚姻を結んだ事例もある。

 しかし他国との友好のための政略結婚を除いて、王になる者が聖属性でない場合は、配偶者に聖属性をもつ者を据えることが求められていた。

 今代も例に漏れず、殿下は聖属性ではないため婚約者として私が選ばれたわけである。

「そ、そうなのか」

 言われてみればそうだったような気が、と呟く殿下。
 今の今まで、このことが頭から抜け落ちていたらしい。
 国王夫妻はそんな彼を見て、諦めの境地に至っている様子だった。

「婚約の目的を忘れ、浮気はおろか無実の罪でリディア嬢に婚約破棄を告げるなど……王族として、いや、人として恥ずべき行いだ。追って然るべき処罰を下す」
「自分が行ったことをしっかりと反省しなさい」
「……はい」

 何もかも遅いと理解したらしい殿下は項垂れた。

 私はそんな彼に向かって口を開く。

「殿下」

 私の言葉に、殿下はゆっくりと顔を上げた。

「初めて会った時から、五年以上が経ちました。婚約者として接してきましたが、それももうしばらくで終わりです」

 脳裏に浮かぶのは、今まであった様々な出来事や関わってきた方々。
 良くしてくれた国王夫妻や王宮で働く人々との繋がりが切れるようで寂しく思えるが、彼らに会えなくなるわけではない。
 新しい立場でこれからを生きていくだけのことだ。

 私は真っ直ぐに殿下を見据えた。
 最後に、この人に言っておかなければならないことがある。

「この場を借りてはっきりと申し上げますね」

 今までの不満を全て、ぶつけよう。

「まず、誰も見ていない時でも相手のことは名前で呼びましょう。ご自分がしなければならないことはご自分で責任を持って行いましょう。他人に対して見下した態度を取ることは止めましょう。それから、浮気をするのは止めましょう。あまりにも相手に不誠実です」
「え、あ、ちょっ」
「私は上に立つ者の心構えではなく、人として当たり前のことを申し上げています。殿下のこれまでの行いは、率直に言って最悪です。侮辱も良いところです。これから処罰が与えられるかと思いますが、ご自分のこれまでの行いを省みて、性根を叩き直してください。よろしいですか」
「は、はいっ!」

 終始微笑みながら話していたためか、殿下の顎が震えている。

 圧をかけたつもりは無いのだけれど。まあ、どうでも良いわね。
 今後殿下と接する人が、彼の傲慢で不利益を被らなければそれで良いわ。

「クレイグ殿下。約五年半、お世話になりました」
「あ、ああ……こちらこそ。その……申し訳なかった」

 殿下はそう謝罪した。
 もっと時間がかかると思っていたが、すでに反省の色が表れ始めているらしい。

「そのお言葉、受け取りました」

 そして、彼は国王夫妻と共に会場を後にした。

 さてと。私も退席しようかしら。

 私はカミラ様と並び、会場にいる方々に向かって言った。

「皆様、このような晴れの日に騒動を引き起こしてしまい、申し訳ありませんでした。私共は退席いたします」

 カミラ様と一緒に深々と、丁寧にお辞儀をする。

「これまで関わってくださった方々に、心より感謝を申し上げます。この後は、どうぞ皆様卒業パーティーをお楽しみください」

 にっこりと笑ってそう告げる。

 どこからともなく拍手がわき上がり、ひとまず皆さんが私たちの謝罪を受け入れてくださったのだと、安堵した。
 扉の前でもう一度お辞儀をして、私達は会場を出る。

 そうして、婚約破棄騒動は終息に向かっていったのだった。
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