「K」

ルカカ

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第1話 怪物が生まれた夜

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《1. 死刑囚の希望》
 千葉県の刑務所、独房。佐藤悠斗(さとう ゆうと)、30歳は、冷たいコンクリートのベッドに座り、娘・葵(あおい)の手紙を握りしめていた。

「パパ、大好き。早く帰ってきてね」

 8歳の娘の拙い文字が、悠斗の心を温め、締め付ける。3年前、隣家の一家殺害事件の冤罪で逮捕され、死刑を宣告された。妻・美咲(みさき)とは離婚し、葵は美咲に引き取られた。それでも、月に一度の電話で聞く葵の声が、彼の生きる理由だった。

「葵…パパ、絶対帰るからな」

 鉄格子の向こうに、スーツ姿の男が現れた。K特課の主任、黒川誠(くろかわ まこと)。40代半ば、元警察官僚の鋭い目つきと落ち着いた声で、黒川は切り出した。

「佐藤悠斗。君に選択肢を与える。このまま死刑囚として朽ちるか、我々と協力して生きる道を選ぶか」

 悠斗は眉をひそめた。

「協力? 何の話だ」

 黒川は黒い金属製のデバイスを取り出した。USBメモリに似た形状で、ボタンを押すと先端から鋭い針が飛び出す。

「これがKを生み出す道具だ。未知のウイルスが含まれ、覚醒剤の数倍の快感を誘発する。だが、このウイルスがKを生む」

 K特課は30人の死刑囚で極秘実験を行った。デバイスでウイルスを注入し、3人だけがKに変身。そのうち、自我を保てたのは悠斗ただ一人だった。
 他の2人は数日後に身体が崩れ死に、悠斗だけが生き残った。さらに、彼はデバイスを再び使うことで人間に戻り、ウイルスを体内からデバイスに戻せる唯一の存在だと判明した。

「君は特別だ」
 
 黒川の声は低く響いた。

「Kに変身しながら自我を保ち、ウイルスを操れる。我々にはKを倒す戦力が必要だ。君の力ならそれが可能だ。成功を重ねれば、死刑の取り消し、釈放の可能性もある」

 悠斗の心臓が跳ねた。

「葵に…会えるのか?」

「約束はできない。だが、可能性はゼロではない」

 黒川の言葉に、悠斗は拳を握りしめた。冤罪で奪われた人生。娘との再会。それを取り戻すなら、どんな危険でも受け入れる。

「…分かった。やるよ」

黒川は頷いた。

「なら、準備だ。最初のKが現れた」

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《2. K特課の動き》
 Kの目撃情報は全国で急増していた。池袋事件以降、千葉では工場地帯で作業員2名が、名古屋では繁華街で若者が犠牲に。
 SNSでは「#Kの脅威」がトレンド入りし、市民の恐怖はピークに達していた。

 K特課本部、地下の作戦室では、モニターに各地のKの映像が映し出される。調査チームのリーダー、林美穂(はやし みほ)、20代後半の研究者が報告していた。

「デバイスのウイルスは覚醒剤以上の依存性を引き起こします。裏ルートで全国に流通しており、入手経路を追跡中です」

 黒川は厳しい口調で言った。

「Kの力は人間の武器では太刀打ちできない。佐藤悠斗が我々の切り札だ」

 その夜、K特課の装甲車は千葉の廃倉庫へ向かった。最新のK出現現場だ。装甲車内で、黒川が悠斗に指示を出す。

「今回のKは自我を失ったタイプ。銃弾も効かない獣だ。任務はKに変身し、デバイスでウイルスを吸収、無力化することだ」

 悠斗はデバイスを握りしめた。心臓が早鐘を打つ。廃倉庫に足を踏み入れると、空気が重く変わった。埃と油の匂いの中、闇で赤い目が光る。Kは巨大な熊のような姿で、鉄骨を爪でへし折っていた。低いうなり声が響く。

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《3. 最初の戦い》

 「…行くぞ」悠斗はデバイスを首に押し当て、ボタンを押した。焼けるような痛みが全身を駆け巡り、身体が膨張。筋肉が異様に発達し、爪が鋭く伸び、目が赤く輝く。
 Kとしての姿――純粋なパワーとスピードが極限まで高まった怪人へと変身した。

 「うおおおっ!」悠斗は地面を蹴り、Kに突進。Kも咆哮を上げ、爪を振り下ろす。鉄骨が軋み、コンクリートが砕ける。
 衝撃波が倉庫を震わせ、廃材が飛び散る。悠斗のスピードがKを上回り、背後に回り込み、拳を叩き込む。Kはよろめき、咆哮を上げた。

 戦いは激しかった。Kの爪が悠斗の腕をかすめ、血が飛び散る。痛みに顔を歪めながら、葵の顔を思い浮かべた。
 「葵に会うためだ…!」 その一念で、Kの動きを見切り、首にデバイスを突き刺した。

「これで終わりだ!」

 デバイスが作動し、ウイルスが吸い出される。Kは悲鳴を上げ、身体が乾いた粘土のように崩れ始めた。数秒後、そこにはやせ細った人間の死体が残っていた。

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《4. 戦いの後》
K特課の隊員たちが現場を封鎖。悠斗は人間の姿に戻り、腕の傷を押さえた。林が駆け寄り、応急処置を施す。

「佐藤さん、無事でよかった…!」

 黒川が近づき、短く言った。

「初戦にしては上出来だ」

「釈放…近づけたか?」悠斗の声にはかすかな希望が滲む。

「一歩前進した。だが、始まりに過ぎない」

 黒川の無表情な答えに、悠斗は唇を噛んだ。

 独房に戻り、葵の手紙を読み返す。

「パパ、大好き」。

 涙が滲む。

「絶対に…帰るからな」

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《5. 黒幕の兆し》
 K特課本部、分析室。林が暗号化された通信ログを解析していた。

「主任、デバイスは裏市場を通じて全国に広がっています。『Kプロジェクト』というコードネームが…」

 黒川は眉をひそめた。

「誰かが意図的にウイルスを広めている。佐藤悠斗が鍵になるかもしれない」
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